コードブルー1st 第8話解説|外傷性結腸損傷 腹膜炎とフリーエアーの意味

やや非現実的な滑り出しで始まった1st SEASONも、徐々にリアリティと緊迫感が増してきた。

今回は、夏祭り中の事故に巻き込まれた一家全員が翔北に搬送されるが、全員キャラは濃い上に病状も多彩である。

しかも今回は、私の専門分野である消化器疾患がメインであった。

セリフには専門用語が連発し、コードブルーらしさ全開の第8話。

疑問点も多かったと思われるが、この解説記事でその疑問を解決しよう。

 

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一家を襲った悲劇、多発外傷

夏祭り中に山車が見物の人混みに倒れ、一家4人が下敷きになってしまう。

父親は、山車の木片が左大腿部から腹部に向けて刺さった状態

祖父は、右腕の骨折と胸腹部の打撲。

母親は、左足関節の骨折。

そして娘は頭と腹部の軽い打撲で軽傷。

 

この中でも最も重症だったのが父親で、腹部に木片が突き刺さり、腹腔内出血を起こしていた。

初療室で藍沢がFASTを行い、

「ダグラスに液体貯留あります」

と言う。

「ダグラス」とは、「ダグラス窩(か)」と呼ばれる骨盤の奥底の空間のこと。

下腹部に出血するとここに血液がたまりやすいため、必ずFASTで確認すべき領域の一つだ。

(FASTについては「【コードブルー3 第2話感想】医師が思う新人の医者が全然ダメな理由」参照)

無事手術によって救われた父親は、一家の中で病状は最も深刻だが、キャラは最も普通である。

というのも、他の3人のキャラはとにかく強烈

 

10歳の娘は初対面の白石を、

「あなた研修医?ちょっとは落ち着いてよ」

と見下したように言い放ち、度肝を抜く。

母親は、

「こんなところに閉じ込められて!ピーピーうるさいし!」

マシンガントークを展開

祖父はバックボードを背中に担いだまま初療室に侵入したり、病室を勝手に抜け出してヘリに乗り込んだり。

とにかくファンキーすぎる家族である。

 

しかしこの一家を数日後に緊急事態が襲う。

手術後経過の良かった父親は、突然娘の前で痙攣、頭蓋内出血が現れる

祖父は突然高熱を出し、腸管損傷が判明

いずれも緊急手術が必要となり、西条(杉本哲太)、黒田(柳葉敏郎)がそれぞれ執刀する。

これらの苦難を乗り越え、一家は全員無事救命される。

 

さて、今回おそらく最も分かりにくかったのは、祖父が手術に至った経緯ではないだろうか?

勝手にモニターを外したせいでアラームが鳴り、「心停止」と誤解して大慌てでスタッフが病室に集まるなど、当初は元気すぎるおじいちゃん。

これは認知症やせん妄の患者さんがよくやってしまう「病棟あるある」だが、今回のファンキーおじいちゃんは意識のはっきりした確信犯である。

(せん妄については「コードブルー1st 第6話解説|せん妄って何?家族の病気に医師は動揺するか?」参照)

実は最も元気そうだったこの人が結果的には最重症だったのだが、その病状の説明には専門用語が多かったため分かりにくかったと推測する。

黒田、緋山(戸田恵梨香)、藍沢(山下智久)のセリフを振り返りながら、じっくり解説していこう。

 

セリフで分かるファンキーおじいちゃんの病態

腹膜炎がわかった瞬間は39.5℃という高熱だったが、いつものように緋山のお尻を触るなどセクハラ行為をしていたこの男性。

お尻を触ったその手を掴んだ緋山が高熱に気づいたことが、精密検査のきっかけとなる。

 

CT室で緋山は黒田に、

腹膜刺激症状が明確ではなかったので経過を見てたんですが・・・」

と言う。

その後CTを見ながら黒田が言ったのは、

「上行結腸の横に小さなフリーエアーがある。腸管損傷は急性期に所見がなくても、あとになって出てくることがある

結腸損傷による腹膜炎だ

 

