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コードブルー3 第2話感想|医師が思う新人の医者が全然ダメな理由

一般的なブログはいずれもそうなのだが、アクセスの7〜8割程度は検索エンジンからの訪問である。

先週アップした前回記事のアクセスは、驚くべきことに昨日のドラマ放送中(21時〜22 時)が圧倒的に多く、人気検索ワードは、

「コードブルー 新人 不自然」

「コードブルー 若手の医者 できない」

などであった。

ドラマ放送の真っ最中に上記のワードで検索することを思うと、よほど「若手医師たちのできなさは腹に据えかねる」という人が多いものと思われる。

患者さんの立場になれば、「あんな新人に診療されたくない」と思って当然だし、ご家族が入院されている方がいれば、「まさかあんなやつらが・・・」と他人事ではいられないに違いない。

 

しかしそのワードで検索して前回の記事に行き着いたとしたら、その疑問に答える内容にはなっていなかったはず。

このサイトの目標は、「みなさんの日頃の疑問に答える」なので、今回はズバリ「新人医師が全然できない理由」とした。

今回は、まず前半は、なぜ彼らは「全然できない」のか、にスポットを当てて解説する。

そして後半は、藍沢(山下智久)のセリフ(専門用語)を振り返って、ドラマに出てきた症例について簡単に解説したいと思う。

 

なぜコードブルーの若手は全然できないか

コードブルー3に出てくる若手フェロー達は確かに全然ダメである

胸腔ドレーン挿入(胸の空間に管を入れる)では、患者さん相手に何度も失敗し、練習用のキットですら壊しそうになるレベルである。

またヘリで酔わないためのツボを押しすぎたせいで手首を傷め、縫合がうまくできなくなるという「おっちょこちょい」もいる。

そんな中藍沢は、ICU(集中治療室)の患者さんを「最高の練習台だ」などと言い、

「幸いここには若手が腕を磨ける重症患者が山のようにいる」

として、全てを若手にやらせてしまう

そして現場出動時は、「俺は付き添いだ、全患者をお前が見ろ」と、とにかく実践型の教育スタイルである。

藍沢に比べるといくぶん優しい白石(新垣結衣)も、横でアドバイスをしながら、まだ全く手のおぼつかない若手医師にCVカテーテルの挿入(首の頸静脈からカテーテルを入れる)をやらせていた。

 

さすがに「練習台」は問題発言だし、ご家族がICU にいるような方が見たら、「まさか若手にあんなメチャクチャされているのでは」と相当不安になってしまうのではないかと思う。

だが実際にはあれでは若手は育たず、リアルとは言えない描写であるためご安心いただきたい。

 

医療現場では、「クオリティコントロール」「若手の教育」の両立は永遠のテーマである。

クオリティコントロールとは、医療の質を保つこと。

現時点で医療の質を最大にするには、あらゆる医療行為を若手にさせず、熟練した医師のみが行えば良い

しかしそれを続ければ未来の患者さんは救えない

ベテラン医師もいつかは年老い、老眼になり、体力を失い、前線を離脱する。

その時若手ができないままでは患者さんに対して大きな不利益を与える

そこで「患者さんに不利益を与えない範囲で若手の教育を行う」ということが重要になってくる。

もちろんこれはどの職業でも同じだろうが、「若手の教育を優先させすぎると患者さんの命に関わる」という点で、医療現場ではかなりシビアな問題である。

 

そこで若手医師の教育体制の基本原則として

「See one, Do one, Teach one」

と我々医師は口すっぱく言われてきた。

「見て、やって、教えて」の3ステップを繰り返すことで技術が上達するということだ。

 

まずは上級医が何度もやって見せる

それを間近で食い入るように若手が見る

そして何度か見て覚えたら、次は自分がやってみる。

やってみる際も、上級医は必ず横で監視し患者さんに不利益が及ぶ可能性があると判断した時点ですぐに「お取り上げ」である。

そして上級医の前で何度もやって安全にできるようになれば、次は後輩を指導させる。

その際も必ず上級医はそばで監視する

とにかく「安全第一」が絶対条件だからだ。

 

したがって医療現場では、「まずやってみなさい」は決して許されないし、ありえない

死ぬ気で勉強して、上級医の一挙手一投足を見て技術を盗んで、「やれと言われたらいつでも俺がやる」というぐらいのギラギラした姿を見せて、ようやくチャンスが回ってくるものだ

 

よって藍沢先生、白石先生に私が言いたいのはこういうことだ。

まずとにかく何度も自分がやって見せて、若手が「私にやらせてください」と何度言ってこようとも「まだダメだ」と言って欲求不満をためさせるくらい勉強させなくてはならないですよ

毎度の迷惑な現役医師のツッコミである。

 

藍沢のセリフ徹底解説

今回は、マリーナでクレーンによって吊られた船が落下する事故で母親と娘二人が重傷となり、藍沢と新人の横峯(新木優子)がドクターヘリで出動して搬送する、というストーリーであった。

ちなみに、このドラマを見ていると、現場に医師が出動するのが当たり前のように思えてくるが、これはもちろんごく一部の救急救命センターのみで行っていることだ。

普通は、医師は病院で待機し、災害現場から救急隊が救急車で病院へ搬送する。

救急隊に一部の医療行為が許されているので、必要であれば現場、あるいは救急車内で救急隊が処置を行う。

だがこのドラマを見れば、

「医師が現場に行った方がより適切な医療が行え、患者さんの命を救える可能性が高まるのではないか」

と誰もが思ってしまうのではないだろうか?

