ブラックペアン第1話|手術シーンがリアルかどうかを判断する方法

第1話の解説記事で、「ブラックペアンではリアリティは追求されていない」ということを書きました。

もちろんドラマですので、現実に即したリアルを過度に求める必要は全くないと私も思います。

これはこれまでも繰り返し述べていることです。

 

ただ、もし私が監修するとしたら、手術シーンはかなりリアルに近い形でないと気持ち悪くて許容できません

「私のようにウザい外科医からのツッコミが怖い」というのもありますが、患者さんに誤解を与えたくない、という思いもあります。

よってドラマの手術シーンがリアルでないときは、

外科医が現場に足を運んでじっくり監修しているわけではない

リアルでなくても全然OK!と許容できる考えの外科医が監修した

外科医が見てリアルにするよう意見したが、面白くないので採用されなかった

のいずれかであろうと予想しています。

 

これまで何度か書いたように、手術シーンはコードブルーが群を抜いてリアルです。

道具の使い方や手の動かし方など、細部に至るまで外科医がこだわり抜いたのが簡単に分かります

一方、今回のブラックペアンでは対照的に、「ドラマによくあるリアルじゃない手術」の典型例があります。

どういう部分が「典型例」か、解説してみたいと思います(批判的な全く意図はありません)。

 

広告

「は、速ぇ・・・やべぇ」みたいなシーン

主人公が目にも留まらぬ速さで技術を見せつける、というのは、医療に限らず漫画やドラマでよくある典型的なシーンですね。

周囲の人が「は、速ぇ・・・なんてやつだ」みたいなコメントを言うアレです。

医療ドラマの手術シーンでこれが出たときは、「リアルじゃない」と判断してOKです

以下が私のツイート。

手術がうまい外科医は、手の動きが非常にゆっくりで、かつ滑らかです。

無駄な動きがないため、常に目標に到達する時間が最短です。

手術中に手がグイグイ高速で動く場面はほとんどありません。

組織や臓器に対して柔らかく手が動くので、無用な損傷や出血が少なく、ゆっくりでありながら、かえって手術時間は短くなります

こういう動作のことを私たちは「愛護的(あいごてき)」と呼んでいます。

外科医にとっては極めて大事な心構えです。

 

グイグイ速く手先が動く人は、雑で出血も多く、止血や損傷の修復に要する時間がプラスされ、かえって時間がかかります

私はビギナーの頃、尊敬する指導医から、

「ゆっくり急げ!」

と言われたことがあります。

矛盾したような指示ですが、実情を言い当てていると思います。

 

医療ドラマで手術の専門家でない俳優がこれをやるのは難しい、という意見はあるでしょう。

ゆっくりやれば、下手に見えてしまうから仕方ないと。

しかし、そうでないことはコードブルーを見ればよく分かります。

藍沢(山下智久)ら救急スタッフの手の動きは、決して激しく速く動くことはありませんが、いかにも「手術が上手い」と思わせるシーンになっています

コウノドリの四宮(星野源)もそうです。

俳優の腕前ではなく、「製作者が手術シーンにどのくらいリアルを追求したか」の違いだけだろうと思います。

 

もちろんブラックペアンの渡海はもはや人格が壊れた異端児なので、「普通でない」演出が必要なのかもしれません。

多才な二宮さんによる一つのショーだと思えば、見応えがあるとも言えますね。

 

「大出血!輸血持ってこい!」みたいなシーン

脾動脈瘤が破裂し、手術中に血液がビューっと吹き出して外科医が大慌て、「輸血持ってこい!」と怒鳴るようなシーンがありましたね。

確かに、手術中に血の柱が立ち上がる、ということは普通にあります

動脈性の出血は、血圧と同じ高い圧で吹き上がるので、顔にかかることもよくあります。

ただ、これまで何度も書いてきたことですが、こういう出血は対処がそれほど難しくはありません

血の柱が立ち上がるということは、出血した部分がピンポイントで見つけやすいということです。

血柱の根元(今回なら脾動脈)を押さえるなり、出血点の前後を遮断(クランプ)すれば止血可能です。

動脈性の出血は見た目こそ派手ですが、全く慌てません

 

