『すばらしい医学』シリーズ累計23万部

医師は外来で患者を待たせないようもっと努力すべきか

一般的に、病院の外来の待ち時間は非常に長いというのが常識である。

その日に飛び入りで初めて受診する人の待ち時間が長いのはまだ理解できる。

だが事前に予約を取得しているにも関わらず、予約時刻から1時間、2時間という単位で待たされることですら「普通のこと」になっている。

ラッシュ時の地下鉄ですら、1分違わず時刻表通りに来るほど時間に正確な我が国で、これほどまでに予約時刻が守られないのは病院だけだろう。

いつもイライラしている方もいるかもしれないが、多くの方はこれが当たり前だと思ってくれている。

突然他の患者さんが急変したり、予想外に具合の悪い患者さんが外来に来られて時間がかかったりするのは仕方がない、という病院の特殊な事情を寛容に理解してくださっている。

 

だが、患者さんは当たり前だと思っても、医師は当たり前だと思ってはいけない、と私は常々思う。

時間を守る、というのは社会人としての最低限のマナーだからだ。

予約時刻がこれほど守られないサービスなど、他のどこを探してもあり得ない。

決して「普通のこと」ではない。

 

したがって私の外来では「なるべく患者さんを待たせないように」ということをかなり意識している。

もちろん、どうしても全員を予約時刻に間に合わせるのは難しいのだが、なるべく待ち時間は短くなるよう精一杯努力している

そのためには、予約患者数が多い時は特に、どのように話すかなどかなり事前に準備する必要があり、仕事量が増えるのも事実だ。

だが忙しい中、仕事の合間を縫って受診する患者さんも多いのだ。

お互い様である。

お互いがうまく時間を使えるよう同じだけ努力しなければならないと私は思う。

そしてやむを得ず長時間待たせてしまった時は、「お待たせして申し訳ありませんでした」と謝罪する。

言うまでもない。

社会人として当然のマナーだ。

 

しかしこれはあくまで私の考えであり、私の個人的な価値観に過ぎない。

いくら待っても良いからじっくり診察してほしいという患者さんもいるからだ。

医師それぞれの外来のスタイルに私の価値観を押し付けるつもりは全くない。

 

たとえば、私が以前勤めていた職場にいたあるベテラン医師の外来は、待ち時間が常に2〜3時間を超えていたが、誰一人不満を言う患者さんはいなかった

「あの先生はいつもゆっくり話をきいてくれるから、2時間でも3時間でも待つのは苦痛じゃない」という声をよくきいた。

人格的に優れた医師で、私も心から尊敬していた。

結局、患者さんの利益、満足度が重視されるべきで、自分の価値観を患者さんに押し付けるのはやはり間違いである。

 

ただ一つ確実に言えることは、医師は怠慢であってはならないということだ。

つまり、

「予約時刻を意識せずに漫然と外来をする医師」「予約時刻を大幅に過ぎても悪びれず誠意を見せない医師」

は、決して許されないという意味である。

自分なりのポリシーを持って患者さんに誠実に相対しているのなら、その多様な外来のスタイルに口を挟む余地はない。