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コードブルー3 第8話 感想|私がこの病院での入院をおすすめしない理由

第8話ともなると、そろそろ視聴者も外傷処置の派手な演出や、見栄えのするドクターヘリでの災害現場出動に飽きたのではないか、との製作者側の配慮だろうか。

全体的にずいぶん人間味あふれるスローな展開だった。

フェローの人間的な成長や、救急スタッフらのチームワークの大切さを、「雨降って地固まる」的に描くありがちな青春ドラマ。

そこに患者と医師の不思議すぎる恋愛関係まで盛り込み、ちょっとやり過ぎ感は否めなかった。

確かに、登場人物たちに感情移入するためにはこういう回も必要なのかもしれない。

だが、それに力点を置き過ぎたことで、非常に重要なポイントが語られなかったことに、私はやや不安を感じた

よって今回も、毎週月曜の恒例行事

恥ずかしげもなく盛大にツッコミを入れていこうと思う。

 

針刺し事故後のずさんな対応

空港で突然男性が倒れたとの通報が入り、緋山(戸田恵梨香)、名取(有岡大貴)らがドクターヘリで出動。

現場で名取がライン確保(点滴)をしようと針を刺した瞬間、患者さんが突然暴れ、注射針が緋山の指に刺さってしまう

しかし緋山は動じることなく処置を続け、患者さんを病院へ搬送する。

その後、患者さんが実は西アフリカに出入りするジャーナリストであることが判明。

エボラ出血熱などの血液感染のリスクに怯える緋山だが、後輩である名取を守るためこの針刺し事故の正確な状況は当事者らの間で秘密にされる

名取が針刺しに関与したことを知った新人看護師の雪村(馬場ふみか)には

「心、痛まないんですか?」

とまで言われ、自責の念に苦しめられる名取

 

しかし最後には、幸い緋山に何の感染も起こっていないことが判明し、

「緋山先生が死ななくてよかった」

と安堵の思いで号泣する名取に、

「何度もケガ(失敗)をして他人の痛みを理解できるようになるのだから、駆け出しの医者は治るケガは何回もした方がいい」

と先輩らしく励まして一件落着する。

 

だが私は今回ばかりは、名取に本気で同情せずにはいられなかった

この仕打ちは、さすがのイケ好かない男、名取でもかわいそうである。

今回のドラマで、私が最も正論だと思った、たった一つのセリフをここで挙げよう。

「こんなの普通ならただの針刺しのインシデント報告で済む話だ」

と言った名取のセリフである。

そもそも今回は、患者さんが突然動いたことによって偶然名取の持っていた針が緋山に刺さっただけであり、名取のミスでも何でもない。

本当に「よくあること」である。

 

針刺し事故後の正しい対応?

医療現場で針刺し事故は非常によく起こる。

かく言う私も何度も経験があるし、緋山のように本格的に感染を疑われ、自分の血液検査結果を見るまで不安で夜もあまり眠れなかったこともある

 

リスクがあるのは、今回のような海外で流行している感染症だけではない。

B型肝炎C型肝炎HIVなどの血液感染リスクのある多くの患者さんを、私たちは日常的に診療している。

特に外科系の医師は血液に頻繁に触れるため、感染リスクは常に高い。

そのためどこの病院でも、針刺し事故後にスタッフがどういう順序でどのように対処し、どこに報告を上げるのか、かなり細かく決められている

 

一般には、針刺し事故が起こった時はすぐに処置を中断し、手袋を脱いで手を洗う

その後、感染症科など専門科をすぐに受診し、感染の有無について検査をする。

ここでは、患者さんの診療を一旦中断しても、自分の身を守るためのスピーディーな行動が必須である。

感染の成立を予防できるかどうかは、時間が勝負だからだ

たとえば、HIV感染のある患者さんで針刺し事故を起こした場合、2時間以内に抗HIV薬を予防内服できるかどうかで、感染予防の成否が決まる

よって今回の緋山のように、「そのまま処置を続ける」は絶対に厳禁である。

 

名取が言ったインシデント報告とは?

もう一つ重要なのは、事故の状況を「インシデント報告」という形で、病院全体で共有することだ。

病院では、こうした医療事故の報告手順が厳密に決まっている

一般的には、電子カルテに事故報告専用のソフトウェアが入っていて、そこに事故発生日や状況などを打ち込めるようになっている。

これを院内の安全対策委員会が全て管理する。

 

ここで大切なのは、これが事故の再発予防を目的とした情報収集であり、個人の責任を追及するものではないということだ。

これが大前提にあるからこそ、当事者らは正確に状況を報告できる

 

