ドクターX 5期 第9話解説|舟状骨骨折が医師にとって鬼門である理由

手と足は、小さな骨がたくさん集まっているのが特徴である。

手の骨は手首から先だけで27個、足の骨は足首から先だけで26個もある。

特にその根元に並んでいる小さな骨たちは、それぞれにその形を由来にした面白い名前がついている。

これらの名前は国家試験に出題されるため、私たちは必死で語呂合わせを使って覚え、合格すればすっかり忘れてしまう(整形外科医以外は)。

ところが、誰しもが何年経っても忘れてはいけない骨が一つだけある。

「舟状骨(しゅうじょうこつ)」である。

まさに船のような形をした小さな骨。

なぜ忘れてはならないのか?

今回のあらすじを振り返ってじっくり解説してみたいと思う。

 

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今回のあらすじ(ネタバレ)

麻酔科医、城之内(内田有紀)の娘が通うバレエ教室の仲間、九重遥は選考会を目前に控える中、足の痛みに悩んでいた。

祖父の節郎(大友康平)とともに東帝大病院に訪れた遥は幸い、余分な骨が炎症を起こす「有痛性外脛骨」と診断され、大事には至らないと説明される。

ところが大門(米倉涼子)は、痛みの原因は「舟状骨骨折」であり、整形外科医の診断の誤りを指摘する。

治療にはネジを挿入して固定する手術と、その後ネジを抜く手術の合計2回が必要。

治療には半年かかるため選考会は諦めざるを得ない。

だが何とか選考会に間に合わせたい大門は、患者自身の骨で作ったネジを使い、1回で手術を終えるという名案を思いつく。

遥の祖父、節郎が町工場を営んでいるところに大門は目をつけ、ネジの製造を依頼。

町工場にはもうしばらく動かしていない旧式の機械ばかり。

しかし節郎は、手術の日まで必死で骨ネジを作るための機械を作り上げ、手術室に持ち込むことに成功する。

結果として大門は節郎のおかげで、手術中に遥の脛骨を用いたネジを手に入れ、手術を成功させてしまう。

 

池井戸潤の小説を思い起こさせる、中小企業の親父のモノづくり精神

旧式の機械を使って大手メーカー以上のものを作り上げ、孫を救う。

私はこういう話は結構好きである。

 

外科領域は、間違いなくこういう工学部系の人たちの技術によって発展してきた。

20年前の外科医が今の時代にタイムスリップしたら腰を抜かすであろうほど、医療機器はものすごい速度で発達している。

その機器の発達が外科医の腕を磨いてきたといっても良いだろう。

今回の話も夢があって良い。

だが、今回のように大門が名案を思いついたとして実現まで何日かかるか?

ドラマの世界なら数日だったが、現実では、残念ながらおそらく半年以上はかかるだろう。

今回はこの舟状骨骨折と、新たな医療技術の導入がどれほど大変かについて解説してみたいと思う。

 

舟状骨骨折の怖さ

冒頭でも書いたように、舟状骨(手にも足にもある)だけはその名を整形外科医でなくとも忘れず覚えているものである。

その理由は、腕の良い整形外科医でもその骨折を見逃しやすいことで有名だからだ

レントゲンでも見つけにくい上、症状が軽いことも多く、今回の整形外科医のように「骨の炎症でしょう」と片付けてしまって治療が遅れることがある。

治療の遅れや不適切な治療によって後遺症を残すリスクがあり、訴訟となる事例も多い

まさに私たち医師にとっては鬼門の外傷である。

 

また今回出てきた、自分の骨を削り取って別の部位に移植する「自家骨移植」というのも実際行われている。

今回のドラマで最初に大門が行なったように、腸骨(腰の骨)を使ったものが多い。

たとえば腕の骨折などで、何らかの理由で治りが悪くて自然にくっつかず、何ヶ月経ってもグラグラのままになってしまうことがある。

これを「偽関節(ぎかんせつ)」という。

本来関節ではない部分に曲げ伸ばしが可能な新たな「関節」が生まれるようなものだからである。

こうした偽関節の主な治療は自家骨移植である

 

今回のように自家骨をネジにできれば、本来金属製のネジや針金で固定が必要な部位に応用できる。

実際こういう研究もされているようで、夢がある治療である。

ところが、これを臨床の現場で誰かが思いつき、それが理屈の上では実現可能で、かつ腕の優れた職人が現れたとしても、決してすぐには実現はできない

なぜだろうか?

これが新たな治療導入の難しさである。

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臨床の現場に新たな治療を導入すること

臨床の現場で新たな治療法を患者さんに受けてもらうのは、実はものすごく大変である。

手術に限らず、「新しい抗がん剤の組み合わせ」といった既存の薬を用いたものですら、そうである

 

まず、「臨床研究」という形で導入する必要があるため、研究プロトコールを作成し、これを病院内で倫理委員会の審査に通さなければならない

このプロトコール作成がかなり大変である。

A4、40枚くらいのおびただしい数の書類を、日常診療の合間を縫って必死で作成することになる

誰がやるか?