本当に怖いのは静脈性の出血です。

静脈の血圧は低いので、吹き上がることはないものの、ものすごい勢いで血液が流れ出てきて、「じわーっと水位が上がってくる」ように出血します

血の柱が上がらないので出血点は見つけにくく、止血が難しいこともよくあります

静脈が集まった「静脈叢(そう)」は、血液の流れが一方向でないため、一箇所を遮断するだけで止血はできません。

まさに最も恐ろしい出血です。

ドラマでは、血柱の方が派手で分かりやすいので動脈出血ばかりですが、実際には慌てることはないということです。

 

ちなみに、まだ大量に出血してもいない時点で「輸血持ってこーい!」は言わなくても大丈夫です。

そもそも輸血の指示は麻酔科医の仕事であって、外科医の仕事ではありません

手術開始からトータル出血量がどのくらいか、血圧や脈拍などのバイタルがどのくらいか、といった全身状態は麻酔科医が把握してくれています。

輸血の必要性は、こうした全身管理をしてくれている麻酔科医にしか判断できません

 

私たち外科医が「出血量が多いかな」と思えば、手術中に麻酔科医に、

「いまどのくらい出ていますか?輸血、大丈夫ですか?」

と聞くことはあります。

麻酔科医からは、

「いま○○ccで、バイタルも安定していますし、輸血はまだ大丈夫ですよ」

という返答があって会話が終わります。

外科医が勝手に「輸血!」などと指示を出すと、

「先生は手術に集中してください」

と麻酔科医に叱られます。

 

というわけで、ブラックペアン第1話で見られた「リアルじゃないシーン」を解説してみました。

繰り返しますが、ドラマはエンターテイメントなので「リアルでなくてはならない」とは全く思いませんし、批判的な意図もありません

私が言いたいのは、「私も医療ドラマが好きなので監修させてください」ということです(しつこい)。

毎回言い続けていれば、いつかお声がかかるかもしれないので、しつこく言い続けることにします。

広告


医師。専門は消化器外科。二児の父。
ブログ開設4ヶ月後に月間67万PV達成
時事通信社医療情報サイト「時事メディカル」で定期連載中。
エムスリーでも連載中&「LIFESTYLE」企画・監修。
プロフィール詳細はこちら

ブラックペアン第1話|手術シーンがリアルかどうかを判断する方法」への12件のフィードバック

  1. りこ

    こんばんは。
    余談ですが…
    先生このドラマは演出、プロデューサー、脚本などに携わっている方は、小さな巨人、半沢直樹、下町ロケットなどを手がけた方達のようですよ!
    プロデューサーにブラックジャックによろしくに携わった方がいますが。
    医療ドラマ初心者ですね。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      りこさん
      そうなんですね〜
      医療ドラマは、下手をすると内容がかなりデリケートなので苦情もでかねませんし、楽しいのは大歓迎ですが、その辺は注意してほしいなと思うことはありますね。

      返信
  2. りこ

    先生のおっしゃるとおりですね。
    特に御年配ですと、ドラマを現実だと勘違いしてしまう方も多いのではないでしょうか。
    私の母もその影響からか、外科医は怖い。と言って居ました。人の身体を物だと思ってるとも。笑
    外科医のけいゆう先生ごめんなさい!

