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医療ドラマに見る外科医のガウンとルーペ、理想のオペ中コーデとは?

ブラックペアンの関川医師役、今野浩喜さんが「オペ中コーデ」をツイートされていました。

腕の組み方や足の感じなど、何とも言えない「外科医っぽい」感じが出ていますね。

この「ちょっとイキった感じ」も好きです。

ブラックペアンのオペ中の服装はみなさん非常にリアルで、この写真の格好も本物にしか見えません。

 

ドラマのオペ中の外科医の服装に関して質問をいただくことが多いので、前回はマスク、手袋、帽子についてまとめました

今回は、ガウン、ルーペ、シューズについて、これまでいただいた質問の答えををまとめる形で実際の「オペ中コーデ」を紹介してみます。

 

ガウン

医師の普段の服装については、「医療ドラマの医師の服装はリアルか?スクラブスーツと白衣の使い分け」でまとめました。

手術の時は、手術室が並ぶフロアにある更衣室で手術着に着替え、帽子とマスクをして手術室に向かいます

このフロア内は、手術着以外で通行するのは原則禁止としているところが多く、普段のスクラブや白衣では入れません

 

全身麻酔がかかった時点で手洗いをし、手がどこかに触れないようお腹の前に出した状態で手術室に入り、看護師からガウンを受け取ります(自分で取ることも)。

ガウンは背中が空いているので、前から両腕を通した状態で看護師に背中の紐を結んでもらうことになります

自分で背中に手を回すと、せっかく洗った手が不潔になってしまいます。

必ずここは看護師に任せなくてはなりません

 

研修医の頃は、こうした手術室のルールが分からないので、うっかり触ってはいけないところを触ってしまい、看護師から、

「もう一回手を洗って来てください!」

と叱られることがよくあります。

 

手術が始まる前に、同時に数人の外科医が手術室に入って来てガウンを着ることになるので、看護師が背中の紐を結んでくれるのを順番待ちします。

救急の現場で「超緊急の処置が必要!」という場面で、

「看護師が背中の紐を結ぶのを待っていられない!」

と、とりあえず前から羽織るだけで背中が空いた状態で手術に参加する、ということがまれにあります。

本当はダメなのですが、やむを得ないケースです。

実はコードブルー3rd SEASONでも藍沢がこれをやるシーンがあり、監修医の先生のこの微妙な部分へのこだわりには脱帽しました。

 

さて、ブラックペアンの手術シーンでは、ガウンの下にもう一枚服を着ていますね。

この公式ツイートの右側の写真に写っている水色とピンクのベストです。

スナイプを使用する際、X線を照射して位置確認を毎回行っています

このように手術中にX線を使用する処置や手術では、鉛の板が入った放射線防護服を着ます。

外科医や器械出し看護師は、手術着の上にこの防護服を着て、その上からガウンを着ることになります

かなり暑いし重いので、長時間手術の時は結構大変です。

ブラックペアンでは、スナイプ手術の見学に来ている人たちがこれを着ているシーンもありましたね。

 

ちなみに、ガウンは一般に水色で使い捨てですが、ブラックペアンでは佐伯教授が白いガウンを使用しています。

天才外科医である教授を他のメンバーと差別化するためでしょう。

一般的には、ガウンやシーツは青か緑が多いです

理由は二つあります。

一つは、私たちは手術中に血の赤を見続けることになるので、ガウンやシーツが白だと、白が視野に入った時に赤の残像として補色である緑や青が残ります

これがチラチラして目を疲れさせるので、ガウンを青や緑にしておくことでこの作用を軽減させているわけです。

もう一つは、緑や青のガウンに血液がつくと黒くなります。

白のガウンだと真っ赤に染まって刺激が強いので、あえて緑や青にすることで付着した血液が暗く見えるようにする効果もあります。

 

さて、写真の関川医師の手首を見てみてください。

手袋の中にガウンの袖が入っている状態ですね。

手術の際は、先にガウンを着て、その後手袋を装着するのでこのようになります。

一方、手術室以外で処置を行う時は、手袋を先につけ、その後でガウンを着ます

そのため、ガウンの袖は手袋の上になります。

コードブルーでは、これを全てのシーンで完璧に使い分けています

恐ろしいほどのこだわりです。

これは「コードブルー3 医師が解説|冴島看護師はなぜ優秀か?手術のリアリティ」で解説したので、既読の方は多いですよね。

 

ルーペ

写真の関川医師はルーペを付けていますね。

細かい操作をする際、ルーペがあると非常によく見えるので便利です。

 

以下の写真は、私が時事メディカルとYahoo!ニュースで使ってもらっている自分のプロフィール写真です。

私も開腹手術の時はこのルーペをつけています。

目の幅や焦点距離を測定してオーダーメイドで作ることが多く、20〜40万円と結構高くつきます(ピンキリなので、もっと高いものもあります。もちろん自腹)。

 

ドラマでは、レンズを上げ下げできるタイプのルーペをよく見ますが、グラス自体にレンズが埋め込まれて上げ下げできないタイプもあります(私のルーペは後者ですね)。

ドラマの場合、俳優さんの目が見えるよう上げ下げできるタイプが使われることが多い印象です。

それどころか、さらにレンズの角度もずらして目が見えやすくしてあるので、渡海のアップのシーンでは、明らかにルーペと目の角度が合っていないのが分かります。

あれでは焦点が合いませんが、二宮さんの目の演技を見せるためには必要な演出です。

 

コードブルーでは、現場の処置シーンで医師がマスクと帽子をしないことが多く、災害現場ではヘルメットすら付けません。

これも本当は決してあり得ないのですが、同じように俳優さんの顔を見せるための演出ですね。

ドラマを面白く見せるための演出は必須ですが、どこまでを演出で通して良いのか、という点で製作者は頭を悩ませるのだろうと思います。

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シューズ

写真の関川医師は、白のクロックスを履いていますね。

クロックスには医療者専用のモデルもあるので、クロックスを履く医師は結構多いです。

手術中に、シューズは血液や体液でかなり汚れます

そのまま病棟に行って仕事をするわけにはいかないので、手術室内とそれ以外ではシューズを履き替えるのが原則です

手術室用に自分で一つ用意するケースもあれば、病院から手術室用サンダルを支給されるケースもあります。

 

前回記事で書いた通り、医師の普段の格好は自由度が高く、規制の厳しい病院はあまりありません

そのせいか、時々研修医の先生や実習中の学生が派手な色のクロックスを履いてくることがあります。

全く個人の自由なので、派手な色だろうと下駄だろうと構わないのですが、一応、

「患者さんが見てどう思うかを常に考えるように」

と私は注意します。

どこまでを許容するかという線引きは難しいのですが、スーツに革靴までは必要ないにしても、ジーンズや茶髪、原色のTシャツなどは避けた方が良いと私は思っています。

医師の外観が、患者さんの精神面や医師への信頼に与える影響は大きいためです。

 

というわけで今回は、関川医師の写真を参考に、オペ中コーデについて解説してみました。

医療ドラマを見る時は、ぜひ注目してみてください。