『すばらしい医学』シリーズ累計21万部

医者はお金持ち?患者さんからよく聞かれる質問をまとめました

私は以前、担当しているご高齢の患者さんから、

「先生のお父様はもちろんお医者様ですよね。『医師にあらざれば人にあらず』と言われているんでしょう?」

と言われ、驚いて否定したことがあります。

私の両親も、さらにその両親も、私の兄弟も医療関係者ではありません。

そんな医師はいくらでもいるし、「医師にあらざれば人にあらず」など聞いたこともない言葉です。

 

これは極端な例ではありますが、医師の世界というのは一般にあまり知られておらず、ブラックボックスのようなものなのだと日々感じます。

これが医療への敷居を高くし、医師を近寄りがたい存在にし、患者さんたちに親しみにくいイメージを植え付けています

患者さんとの距離が近くないことは、医師にとってもマイナスです。

こうした距離を縮めることが私の目的の一つでもあるので、ブログやSNSを使って実際の医師の姿を広く知ってもらおうと私は努力しています。

 

上述の極端な質問はさておき、患者さんから医師へのささいな誤解や疑問は現実にたくさんあります

これまで私が患者さんから繰り返しいただいたことのある質問とその答えを、今回まとめてみたいと思います。

ぜひ参考にしてみてください。

 

医師免許は携帯しているのですか?

私も医師になる前は、医師免許は車の免許証か警察手帳のような携帯できるものだと誤解していました。

ご存知の方も多いとは思いますが、医師免許を普段から携帯している医師は一人もいないと思います。

なぜなら、医師免許証はA3サイズの表彰状のような形式で、とても持ち運べるようなものではないからです。

筒に入れて自宅に保管しているか、A3サイズのファイルに入れているかでしょう。

 

医師免許証は普段使うことはほとんどありません。

あまりに使わないので、どこに行ったか分からなくなっている人もいます。

せいぜい、転勤時や非常勤で普段勤務していない病院に行く際に、コピーを手渡す程度の使い道です。

医師免許証には「医籍番号」という固有の番号が記載されています。

厚労省のホームページで、この番号と医師名、医師免許取得年を簡単に照合することができます(誰でもできます)。

時々ニセ医師が現れてニュースになることがあるので、こうした事態を防ぐため、病院側は必ず新しく勤務した医師の医師免許証を確認しています

 

ちなみに、各種の専門医資格認定証も多くは表彰状タイプです。

私が持っている資格の中では、ICD(感染管理医)と、日本感染症学会の感染症専門医にカードタイプの認定証があります。

 

医師は高給取りですよね?

厚労省の調査によれば医師の平均年収は全職種の中で1位だそうなので、何かと「高給取り」「お金持ち」というイメージがあるようです。

確かに、それなりに安定した収入を得られる職業だとは思いますが、「医師は高給」として一まとめに論じるには、あまりにも給与にばらつきがあります

たとえば、勤務医の平均年収は約1200万円だそうですが、大学病院の「ヒラ」である医員(30歳代半ば〜後半)の月収は手取り10万円代程度というところも多いです。

週に1回のアルバイトをすることが一般的ですが、それでも年1200万円には全く届きません。

 

一方で、僻地にある人手不足の病院では、1年目の研修医でも年収1200万円というケースもあるし、どこの病院にも属さないバイト医(フリーランス)で年収2000万円の人もいます。

さらに、ドラマで出てくる「院長」大金持ちのイメージですが、病院によっては院長でも1200万円に届かないこともあります

 

また、研修医の時に給与が良くても、会社員のように出世することで給与が上がっていくとは限りません。

ある市民病院の副部長から別の病院の部長へ栄転、でも給与は2割減、ということもよくあります。

とにかく、病院によって給与体系があまりに違うのが原因です。

勤務医は転勤族なので、こういうことはよく起こります。

 

まとめると、平均年収よりはるかに低い医師もいれば、はるかに高い医師もいる上に、年齢を経たり、転勤によって大幅に変動するということです。

よって医師の「平均年収」を他職種と単純に比較して高い、とすると少し語弊があります。

少なくとも「平均」ではなく「中央値」や「最頻値」で議論するか「年収」ではなく「生涯賃金」のような指標で議論する方がまだ妥当だと思います。

 

お盆休みはありますか?