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      りこさん
      おっしゃる通りだと思います。
      現実だと勘違いする人から、近いことはしているだろう、程度の人までいるのですが、「現実の誇張ですらないくらいありえない」と分かってほしいな、という思いはあります。
      ブログ記事はそのために更新していますね。
      たまに医療者からも、「視聴者はそのくらい分かっているでしょう」的なコメントが来て、あまりに楽観的なことに驚きますが・・・。

      返信
  3. 草加市

    けいゆう先生

    以前にコメントさせてもらったことがある心臓外科医です。
    毎度のことながら先生の鋭い洞察力で楽しませていただきました。

    甚だ僭越ながら何点か心臓外科医の視点で補足をさせていただきます。

    出血点についてですが、解離した大動脈基部からの出血なので、糸かけはやっても逆効果です。出血点は明らかなのですが、止まるどころか、どんどん大動脈壁が裂けていき、取り返しのつかないことになります。また、大動脈基部にかけられる遮断鉗子、クランプはありません。仮にかけられたとしても、火に油、大動脈壁が裂けて終了になります。従って、置換したばかりの上行大動脈グラフトを遮断し、心筋保護液を投与して心臓を止め、大動脈基部自体も置換する必要がありました。二宮くんがやった通りです。そもそも上行大動脈を置換しているのに基部の解離を見過ごすこと自体が不可能です。というか、基部の大動脈壁が解離していたら、上行大動脈置換の中枢吻合を行うことは不可能です。この点爪が甘いというか、視聴者をだましている言わざるを得ません。

    続いて二宮君は同患者に「佐伯」手術をやったのですが、この点についてもかなり不可解です。まず第一に、どうしてこの患者に僧房弁をいじる必要があったのかが脈絡が取れません。第二に、せっかく基部置換をするために心臓を止めているのに、わざわざ心拍動を再開させ、そこから僧房弁に移るのは無駄以外のなにものでもないです。心臓が止まっている間に僧房弁を修復した方がよっぽど早く手術が終わり、修復のクオリティーもずっと高く、そして早く終わるイコール患者にもやさしいからです。

    ちなみに、人工心肺にのせた心拍動下の僧房弁手術はドラマで取り上げられているような誰にもできない手技ではなく、必要に応じて行われています。ただし、できる修復がよりシンプルなもの(リング形成のみや前尖と後尖のシンプルな糸かけ修復など)に限られます。ただし僧房弁は心臓の左側なので、大動脈弁の逆流があったら空気が全身に回ってしまうのでこの手技は行えません。マニアックすぎるのでこのトピックはこの辺までとします。

    ちなみに、ドラマでスナイプと言われていたものは僧房弁の「形成」ではなく、いわゆるカテーテルの僧房弁「置換」でした。残念ながら、視聴者をここでもだましています。もしかしたら、監修の心臓外科の先生も(ホームページに紹介されてました)このあたりの分野はあまり知らない可能性があります。この技術は以前に植え込まれた人工弁の弁輪に留置する場合はありふれた手技になりつつありますが、患者本人の僧房弁輪にに留置するにはまだまだ先が長いです。逆に、人工腱索という僧房弁の形成で用いる技術を術中に小泉君が使ったようようなカテーテルで留置する手技は既に欧米で治験が行われています。

    「輸血もってこい」についてですが、患者は人工心肺に乗っている状態なので、出血はすべて人工心肺サーキットに回収され、そういう状態にはならないです。100歩ゆずって、人工心肺で回収できないオカルトな出血がどこかにあった場合、例えば腹腔内や後腹膜での術中出血、はその限りではありません。麻酔科が先導を取って患者の血行動態をコントロールするのはけいゆう先生のおっしゃる通りです。ただし、麻酔科が頼りない、何をしていいのかわからなくなる、といったパニック状態は心臓外科では極めて稀とは言えず、外科医が先導を切って臨床工学技士や麻酔科医に指示、時には檄を出すことは珍しくありません。僕は絶対に檄を飛ばさない派ですが。