しかし実は一概にはそうではない

 

私が3次救命救急センターに勤務していた時も現場出動の機会が多かったが、現場に医師が出て行くメリットが大きいと感じるケースはそれほど多くない。

一方で、現場で医師が医療行為を行うデメリットはさまざまにある

 

・医師が現場で医療行為を行うことで搬送が遅れる(救急隊が即座に搬送した方が命を救える可能性が高いことがある)

・現場では使える道具が少なく、医療に適した場所でないため、できる医療行為が限られる(揺れる救急車内では点滴の注射ですらすごく難しい)

・不潔な空間での処置で、感染のリスクがきわめて高い(その場では患者さんを救えても、数日後には感染症で結局患者さんを致命的にする)

 

したがって、これらのデメリットを上回るほどのメリットがある場合に、医師が現場で医療行為を行う意義があることになる。

そして今回のケースはまさにそれに当てはまる代表的な疾患で、「お手本」「教科書」のようなストーリーだった。

さすが、救命救急センターのプロがバックアップしているだけあると感じた。

その今回のケースとは、「心タンポナーデ」「緊張性気胸」である。

 

藍沢のセリフを振り返って簡単に解説してみたい。

 

「一発目のFAST陰性で油断した」

藍沢が患者さんを搬送中に救急車内で、時間にして1.5秒くらいの早口で言った、医療者ですら聞き取りの難しそうな言葉。

この言葉を言ったあと、エコー(超音波)を心臓にあて、心タンポナーデを発見、即座に救急車内で開胸し、患者さんは一命を取りとめる。

 

体の外に大量に出血していれば、目で見てすぐに血が失われていることがわかるので、すぐに止血し、血を足す(輸血する)という方針が簡単にたつ。

ところが、体内に出血している場合は外観では全くわからない

体内への出血とは、お腹の中(腹腔内)への出血、胸の中(胸腔内)への出血、心臓周囲(心のう内)への出血などである。

外傷例ではその見逃しが命取りになるため、体内への出血がないかどうかの確認はきわめて重要だ。

それが簡単に確認できて、現場への持ち出しが可能な道具がポータブルエコー(超音波)である(レントゲンやCT、MRIなどの機械は現場へ持ち出せない)。

 

外傷の患者さんにはエコーを使って、体内に致命的となりうる出血がないかどうかを確認するのが鉄則で、これを「FAST(ファスト)」と呼ぶ。

※FAST: focused assessment with sonography for trauma(外傷に対する超音波での焦点を絞った観察)

最初のFASTが陰性(体内への出血なし)でも、あとからゆっくり出血してくる場合があるため、診療中も何度かFASTを繰り返すのが原則

藍沢のセリフは「油断してこれを怠ってしまった」という意味だ。

最初は心臓周囲には出血がなかったのに、あとから出血してきたというケースである。

 

心臓は、心のうと呼ばれる袋に包まれていて、この袋の中に大量出血すると、心臓の拍動が妨げられる。

これを心タンポナーデという。

外傷で見られる急性の心タンポナーデは、すぐに血液を体外に出さなければ数分で致命的となる

搬送中に心肺停止になるリスクのある病気である。

なお、心タンポナーデの原因となっていたのは心臓に穴が空いていたからであり、これを藍沢は尿道カテーテルを用いて塞ぐ、というファインプレーを見せる。

尿道カテーテルは本来、尿の通り道に挿入し、バッグをつないで尿を貯めておくための管である。

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「今すぐ脱気だ。数分で死ぬ。」

一方若手医師の横峯は、藍沢と別れてヘリコプターで患者さんを搬送するが、搬送中に挿管中の患者さんの換気がうまくできなくなってしまう。

この報告を受けた藍沢はすぐに「緊張性気胸だ」と見抜き、上記のセリフを言う。

緊張性気胸もまた、医師が即座に処置を行わなければ短時間で致命的になる

 

「気胸」とは、気管支や肺に傷がついて胸の空間(胸腔)に空気が漏れ出す病気だ。

その中でも「緊張性気胸」では、傷がついた部位が「一方弁」になってしまうので、息を吸えば吸うほど空気が一方的に胸腔内へ出て行き、戻らなくなる。

胸腔内の圧が高まって心臓を圧迫し、心臓の動きが妨げられて放置すると数分で死に至る病気である。

治療は緊急の脱気(ドレナージ)で、皮膚を切って胸に穴を開けて管を通し、空気を外に追い出すことだ。

まさに今回横峯が、人形相手に何度も練習していた処置である。

私たちはよく、「緊張性気胸のレントゲン写真が残っていると恥ずかしい」と言われる。

レントゲンを撮りにいく時間も惜しいほどの緊急事態なので、「緊張性気胸はレントゲンを撮らずに体の診察だけで見抜いて治せ」という教訓である。

 

以上がコードブルー第2話の感想である。

もはや感想というか「うんちく」になってしまった。

ここまで読んでいただけた方がどのくらいいるだろうか。

お忙しい中、長い間お付き合いいただきありがとうございました。

というわけで来週もお楽しみに!

 

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