その新たな治療をやりたいと言った医師である(今回なら大門)。

もちろん私も何度も苦労した経験がある。

 

プロトコールには、

既存の治療ではなぜダメなのか?

新たな治療を導入することにどういう意義があるのか?

動物実験等で、安全性は確認されているのか?

など様々な内容を記載する。

審査を公正に行うため、倫理委員会は外部の人間を入れて構成する必要があり、弁護士や一般人なども含まれる。

この人たちの前でプロトコールを配ってプレゼンをするのだが、他職種の人に専門的な治療導入の必要性を専門用語を使わずに理解してもらうのは本当に大変である

そしてこのプレゼン後に、倫理委員会から必ず注文がつくため、それに合わせてプロトコールを修正して再提出。

これを翌月の倫理委員会で再審査。

この繰り返しで試験開始には数ヶ月がかかる

 

さらに、患者さんからこの臨床試験に参加することの同意を得なければ、その新たな治療は導入できない。

これまで誰もやったことのない新たな治療で、安全性の証明もまだ不十分

これにあっさり同意してくれる患者さんは、決して多くはない

「バレエの選考会は諦めるので、これまで安全にできている普通のやり方でやってください」

が最も予想される答えだろう。

 

ちなみに、整形外科領域の手術は、「超清潔」と言っても良いくらいの高度な清潔さを要求される

特に人工関節などの治療では、わずかな細菌の混入によって術後感染を引きおこし、それが命に関わるリスクがあるからである。

よって整形外科医は実は、みなさんが想像するような外科医の姿で手術をすることはない

わかりやすい写真を見つけたので、参照してみてほしい。

まさに「宇宙服」である。

これがオペ室でよく見る整形外科医の姿である。

町工場の地下に眠っていた旧式の機械、恐ろしいほど汚そうで、手術室に入るのも断られそうな勢いである。

 

ちなみに手術では金属製の道具を使うことも多いが、これらは毎回オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)というかなり特殊な滅菌を施してから使用している。

100℃を超える温度で数十分間加熱する作業である。

これは整形外科に関わらず全領域の外科手術で使う道具で同じように行う処置だ。

そのくらい、手術の「清潔さ」に求められるレベルは高いのである

 

というわけで来週はいよいよ最終回。

ぜひ最後までお楽しみください!

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ドクターX 5期 第9話解説|舟状骨骨折が医師にとって鬼門である理由」への4件のフィードバック

  1. nn

    またまたコメントさせていただきます。
    今回の話は、清潔感とは程遠い演出でしたね笑笑
    衛生面大丈夫か?と心配しながら見ていましたよ。。。。
    それはさておき今回気になったのが医師免許の無い人でも、今回のようにオペ室に入ることはゆるされるのでしょうか?それが見ていて疑問に思いました。もっとも今回直接医療行為を行ったのは医師免許を持っている人でしたが。。。。。
    それにしても、あの祖父よく倒れずに仕事しましたね。普通自分の孫の手術に医療関係者でもない人が関わるってなかなか無いでしょうし、骨を見ることも無いでしょうから恐怖心を覚えるでしょうに。。。。。まあ、ドラマですからね(笑)

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      nnさん
      鋭いですね〜
      もちろん看護師ほか、清掃員も含め様々な病院職員がオペ室には入るので「医師免許」がなくても入れるのはもちろんなのですが、病院職員以外となると、かなり厳しいです。
      オペ室内に入れる業者は決まっていて、事前に病院に申請し、許可が下りた手術機器メーカーの登録された職員だけです。
      それ以外は製薬会社の人ですら入れません。
      その辺りのセキュリティはかなり厳重ですね。当たり前ですけどね笑

      返信
  2. ポッキー

    こんばんは またおじゃします。ポッキーです。
    あまり観ないドクターXですが、今回はいつになく見てしまいました。骨?ボルト?というのが聴こえてきたので…
    股関節の骨切り手術をして、まさに3週間ほど前に大転子にあったボルトの抜釘をしたところ。削ったボルトを見て、そうそう!先っぽだけスクリューになってる!と珍しくドラマの内容に納得。でも、骨切り経験者の私はまたまたそこで素朴な疑問、骨で作ったスクリュー 強度は大丈夫?って。ドラマなのに。
    腸骨は溶けるピン、大転子は強度の関係でスクリュー、みたいに聞いたことがあるので。
    骨は堅いほど折れやすいとこがあるとも。確かにドラマでも1度折れましたね。
    あまりに身近な内容だったのでコメントしてしまいました。

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      ポッキーさん
      実は私もその点についてはポッキーさんと同じ立場で見ています笑
      整形外科医ならその辺り詳しいでしょうかねぇ・・・
      私も強度で明らかに劣ると思いましたよ。
      ただ、こういう研究は実際されているようで、それを製作関係の人が聞きかじって取り入れたんでしょう。
      何らか強度を増す方法が検証されているんではないでしょうか。

      返信

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