『すばらしい医学』シリーズ累計21万部

コードブルー3 医師が解説|大動脈断裂(破裂)はなぜ助からないのか?

みなさんの質問にお答えするコーナー、今回で6回目です。

前回の第7話の内容について、以下のような質問をいただきましたので、お答えしたいと思います。

前回、大動脈の断裂があった男性の患者さんが、救命できないから諦める、というシーンがありました。

大動脈が断裂したらなぜ救命できないのでしょうか?

その部分を縫ったり道具で止めたりできないのでしょうか?

by ポニーさん

前回の第7話では、踏切事故で高齢女性を救おうとして負傷した若い男性が出てきました。

白石(新垣結衣)と灰谷(成田凌)がドクターヘリで現場に向かいますが、彼らの目の前で男性は心肺停止状態になります。

その場で開胸した結果、大動脈の断裂があることがわかり、治療を断念する、というシーンがありましたね。

遠隔カメラで見ていた藍沢は、何とか救命しようとする灰谷に、

「大動脈破裂だ、可能性はゼロだ。諦めろ、灰谷」

と指示します。

私の第7話の解説記事でも、大動脈断裂(破裂)は救命できないため、「トリアージの分類は黒(救命できないので搬送しない)」という話をしました。

では、なぜ大動脈断裂は「可能性がゼロ」なのでしょうか?

簡単に説明したいと思います。

 

大動脈が断裂したらどうなるか?

ところで、みなさんの血圧はどのくらいでしょうか?

多くの方はおおよそ、上が110〜130下が70〜90といったところでしょう。

心臓は血液を送り出すポンプですので、収縮したり拡張したりを繰り返しています。

当然収縮したときに最大の圧が出ますし、一番拡張した時に最低の圧が出ます

「上」と「下」というのは、正確には「収縮期圧」「拡張期圧」のことです。

この血圧の単位はmmHg(ミリメートル水銀柱)です。

つまり、120 mmHgとは、水銀を120ミリメートルの高さまで吹き上げる圧ということです。

日常生活で水銀を使うことはありませんので、こう言われてもピンとこないでしょう。

そこで水に直してみましょう。

水銀は水より14倍重い金属です。

120 mmHgは、水に直すと、1680 mmH2O、つまり、水を1.68メートル吹き上げる圧です。

これは、大人の身長と同じくらいの高さです。

大動脈は太さが2.5〜3センチほどある、体の中で最も太い動脈です。

これが断裂すると、この太さのある血の柱が1.68メートル吹き上がるほどの勢いで出血することになります。

一気に大量の血液が失われ、あっという間に心停止します。

まず救命は間に合いません。

 

ここで「吹き上がる」と書きましたが、実際には吹き上がりません。

大動脈は、胸の中では「縦隔(じゅうかく)」という、狭い空間の中に閉じ込められているからです。

つまりこの空間の中に大量に血液が噴出して心停止、という流れになります。

 

第7話で白石は、救急車内で男性を開胸して胸の中に手を差し入れたのち、すぐに大動脈の損傷がある、と気付きましたね。

この縦隔という空間に大量の血液が溜まっていたからです。

白石が言った

「後縦隔(こうじゅうかく)にひどい血腫・・・」

というセリフは、縦隔の背中側に大量の血液の塊がある、という意味です。

 

もちろん完全な断裂ではなく小さな損傷であれば、大動脈を一時的に遮断してすぐに搬送すれば救命できる可能性もあります。

しかし、今回のようなケースでは、仮に止血ができたとしても、結果的に救命は非常に難しいと思われます。

他にもたくさんの臓器損傷を負っている可能性が高いからです。

なぜそういうことが言えるのか?

外傷には以下の2つの種類があることがポイントです。

広告

 

鋭的外傷と鈍的外傷

外傷には大きく分けて2つの種類があります。

鋭的外傷鈍的外傷です。

「鋭的(えいてき)」とは、鋭いものによって負った外傷です。

つまり、ナイフで刺された、工事現場で鉄の棒が突き刺さった、銃で撃たれた、というような外傷のことです。

一方「鈍的(どんてき)」とはその逆で、鋭くないものによる外傷です。

たとえば、車に轢かれた、高所からの転落で全身を打撲した、工場などで重い扉に挟まれた、といったケースです。

鋭的外傷は、ナイフや銃弾が貫通した部分だけの単一の臓器損傷であることがほとんどです。

一方、鈍的外傷では、臓器が広い範囲で「裂ける」「割れる」「えぐれる」ように損傷すること、多くの場合、複数の臓器が同時に損傷することが特徴です。

 

したがって鈍的外傷は、そもそも損傷した臓器の修復が難しいこと、その臓器を修復しても、他にも多くの臓器損傷があって治療が難しいことが特徴です。

一方鋭的外傷なら、損傷した臓器が比較的「きれいな」傷を負っているために修復しやすく、その臓器さえ早急に修復できれば救命が期待できます。

 

コードブルーの第3話では、ダメージコントロール手術が出てきました。

このとき手術されたのは、病室から自殺を図って転落した男性患者でしたね。

鈍的外傷の典型例です。

この男性患者は、肝臓の破裂が主体でしたが、腸管損傷も起こしていました

1回目の手術中、緋山(戸田恵梨香)が、

「腸管もやってる」

とつぶやきます。

当然、その時点で他にも多数の臓器損傷や骨折もあったでしょう。

ちなみにこの方は2回目の手術で腸管損傷も修復しています。

今回の踏切事故のように全身を打撲した結果として大動脈断裂がある場合、相当強い全身への衝撃が加わったと予想されます

頭からつま先まで全身の臓器が激しく損傷している可能性が高いでしょう。

二重、三重の意味で、残念ながら「救命は絶望的」と言わざるを得ないと思います。

 

コードブルーでは外傷患者が毎回のように登場します。

これは鋭的か?鈍的か?

という視点で見ると、また面白く見られるかもしれませんね。

コードブルー全話解説記事目次ページへ→コードブルー3 医師による全話あらすじ/感想&解説まとめ(ネタバレ)