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コードブルー1st 第4話解説②|ミュンヒハウゼン症候群とはどんな病気?

前回記事で、外傷患者の処置について解説した。

今回は、もう一人の患者のミュンヒハウゼン症候群について解説したいと思う。

ドラマを見ていて、

あんな病気本当にあるの?

と思った方も多いだろう。

私の体験も踏まえ、この精神疾患と、その見分け方を紹介したいと思う。

加えて、今回藍沢が命じられた「入退院調整」という仕事が本当にあるのか?

についても解説しよう。

 

ミュンヒハウゼン症候群とは何か?

白石(新垣結衣)は、外来に気分不良を訴えてやってきた患者を診察するが、患者が診察中に突然吐血。

ところが内視鏡(胃カメラ)でも血管造影でも目立った異常が見当たらず、吐血の原因がわからない

その後、今度は低血糖発作で全身性の痙攣を起こすが、精密検査ではやはり低血糖の原因となる病気が見当たらず、頭を悩ませる白石。

原因検索のための試験開腹を検討した矢先、病室のゴミ箱から、血液の入ったビンのようなケースが見つかる。

吐血は自作自演ではないかと疑った白石や黒田(柳葉敏郎)、冴島(比嘉愛未)らスタッフが抜き打ち的に患者のベッド周囲を探ると、インスリンなど多数の薬剤を隠し持っていることが判明

低血糖発作もまた、自らにインスリンを使用したことによるものであることがわかり、

「典型的なミュンヒハウゼン症候群だ」

と黒田は指摘する。

 

ミュンヒハウゼン症候群とは、病気や怪我を捏造し、入院や通院を繰り返す病的な状態のこと。

その目的は、周囲の人からの同情や共感を得ることで、そのためには自らの体に傷をつけたり、危険な薬物を内服したりすることを全くいとわない。

自分の体ではなく、他人の体(多いのは自分の子供の病気や怪我を捏造するもの)を「代理ミュンヒハウゼン症候群」と呼ぶが、目的は同じである。

こちらは子供に薬を飲ませたり傷を負わせたりすることで、周囲からの関心を引きたいという病的な心理によるが、客観的に見れば一種の「虐待」である。

 

ドラマの症例ほど重篤でなくても、似た事例に実際に出会うことは珍しくない。

精神疾患によるため本人に悪意はなく、むしろ苦痛を感じていることも多い。

訴えを尊重し、専門家である精神科医に紹介する必要がある。

ドラマでも、白石や冴島が憤慨して本人を問い詰めるのを遮って、藤川(浅利陽介)が共感を示したことで本人が自分の行為を認めた、という展開だった。

 

ちなみに、似た事例に「詐病(さびょう)」があり、救急外来でこれに出会うことはもっと多い

「詐病」とは、病気でないのに病気である振りをすること

紹介状を作成してもらうなどで、金銭的な利益を得ることが主な目的である。

つまりこちらは精神疾患ではなく、れっきとした「悪意」がある

 

診断のため、精密検査としてこちらが内視鏡検査や治療、手術などを提案すると、急に症状が良くなる、という特徴がある。

病気と診断してもらうことが目的なので、リスクのある検査や治療は当然受けたくないからだ。

一方ミュンヒハウゼン症候群の人は、身体的苦痛を伴う検査や治療、手術を受けることには非常に積極的である。

こうした苦痛により、周囲からの関心をより強く引くことができると考えるからである。

 

また詐病の人は、医学書などを読み込んで、狙った病気の病状や身体所見をかなり勉強し、その病気になりきって現れる。

しかし私たち医師が見ると、あまりに教科書的で典型的な症状ばかりが現れるので、むしろ容易に不自然だと見抜けることが多い。

教科書に書かれてあるような症状が全てしっかりそろった病気に出会うことなど、むしろ珍しいからである。

 

また、いくつか「嘘の症状」を見抜く方法もある。

あまり詳細に書くと問題があるので一例だけ有名なものを紹介する。

たとえば、腕が麻痺している、と嘘をついているケースだ。

神経学的に精密検査をすれば麻痺が本物か嘘かは当然わかるが、これを外来で見抜く方法もある。

 

腕の麻痺があると訴えた人に、その腕を持って垂直に上げた状態で手を顔の前に持ってくる。

ここで手を離すと、麻痺が本当なら上げた腕をコントロールできないので、思い切り自分の顔に手をぶつけてしまう

ところが詐病の人は実際に麻痺があるわけではなく、痛い思いはしたくないので、顔を避けるようにして腕がゆっくりと降りてくる

本当の麻痺だとこういうことはあり得ないので、これで詐病を見抜ける、というわけだ。

 

ともかく、病気でない人が医療者に本当に病気だと信じ込ませることは、ほぼ不可能と思った方が良い。

むろんこの記事を見られている方の中にそんなことをするつもりの人はいないとは思うが・・・。

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入退院調整の大切さ

緋山、白石が外来患者と奮闘する中、藍沢(山下智久)は小休憩。

黒田から、入退院の調整を指示される。

状態の良い方から退院してもらったり、他の病院に転院してもらうことで、救急部のベッドを新入患者のために用意する仕事だ。

 

翔北のように、新しい患者が次々と入ってくるような急性期病院では非常に大切な仕事である。

一人の医師がこういう調整を行うことは少ないが、翔北の救命センターでは担当医制度がなく、全患者を全医師で診ているため、今回の藍沢のような係がいてもおかしくはない。

 

毎日大勢の新入患者がいる急性期病院では、周辺の連携病院(後方支援病院と呼ぶ)、在宅医療に関わる開業医などの協力が欠かせない。

病院のベッドは有限なので、次々に入院する患者数と同じだけ毎日退院、転院してもらわねばならないからだ。

こういう仕事は結構大変で、患者さんに退院や転院を提案すると、

「そんな冷たいこと言わないでください!まだ回復していないしもっと長い間置いてください」

と叱られることも多い。

しかし、そう言うご本人もまた、他の方がある程度回復した時点で退院なり転院してくれたおかげで入院できたわけだ。

希望通り、長期間いていただきたいのは山々だが、何とか頭を下げて協力を求める、というのが我々急性期病院の医師の常である。

というわけで皆さんも、こういう病院に入院した時は、最先端の治療が最速で受けられる代わりに、体の状態が落ち着けば他の方にベッドを譲ってあげてほしいと思う。

 

以上、解説からうんちく、最後は説教と、2回にわたってかなり「めんどくさい」解説になってしまった。

それだけ、コードブルーがリアルで、学ぶところが多いということだ。

というわけで第4話の解説はここまで。

次回もお楽しみに!