医師の仕事は基本的にはカレンダー通りです。

お盆も平日なので、普段通り外来も手術もあることが一般的です。

一部の公立病院や大学病院で短期間の盆休みをとっているところもありますが、多くはないでしょう。

一方、1年に1回、長期休暇として1週間程度の休みをとれるのが一般的です。

「夏休み」と称しますが、1年のうちどこで取っても構わないので、冬に「夏休み」をとる医師もいます。

子供が就学年齢を超えている人は家族全員が休める7〜8月に休暇をとるのが普通ですが、そうでない人は繁忙期を外して取ることが多いです。

 

科によっては、この長期休暇以外に完全な休みは基本ありません。

たとえば私なら、金曜に手術した患者さんに土日は全く会わない、ということは考えられませんので、土日祝日も病院には行くのが普通です。

年末年始でも必ずどこかに当直が入り、そこで手術をした患者さんはやはり定期的に診ますので、完全に休むわけにはいきません

 

ちなみに普段の当直の翌日も同じです。

建前上「当直明けは帰宅しても良い」というルールがあっても、朝からいそいそと帰る医師はあまりいません。

やはり患者さんがいる以上その日にやらなくてはならない検査や処置があります

相手があっての仕事、学校の教員も同じだと思います。

これは「医師はなぜ残業代を請求しないのか?」で説明した通りですね。

 

カルテはドイツ語ではないんですね?

私が子供の頃は、かかりつけ医が万年筆を使って、ミミズのような読めないドイツ語でサラサラとカルテを書いていました

今では、紙カルテでも電子カルテでも日本語を使うのが普通です。

 

看護師など医師以外の職種の人も、カルテを見て患者さんに関する情報を得ます

また、担当医が交代する際も、前任者が書いたカルテ記録から情報を得ることが必須です。

したがって誰もが読みやすい方法で記録しないと意味がありません

私は以前別の記事で「カルテは交換日記のようなもの」と書いたことがあります。

様々な職種の人がカルテ記録をお互いに閲覧することで、患者さんの病態についてそれぞれがどんなことを考えて治療に参加しているかが分かるからです。

 

以前紙カルテが主流だった頃は、日本語なのに汚くて読めない字を書く医師がいました。

何と書いてあるか分からない時は書いた本人に直接聞くのですが、その当の本人も自分の字が読めない、という事態が起こります。

最終的には、これを見事に解読できる「暗号解読のプロ」のようなお局看護師に読んでもらう、というコントのような実話もあります。

現在は電子カルテが主流となり、非常に情報交換しやすくなったと感じます。

いずれにしても、一部の人の間でしか情報交換できないドイツ語のカルテ記録は、診療記録としての価値はないと言えます

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出張費は出ないんですか?

医師は比較的安定した収入はありますが、出て行くお金も非常に多いです。

学会出張が必ず年間何度かありますが、一般的な企業のように出張費は出ません

病院で出張費の一部を補助してくれるところもありますが、たいてい大部分は自腹です。

学会では、往復の交通費やホテル代、学会参加費(1万〜1万5千円程度)がかかるので、これが何度もあるとそれなりの出費になります。

 

病院からの出張なのになぜ?

と思う方も多いでしょう。

学会出張は、医師本人の自己研鑽のため、自分の臨床能力向上のために自分の意思で行くもの、と認識されているためです。

若手医師は上司からの指示で学会出張に行くことも多いので、これを「自分のために自主的に行っている」として良いのか、という疑問はありますが、これが昔からの慣習です。

 

以前の記事にも書きましたが、論文執筆や、専門医資格取得にかかるお金も同じです。

専門医取得のための認定試験は未だに全国の医師が一箇所に集まって行うことが多いです。

沖縄からも北海道からも、認定試験を受験するために東京の会場に泊りがけで行く、というようなことが毎年行われています。

交通費や宿泊費がもったいないので、今時オンラインでできないものかと思うのですが・・・。

また、たとえば申請に2万円、試験受験料が3万円、認定料が4万円と資格取得自体にもお金がかかり、5年ごとに資格更新で5万円、のような形で資格の維持にも結構なお金がかかり続けるのも苦しいところです。

むろん自分への投資、ひいては患者さんに質の高い医療を提供するための投資と考えています。


というわけで今回は、よくされる質問を5つ挙げてみました。

「そうだったんだ!」と思ったことはありましたか?