    おせっかいですいませんが、議論をさらに深くできたらと思い補足させていただきました。

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      草加市先生
      ありがとうございます!
      大動脈解離の手術、心拍動下の僧帽弁手術、カテーテルを用いた僧帽弁置換、術中の出血管理と、私だけでなく、これを読む一般の方にも非常に分かりやすく丁寧な解説なので、大変感銘を受けています。
      お察しの通り心臓外科領域は私は知識が浅いので、今回の本編の解説も1回目と2回目の心臓手術の術式そのものには触れずに、周辺のことを解説するに留めていましたが(3回目の腹腔内出血だけは自分の領域なので書けましたが)、正直「心臓・大血管の手術はこの限りではないかもしれない」と思いつつ書いていました。
      ブログの目的はドラマをきっかけに多くの人に医療に興味を持ってもらうことで、私の記事で多くの方に誤解を与えては本末転倒です。
      もし先生さえ差し支えなければ今回のコメントを記事に転載させていただけないでしょうか?

      このコメント欄は記事の最下部にあるため、ここまで読まない人が多いですし、何より私の力不足で情報量が不十分であることを不甲斐なく感じています。
      専門分野でないなら記事を書くな、という声も聞こえてきそうなんですが、今回のブラックペアンの記事もすでに数万人もの人が閲覧するくらい人気のコンテンツで、「今回は記事にしません」として期待を裏切りたくない思いもあって、解説(というか感想にしましたが)を断行しているところもあります。

      返信
      1. 草加市

        横やりすいませんでした。お願いしますから記事を続けてください、先生(笑)

        先生の記事の読者の方々に役に立ちそうな心臓外科的豆知識はたまに書き込ませていただきます。

        返信
        1. けいゆう 投稿作成者

          草加市先生
          ありがとうございます笑
          「豆知識」というレベルをもはや超えているくらいの素晴らしいコメントですが、是非よろしくお願いします!

          返信
  4. 林檎

    けいゆう先生、先生のTwitterで縫合シーンでの二宮さんの手の動きが逆(正→外側へ ドラマ→手前)とあったのですが、それは右利きでも左利きのドクターでも、正しい方向は同じですか?

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      林檎さん
      同じですよ!
      というか左利きでも手術は右でやります(でないと周囲の人が困る)。
      もし仮に左で縫うとしても、やはり外側へ引くことになると思います。
      二宮さんは左利きだそうですね。でも手術は右側に立ってやるのであれでOKですね。

      返信
  5. きんもくせい

    私も、二宮くん演じる渡海の縫合シーンは、速すぎて違和感を覚えました。
    これはきっと演出で、実際は違うのでは?と思っていたら、けいゆう先生が詳しく丁寧に解説してくださって、とてもわかりやすかったです。
    草加市先生のコメントも、ドラマと現実の違いを教えてくださって、とても勉強になりました。

    顔に血液がかかるシーンも演出かと思いましたが、血柱という表現があるほど現実的なことなんですね。

    ところで、ブラックペアン初回放送日の朝刊に、原作者である海堂さんと二宮くんの対談広告が掲載されていました。
    二宮くんは、外科結びの撮影ではヨンゼロを使っていて、猛練習して傷口がピタッとくっつくくらい結べるようになったそうです。
    でも、心臓血管外科などで血管の縫合に使うハチゼロの糸ではこんがらがってしまった、と書いてありました。

    普通の裁縫の木綿糸でもこんがらがる不器用な私には、医療界もドラマ界も想像もつかない世界なんだと思いました。
    それだけ練習したのなら、あのような速い縫合シーンも必要ですよね(笑)

    返信
    1. けいゆう 投稿作成者

      きんもくせいさん
      教えていただきありがとうございます!
      対談広告は未読でしたので、必ず読んでおきます。
      練習されたんだろうなというのは見て分かりました、すごいですよね。
      肝心の部分はうまくカットされているものの、うまい糸結びの感じは出ていますね(厳密に言うと糸を右手で押す動きが乱暴すぎますが)。

      返信

‘コメントはこちらから’

全てのコメントにはお答えできませんが、ご了承下さい。

下記の「コメントを送信する」ボタンを押してください。