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コードブルースペシャル あらすじ&解説①|帰ってきたフェローたちの成長

コードブルースペシャルは、コードブルー1st SEASONの続編として2009年1月に2時間枠で放送された。

実に8年前にもなるが、今見直しても古臭さは全くなく、むしろコードブルーらしいリアルな臨場感をたっぷり味わうことができる。

そして何より、藍沢の育ての親でもある祖母の絹枝さんが完全に回復したり、緋山が事故で心破裂を負い、のちの不整脈の原因となるなど、コードブルーの長い物語において数々の重大イベントが起こるのもこのスペシャル版

コードブルーファンであれば必ず見ておくべき作品だ。

過去作品に関するリクエストにお答えし、今回はこのスペシャル版について徹底解説していこうと思う(以下ネタバレあり)。

 

心筋梗塞に挑むフェローたち

トンネル事故の際、避難命令に背いて治療を継続したことで1週間の自宅謹慎を命じられた藍沢(山下智久)、白石(新垣結衣)、緋山(戸田恵梨香)、藤川(浅利陽介)ら4人のフェローと看護師の冴島(比嘉愛未)。

彼らが復帰するや否や、心筋梗塞(AMI)の重症患者の搬送要請が翔北に舞い込んでくる。

現場に出向いた三井(りょう)は、徐脈(脈拍が落ちる)にまで至っている患者に救急車内で体外ペーシングし、翔北に搬送。

戻ってきたばかりのフェローたちは「戦場にやっと戻って来られた」とばかりに、意気揚々と治療を開始する。

徐脈のある心筋梗塞を見て対応を問われた白石は、

「右冠動脈病変。下壁梗塞ですね。右心不全と徐脈が特徴です」

と持ち前の勤勉さを発揮。

突然Vf(心室細動)になった患者に緋山は即座に除細動を行ない、心拍を再開させる。

看護師の冴島も、カテ室への連絡に加えて、

「バルパンもお願いしておきます」

と的確でスピーディーな動きを見せる。

 

指導医黒田(柳葉敏郎)のもと様々な症例を経験し、圧倒的に成長したフェローたちを描くスピード感たっぷりなシーンからこのスペシャル版は始まる。

3rd SEASON最終回のラストシーンでの、フェローの名取、灰谷、横峯の活躍を彷彿とさせるシーンである。

「コードブルー3 最終話のラストシーンを医師が徹底的に解説してみます」を参照)

白石の洞察力や、冴島の動きがなぜすごいのか?

順に説明していこう。

 

心筋梗塞は、心臓の周囲を取り巻く冠動脈が、動脈硬化などが原因で詰まってしまう病気

心臓の筋肉(心筋)に血流が送られなくなるため、心筋が壊死して動かなくなる。

白石が指摘したように、今回は3本ある冠動脈の中でも右側にある「右冠動脈」が詰まったことで、右冠動脈が血液を送る心臓の下壁が血流不足を起こしていた。

「下壁梗塞」である。

これにより心臓の右側(右心)の動きが悪くなり「右心不全」を起こしている。

 

また心臓には心拍を一定のリズムにコントロールするペースメーカー的な役割をする「房室結節」という部分がある。

この部分への血流の90%が右冠動脈から流れている

したがって右冠動脈が詰まると房室結節の血流不足が起き、脈拍が落ちる(徐脈)というわけだ。

白石は「徐脈+右心不全」を見て「原因は右冠動脈」と即座に的確な考察をしたのである。

 

脈拍が落ちると全身に十分な血流が保たれないため、体外からの電気刺激で心拍のリズムを矯正する必要がある。

これが、三井が行なった「体外ペーシング」だ。

これを小型化した機械「ペースメーカー」で、不整脈のある人はこれを皮膚に埋め込み、機械のリズムで心臓を動かしている(こちらは「体内」)。

もちろんこの三井の処置は「治療」ではなく、病院到着までの「一時しのぎ」である。

根本的な治療は、冠動脈の血流を再開させ、心筋に血流を再開通すること。

すなわちカテーテル治療である。

のちに循環器内科医がカテ室で行ったはずだ。

 

今回は心不全を起こし、この治療まで間に合うかどうかが微妙な状況だったため、さらに心臓のポンプ機能を補助するため「パルパンの準備」という冴島の機転が生きる。

「バルパン」とは「バルーンパンピング (balloon pumping)」の略。

大動脈内に、先端に風船(バルーン)のついたカテーテルを入れ、これを心臓の拍動に合わせて膨らませたり縮めたりする

これによって心臓の動きを助け、心筋への血流を増やす方法である。

ちなみにこのバルーンを開いたままにして大動脈の血流を遮断するのがREBOA(レボア)

3rd SEASON 第8話でフェローの名取が行なった治療だ。

(「コードブルー3 医師が解説|名取のスキル、カットダウンはなぜ褒められたのか?」を参照)

最終的な治療は循環器内科によるカテーテル治療だが、ここに到達するまで全身状態を維持するのが救命救急センターの仕事

まさに彼らはその引き継ぎ役を全うしたのである。

 

絹枝さんはなぜ完全回復したのか?

