心臓麻痺や心臓発作という病気が実際には存在しない理由

「心臓麻痺」や「心臓発作」という病気は存在しません。

教科書にも載っていませんし、カルテや診断書に書いたこともありません。

医師になってから患者さんに対して口にしたこともありません。

そういう病気がないからです。

しかし、なぜか一般に広く知れ渡った病名です。

確かに私も医師になる前は、そういう病気があると思っていたように思います。

 

よく考えると、どちらも非常に奇妙な名前です。

「麻痺」とは、本来自分で動かせるはずの筋肉(随意筋)が、神経の障害により動かせなくなることです。

心臓はそもそも自分で動かせる筋肉ではありません(不随意筋)ので、「麻痺」しません。

また、「発作」とは通常、ある病気や病態が突然起こることを指して使う言葉です。

けいれん発作や失神発作は、突発的にけいれんや失神が起こることです。

しかし心臓という臓器名の後ろに発作をつけると、何を意味しているか全く分からなくなります。

胃発作や大腸発作がないのと同じです。

 

では、一体どういう病気を想定してこの言葉が使われているのでしょうか。

少し検証してみたいと思います。

 

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心臓麻痺・心臓発作とは一体何なのか

漫画「デスノート」の中に、名前と死因を書けば人を死なせることができる死神のノートが出てきます。

ここに主人公の夜神月が「心臓麻痺」と何度も書いていました。

私はあれを見て、一体何が原因で人が死んでいるのかさっぱりわかりませんでした

また、「心臓発作」も同じイメージで使われているようで、小説などでもよく出てきます。

 

心筋梗塞、心筋症、弁膜症、心筋炎、心内膜炎、と様々な病気が思い浮かぶのですが、それらともニュアンスが違います。

決定的に違うのは、心臓麻痺や心臓発作が「心臓が原因で突然死する病気」というイメージで使われているということです。

上にあげた心臓の病気はいずれも、「突然死することもある」というだけで、多くは適切な治療を行って社会復帰できる病気です。

 

検索エンジンで調べてみる

医学書には載っていない言葉なので、Googleで検索してみます。

一番目にWikipediaの「心臓麻痺」のページがヒットします。

「医学的な言葉ではない」とした上で、

「相当する医学用語は心室細動と思われる」

と書かれています。

心室細動とは、上にあげた様々な心臓の病気が原因となって起こる、致命的な不整脈です。

ちなみにAEDはautomated external defibrillatorの略で、「自動体外式除細動器」です。

電気ショックによってこの致命的な心室細動を止めることができる道具です。

 

心室細動なら正確な病名ですが、「心室細動が原因で亡くなりました」というのは違和感があります

どちらかというと心室細動は原因というより結果であって、やはり「心室細動の原因は心筋梗塞ですか?弁膜症ですか?」と聞き返したくなります。

ちなみに心不全も同じように、原因というより、上に挙げた病気の結果としておこる病態です。

様々な心臓の病気をきっかけに、心臓のポンプとしての機能が不十分になることです。

慢性的な心不全で入退院を繰り返している人もいますので、全くもって異なるイメージの病気です。

 

さて、この心臓麻痺のWikipediaのページをよく見てみると、おもしろいことに気づきます。

英訳として「Heart attack」が当てられています。

心臓麻痺は日本にしかない言葉なので、適切な訳語がありません。

「Heart attack」とは、「心筋梗塞」とほぼ同じ意味です。

Wikipediaの英語版でHeart attackを調べると、「心筋梗塞の通称」と書かれてあります。

通称ではありますが、AHA(米国心臓協会)のホームページにも載っていますから、正式な用語と考えてよいでしょう。

しかし日本語の心臓麻痺の持つイメージに比べると、心筋梗塞はずいぶん狭い意味の言葉です。

夜神月がデスノートに「心筋梗塞」と書いていたら、なんとなく拍子抜けします。

心臓麻痺という言葉の持つ、禍々しい怖いイメージは失われますし、そもそも心筋梗塞なら、適切な初期対応ができれば、カテーテル治療など救命する方法はいくらでもあります

 

同じように「心臓発作」を調べてみます。

やはりWikipediaのページが一番目にヒットします。

「虚血性心疾患の発作と不整脈発作、なかでもアダムス・ストークス発作がこれに当たる」

という記載があります。

「アダムス・ストークス発作」とは、主に不整脈が原因で脳への血流が不足して起こる失神のことです。

あくまで失神発作で、突然死とイコール関係には決してありません

ところが、英訳をみるとやはり「Heart attack」と書かれてあります。

ここでは説明文と英訳がかなり乖離していることになります

 

他のサイトを覗いてみると、「心臓麻痺の原因予防治療」「心臓発作の症状前兆」などの記載があります。

「心臓麻痺の起こし方」などという怖い検索ワードまであります。

しかし現実に存在しない病気の「原因」や「予防」「症状」というと、ものすごく違和感があります。

 

場面に応じて違う意味で使われている

改めて心臓麻痺、心臓発作に正しい解釈をしてみます。

おそらく様々な場面で異なる意味で用いられていますが、下の二つのパターンが最も多いと考えられます。

 

虚血性心疾患による突然死

一般的に、心臓麻痺や心臓発作に一番近いのは、虚血性心疾患が原因となって起こる突然死だと思います。

虚血性心疾患とは、心臓の周りを取り囲む冠動脈が細くなる、詰まるといったことで心筋が血流不足に陥る病気の総称です。

胸が痛い、苦しいといった症状を伴うのが特徴です。

代表的なのは心筋梗塞で、その原因の多くは動脈硬化です。

ご存知のように、動脈硬化の原因は、加齢、喫煙、高血圧、肥満、高血糖、高コレステロールなどです。

重度の心筋梗塞であれば、そのまま急死する、ということがありえます。

ただ、小説や漫画で出てくる心臓麻痺や心臓発作とは少しイメージが違いますね。

そこで次のもう一つのパターンを挙げる必要が出てきます。

 

致死的な不整脈による突然死

小説や漫画で出てくる心臓麻痺や心臓発作で亡くなる人の多くは、上述したような虚血性心疾患のリスクがなさそうな若い人です(もちろんこういうリスクのない若い人が心筋梗塞になることもまれにあります)。

よって、若い人が心臓が原因で突然死する病気を想定する必要があります。

そこで可能性があるのが、致死的な不整脈発作です。

しかも、「普段は全くの無症状だが、突然にして起こる不整脈」という条件付きです。

そこで想定されるのは、ブルガダ症候群QT延長症候群のように、普段は無症状でも、突然心室細動を起こして死亡するリスクのある疾患です。

他にもこうした突然の致死性不整脈を起こす疾患は複数あり、若い人が原因不明の突然死を起こした時に想定される疾患の一つです。

 

あまりに心臓麻痺、心臓発作の意味するイメージが広すぎますが、このあたりが頻度的に多いと思います。

他にも心臓突然死を起こす病気はたくさんあります。

いずれにしても、心臓麻痺、心臓発作という言葉だけでは、何の情報も伝わらない、ということは頭の片隅に置いておいてください。

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