腹部打撲による腸管損傷で、腸管に穴が開いてしまうことがある。

これを腸管穿孔(せんこう)と言う。

腸に穴が空くと腸の中身が漏れ出し、重症の腹膜炎を起こしてしまう。

腸管の中は細菌が非常に多く、本来無菌状態のお腹の中にこれが広がると、すぐに治療しなければ数時間で死に至る

もちろん腸管穿孔は外傷以外の要因の方が多く、大腸癌憩室(けいしつ:大腸にある壁が薄くなったくぼみ)などが原因になる。

 

高齢者は痛みに鈍いため、この患者さんのように痛みがあまり出ないことも多い

数時間後に死ぬかもしれない病気の人が元気にセクハラをしている、という事態も不思議ではない。

また、数日後に遅れて穴が開くケースもある

この場合は穴が開くまで症状はなく、病室を抜け出すほど最初は元気、ということも十分ありうる。

 

腹膜炎を起こすと、お腹の表面がカチカチに硬くなるなど、特徴的な所見を示すことが多い。

これを「腹膜刺激症状(または腹膜刺激兆候)」と言う。

お腹を触り慣れた医師であれば、触った瞬間に腹膜刺激症状があること、つまり腹膜炎を起こしていることを見抜くことができる

 

診断のために重要なのは、CT検査で「free air(フリーエアー)」を見つけること

フリーエアーとは、お腹の中にエアー(空気)が漏れている所見のことだ。

空気は、本来腸管の中にしかあってはならない

腸管の中には、誰でも口から飲み込んだ空気がたくさん入っている。

それが上から出れば「げっぷ」、下から出れば「おなら」である。

これがCTで見えるのは正常だ。

しかし腸管の外に空気があれば、それは全て異常、緊急事態である

腸のどこかに穴が空いていることを意味するからだ

 

今回のCT写真では、黒田の言うように上行結腸に穴が空いていたことが分かる。

上行結腸とは、大腸の右側15センチくらいの部分のこと。

長い大腸に住所をつけて番地を分けているようなものである。

ちなみに細かい言葉の意味だが、

「腸管」とは、一般的には小腸と大腸を指す。

また大腸のうち、直腸以外の部分を「結腸」と呼ぶ

 

空気はCTで真っ黒に映る。

このCT写真でも、腸の外に小さな粒のような黒い点が見られ、典型的なフリーエアーの写真である。

おそらく誰か実在する腹膜炎の患者さんのCTを、許可を取って借りてきたのだろう。

周囲の腹膜の炎症も強く、少量の腹水も溜まっている。

間違いなく腹膜炎のリアルなCT写真である。

 

だがしかし・・・消化器外科医の私の目は欺けない

残念ながらこのCT写真は、腸管損傷による腹膜炎のものではない。

急性虫垂炎による腹膜炎の写真である

画面左下に腫大した虫垂が写っており、その周囲の炎症が非常に強く、典型的な急性虫垂炎だ。

さすがに私は何百と数え切れないほどの虫垂炎を見てきたので、0.1秒で分かってしまう(逆に消化器外科医がわからなければマズいが)。

 

こちらは同じ腸の穿孔による腹膜炎でも、原因が違う

虫垂炎が悪化し、小さな穴が空いて腹膜炎に至ったものだ。

虫垂炎は外傷性腸管損傷より何百倍も多く発生するので、CT写真も手に入りやすかったのだろうと思う。

もしくは、腸管損傷の患者さんは重症化して亡くなっていることも多く、後から同意が取れなかったのかもしれない。

揚げ足をとるつもりは全くないが、読者のみなさんにはこっそり真実を伝えておきたい。

ちなみに急性虫垂炎は、なぜか昔から「盲腸」と呼ばれている

これがなぜ間違いなのかについては「外来でよく見る患者さんの間違った言葉の使い方を集めました」でまとめているのでご参照いただければと思う。

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どういう治療が必要か?