医療事故はゼロにはできない

大事なのは、事故が起こったときに、どのようにして当事者らが対処し、どういう風に情報を共有するか、ということを常に認識しておくことだ

ドクターヘリが墜落するというまれな事故で、お偉方が集まって仰々しい会議を開いた病院である。

日頃からよく起こる針刺し事故くらいは、適切でスムーズな対応ができるようにしておくべきだ。

事故が起こったことを秘密にして、こっそり自分の血液を検査に回したり、当事者である名取を責めるなど言語道断、絶対にあってはならないことである。

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謎の経過観察入院

一方、自分の目の前で患者さんを救えなかったトラウマで、看護師から叱られるほど必要以上に慎重になっている灰谷(成田凌)。

血液検査やCTで異常が見つからない腹痛の少年を、「何かがおかしい」と言って経過観察を目的に入院させる

この灰谷の勘が当たり、その翌日少年は灰谷の前で突然ショック状態に。

打撲によって脾門部(脾臓の入り口)に仮性動脈瘤(表面が薄くて破れやすい動脈瘤)ができており、これが破裂して腹腔内出血を起こしたことが原因だとわかる。

しかし同時にAAA(トリプルエー、腹部大動脈瘤)破裂の急患が搬送され、藍沢や白石ら中堅スタッフは不在。

病室に残されたのは灰谷、名取、横峯(新木優子)3人のフェローだけ、という危険な状況に陥ってしまう。

結果的には、名取によるREBOA(大動脈内バルーン遮断)で止血を得たところで藍沢らが到着。

現場で開腹手術を行って、こと無きを得る。

 

相変わらずマンパワーの不足した病院で、見ているこちらがハラハラする。

第4話の記事でも突っ込んだが、救急医だけで、救急外来の初診患者と入院患者の緊急対応をするなど、やっぱり無理がある

おかげで、安全のために入院までしているのに、フェローしか対応できずに命の危険にさらされる少年

少年のお母さんはきっと、

「こんなことになるまで何で誰も気付かなかったんですか!?何のために入院したんですか!?」

と怒ったことだろう。

 

では、本当ならどうすべきだったのだろうか?

 

まず、少年は胸部打撲後に腹痛を訴えていた。

CTを見た灰谷は「異常なし」と判断するが、結局少年がショック状態になったとき、

「脾門部に仮性動脈瘤が見つかりました。これが破裂して出血してるんだと思います」

と藍沢に報告する。

つまり灰谷は、初診時のCTで動脈瘤を見落としていたということだ。

最初に軽い腹痛があったのは、動脈瘤からの一時的な出血「警告出血」と呼ぶ)が原因である。

 

本来なら初診時にそばにいた藍沢がCTをチェックし、動脈瘤の存在に気付くべきだったが、不自然なのはそれだけではない。

通常、病院で撮影したCTやMRIなどの画像検査のデータは全て放射線診断科に回され、放射線科医が全てを読影する(異常がないかを調べる)。

彼らは画像診断のプロで、現場で主治医が気づかなかった小さな異常も全てレポートとして報告する

すぐに主治医に伝えた方が良い異常が見つかれば電話をかけ、その所見を伝えてくれる。

私たち臨床医にとって、なくてはならない存在である。

したがって今回は、画像診断のプロも動脈瘤の存在を見落としていたのか、ということになる。

つまり画像検査は普通、現場の複数のスタッフが見て、さらに放射線科が見る、という二重、三重のチェックを通る。

したがって今回、破裂リスクのきわめて高い仮性動脈瘤が、CTを撮ったにもかかわらず放置されていた、という状況は本来あってはならない。

「3人のチームワークで一命をとりとめて良かった」で終わらせてはダメだ。

「破裂を予防するため、事前に動脈瘤をカテーテル治療しておくべきだった」でなければならない。

でなければ、何のために経過観察入院したの?という話になる。

「開腹手術は防げたはずだ」という観点でフィードバックすべきだろう。

 

また破裂が分かって少年がショックになったあとの対応も非常に危なっかしい。

こんな場合は、即座に消化器外科医にコンサルト(相談)、麻酔科医に緊急手術の依頼である。

腹腔内出血に対する手術は一刻を争うが、今回のようにICUのベッドサイドで人だかりを作ってやるような手術ではない

即座にオペ室に運んで、麻酔科に全身麻酔をかけてもらい消化器外科医に手術をやってもらえば良いだけだ。

彼ら3人も、あとは全て外科医に任せてAAAのオペ見学をしている方がよっぽど良い。

 

もちろん、救急医の活躍を描くというのがこのドラマのテーマなので、ある程度現実離れした描写は仕方がない。

ただ、

「よくやった。3人揃うことで12歳の子供の命を救った」

と、フェロー3人のチームワークを褒めて終わろうとする藍沢に対し、消化器外科医である私は、

「いや、もうあんたら、次はいらんことせんでええから早うわしに電話してな」

という気持ちで、椅子から半分腰を浮かせながら見ていたのであった。

 

以上、いつものようにウザいツッコミを何発も入れてみたところで、今回はこれで終わりにしたいと思う。

他の記事も読んでくださっている方ならご存知と思うが、こう厳しく批判的に記事を書いていても、私はコードブルーが大好きである

引き続き、楽しくためになる解説をお送りしたいと思う。

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