全国の医学部で留年がなぜ急増しているのか

近年、医学部人気が沸騰している。

6月5日の東洋経済の記事によれば、今年の医学部志願者数は14万3176人で10年前より4割近く増えたそうである。

また大学の定員数に対する志願倍率は15倍以上だそうで、今まで以上に医学部入学は狭き門になっている。

「医学部に入るための勉強法」のような本が多数出版されたり、医学部専門の塾なども多く、子供がかなり幼い頃から、親が医学部を意識してこういう本を読んだり、専門塾に入れたいと思うケースも多いようである。

だが、この記事によれば、最近医学部生の留年が急増しているらしく、留年者は2008年度以前と比べて1.63倍だそうだ。

その理由として、少子化にもかかわらず、2007年まで7625人だった医学部の定員が、この10年間で9420人に拡大されたことで、「全体の学生のレベルは若干落ちている」からだと書かれている。

 

私は、「学生のレベルが落ちているから」ではないと思う。倍率が増えている、つまり、これまで医学部以外を選んでいた人たちが医学部をこぞって受験しているわけで、むしろ合格水準は上がっているはずだ。

私はこう考えている。

偏差値は良いが生物学にも医学にもさして興味はなく、また医師という職業に対する情熱もそれほどないタイプの医学部入学者が増えたからだ。

 

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医学部と医師の仕事の実際

そもそも、医学部の人気が高まっているのは、この不景気の中、手に職をつけて安定した職業に就きたいと考える人が多いからだろう。

またそれは本人の意思というより、親の意思が反映されている場合がおそらく多いと推測できる。

 

だが、医学部という学部はかなり特殊である。

医学部の6年間は、生物学や医学の膨大な知識を短期間に詰め込まなければならないし、CBTやOSCEといった全国一斉実施の筆記試験や実技試験に合格しなければ進級できないという障壁も用意されている。

 

難しいから大変だ、という意味ではない。

こういう学問に「かなり興味がある」というのでなければ、精神的には結構辛い、という意味である。

 

また医師という職業も特殊である。

医師国家試験に合格すれば、自動的にほぼ全員が研修医になるわけだが、医師になると今度は、これまで学んできた知識が嘘のように使えない。

多くの論文や医師向けの専門書を読み込んで、これまで以上に勉強を続けなければならない。

 

それだけならまだ良い。

 

医師になってからは、それより遥かに重要とされるのが、患者さんや、他の医師、看護師などと良好な人間関係を築き、チームワークを成り立たせるためのコミュニケーション能力である。

こういう能力は、医師になるまで専門的に教育されることはないため、必要性を意識することはない。

 

医学部入学に問われること

医学部に入学するために問われるのは、ペーパーテストで高得点をとるという、いわゆる「受験力」だけだ。

コミュニケーション力のような医師に必須の能力も、生物学への興味も問われない(そもそも生物をほとんど学ばず、理科は物理と化学だけを選択して大半の受験生が医学部に入学する)。

 

だから、医学生や医師に対して受験生はあまり正確なイメージを抱けていない。

まして、弱冠18歳の高校生が職業まで決めようというのだから、親の意思がある程度反映されるのも無理はない。

 

その結果として、医学部に入ったは良いが勉学へのモチベーションを保てない、という人が出てくる。

そして同様に、「人と話すのは少し苦手なんです」という医師は少なからずいるのだが、おそらくこれから増え続けると予測できる。

 

考えてみれば、医療とはそもそも人と人との濃厚な関わりそのものであって、これが好きでない、得意でない人にとっては、医師は当然ながら精神的に辛い仕事である。

「日焼けはしたくないんです」という人が野球部に入るようなものだからだ。

 

「医学という学問に惹かれた」とか、「多くの患者さんの痛みや辛さに寄り添いたい」ではなく、「安定した職に就きたい」という動機で医学部に入学した場合、実際の学生生活と医師になってから求められる性質に、これまで抱いていたイメージとギャップを感じる人が多いのも無理はない、と私は思う。

 

(追記)

2017年3月6日の週刊朝日の記事によれば、国公立大医学部ではここ3年で志願者数はやや減少傾向とのことである。

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