一方、大腿骨骨折をきっかけに認知症せん妄を起こし、孫である藍沢の顔すら認識できなくなっていた絹枝さん。

ところが突然意識が回復し、全くの正常に戻ってしまう

様子を見に病室に来た藍沢には、

「仕事中でしょ、いいの?」

と自分のことは気にせず持ち場に戻れとばかりに気を遣い、自ら特別養護老人ホームを見つけてきて転院の手続きもしてしまうほど。

一緒に住むつもりでいた藍沢は、祖母との別れに涙を流す。

 

せん妄と認知症の違いについては「コードブルー1st 第6話解説|せん妄って何?家族の病気に医師は動揺するか?」で解説した。

せん妄とは一過性の意識障害で、原因(手術後や環境の変化に伴うストレスなど)がなくなれば完全に回復する

一方、(アルツハイマー型)認知症は、原則的には完全な回復が難しい認知機能障害

高齢者の場合はいずれのリスクも兼ね備えているため、患者さんに認知機能の障害が起きたとき、どちらが原因かという判断は難しい。

実際には「せん妄+認知症」であることが多く、せん妄がある程度は回復しても、進んだ認知症は元には戻らない、というケースが多い。

 

今回の絹枝さんは完全に回復しているため、「認知機能の障害は100%せん妄だった」ということになる。

これほど長い期間意識障害が持続したあと完全に回復するせん妄は異例ではあるが、ないわけではないだろう。

脳外科医西条(杉本哲太)の、

「(こういうケースは)なくはない。骨折後の一過性のせん妄の場合、全身状態の回復によって意識が改善する場合もある」

というセリフの通りである。

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救急医と心臓外科医の喧嘩?

一方、持ち前の強気な性格から、復帰後はこれまで以上に積極性を見せる緋山。

心臓外科に入院中の患者の発熱特徴的な皮疹から心内膜炎を疑い、主治医の心臓外科フェローに血液培養検査エコー検査をするよう提案する。

ところが、治療方針に口出しされて逆上したのか、その心臓外科の女性医師が激怒。

「何の権限があって他科に口出ししてるんです!?クレームつけるのやめてもらえます!?」

と怒鳴り、緋山と一触即発の状態に。

のちに緋山は部長の田所(児玉清)から、治療方針を他科に提言するときは上を通せ、との叱責を受けることになる。

 

女医vs女医の恐ろしい口喧嘩に私も背中が寒くなったが、こういう事件は実は結構「あるある」である(もちろん男性も)。

もちろんこれほど表立って喧嘩することはないにしても、現場での実働はフェローのような若手であることが多いため、若手同士で軽い論争になることは少なくない

また一人の患者さんを複数の科で診ている時は、方針の食い違いはしょっちゅうある

田所の言うように、上を必ず通し、科全体で議論すべきなのは間違いない。

だが他科の医師から何らかの提案や意見があったなら、当然謙虚に受け入れるべきである

患者さんの病状を多くの医師が見ることは、それがうまく働けば患者さんにとってはプラスになることも多いからだ。

この謙虚さを持ち合わせていない医師も少なくなく、今回出てきた心臓外科医はまさにその典型的なパターンと言える。

監修した医師がきっと同じ経験をしたことがあり、そのモデルがいるのだろう。

 

さて、結局最後にこの心臓外科フェローは、

「(緋山が指摘した)皮膚病変は正しかった」

と反省することになるのだが、

そもそも心臓の病気でなぜ皮膚に?

と思った方が多いかもしれないので、心内膜炎について簡単に説明しておこう。

 

心内膜炎とは、心臓の弁に細菌感染を起こす病気だ。

心臓は4つの部屋に分かれており、部屋と部屋との間の扉の役割を果たすのが「弁」である。

ところが、この弁に細菌感染が起こると、弁に「疣贅(ゆうぜい)」と呼ばれる細菌の塊が付着し、そのうち弁が破壊されて働かなくなる

そこから血液中に細菌が巡り、高熱が出る

また、細菌の塊の一部がポロポロと剥がれ落ち、血液中を巡って細い血管に詰まってしまう

皮膚の血管に詰まるとその部分が斑点のような皮疹になるわけだ。

 

診断のためには、まず血液培養検査を行う。

血液を採取して培養し、細菌を検出する方法だ。

健康なら血液は全くの無菌なので、何らかの細菌が出ればそれだけで異常

体のどこかで感染症が起こり、血液中に細菌が巡っていることを意味する。

次に心エコー

弁を直接超音波で見ることで、疣贅の存在を見つければ良い。

今回はおそらく弁が破壊されて使い物にならなくなっていたため、心臓外科で弁置換(人工的な弁、あるいは動物の弁に付け替える)手術を行ったわけである。

 

ただICUだと、こういう皮疹は他科の医師が気づく前に、毎日近くで見ている看護師が気づいて主治医に報告したり、当の主治医が自分で気づくことが普通だ。

手術が必要なほど重度の心内膜炎を、他科の医師である緋山が指摘するまで放置していることはまずありえないので、ご心配なきよう。

 

1週間の謹慎明けでそれぞれの持ち味を見せたフェローたちだったが、このあと彼らを悲劇が襲う。

このあと起こる鉄道での脱線事故については、次回以降の記事でたっぷり解説しよう。