手術が始まると黒田は藍沢に、

「手順はわかってるな?」

と尋ねる。

それに対して藍沢は、

「ハルトマンですね」

と即答する。

 

大腸に穴が空いて腹膜炎を起こした場合、その穴を縫い閉じるだけでは治らない。

お腹の中に下痢便が広がっている状態なので、いくら綺麗に洗っても細菌を完全に除去することはできない。

したがって、穴を縫い閉じても縫った部分を泥水につけておくようなもの

すぐに再び穴は開いてしまう。

そこで治療としては、穴が空いた大腸ごと切除する必要がある

しかし切除してつなぎ合わせたとしても同じことで、つないだ縫い目は結局うまく繋がらず、また隙間が空いてくる。

よって、切除したのちその上流を人工肛門にし、数ヶ月期間をおいて、体の状態が落ち着いた段階で人工肛門を閉鎖して大腸をつなぎ合わせるという手術を行う。

つまり合計2回の手術が必要ということだ。

 

この「大腸を切除して、つなぎあわせずに上流をそのまま人工肛門にする手術」「ハルトマン手術」と呼ぶ。

私たち消化器外科医が非常によく行う手術である(上行結腸だと普通は行わないので少し矛盾はあるが)。

 

手術自体の難度は高くないが、重度の腹膜炎で体の状態が最悪のタイミングで手術を行うことになるため、術後にスムーズに回復できないことが多い

この男性は80歳とかなり高齢であるため、この手術を行ったとしても救命できない可能性は十分ある

全身性の感染症から立ち直れるかどうかは分からないし、手術がうまくいっても、術後に肺炎や心疾患など他の疾患を併発することも多い。

体の状態は良くなっても、意識の障害が残ったり、人工呼吸器のサポートから逃れられなくなることもある。

高齢者の腹膜炎は、そのくらい危険である

 

手術前に私たち外科医が、

「手術しないと助かりませんが、手術しても助からないかもしれません」

という説明をご家族にしなければならない、代表的な疾患だ。

 

医療ドラマではよく、このように家族に愛された高齢者を描いた上で、

「絶対助けます」

「私、失敗しないので」

のような無責任な説明をする医師が登場することがあるが、コードブルーはそうではない。

黒田と白石はちゃんと、

「手術をしても助かる保証はない」

「手術のあとも回復する保証はない」

「だけどやらなければ死ぬ」

と、文句のつけようのない完璧な説明をしている

小うるさい消化器外科医の私にとっても、ツッコミどころの全くない説明である。

 

というわけで今回は、ファンキーおじいちゃんの徹底解説で終了。

久々の消化器疾患ということで、たっぷり解説させていただいた。

いよいよコードブルー1st SEASON解説も終盤である。

引き続き最後までお楽しみください!


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コードブルー1st 第8話解説|外傷性結腸損傷 腹膜炎とフリーエアーの意味」への3件のフィードバック

  1. レガシィ64

    いよいよ黒田先生の件ですね。
    素人の私は、切断して、左右別々に引っ張って抜いたと思っていたのですが、楽しみにお待ちしております。
    なぜ、良くコードブルーで出た、遮断しての止血が出来なかったのか、切断そのものの事とか、解説していただけると嬉しいです。
    あと、縫合も何時間もかかるのでは、二人の医師だけでは無理では。腕も短くならないのですか。
    過去の映画等でそのようなシーンがあったので、お尋ねさせていただきました。

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      レガシィ64さん
      実は、もう記事は完成しています笑
      いくつか記事に入っていないところをお答えしておきましょう。
      切断の場面、具体的な映像はありませんが、レガシィさんご想像の通り、鉄骨が腕の断面半分くらいのところまでえぐっていて、残りを切断して両方に引っ張ったのだと考えらえれます。これは「断端の挫滅」という話が出てくるからですが、これについては記事に書いているので楽しみにお待ちくださいね。
      また遮断すると止血はできたとおもいますが、鉄骨が挟んでいるため体を搬送できませんし、そのうち腕の先が虚血で腐ってきますので、やはり切断しかなかったでしょう。
      縫合の手術については記事で詳しく書いていますのでお楽しみに!
      ちなみに時間については、夜通しやっていましたよ、時計をなんども写すシーンがあったので、それを表現したかったんでしょうね。
      腕は短くなります。おっしゃる通りです。切断面をきれいなところまで骨を削ってからつなげますからね。

      返信

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