コウノドリ2 第8話 感想|現実世界にもたくさんいる白川的若手医師に忠告

第8話は、最近自らに自信を持ち始めていた白川(坂口健太郎)が大失敗を犯してしまうストーリーでした。

卒後3〜5年目くらいの頃に、仕事に慣れて知識も増え、自分の能力への過信で痛い目を見る人はよくいます。

今回の白川を見ていると、細かいセリフ一つとっても本当に「あるある」なリアルさを感じます。

では実際にこういう若手医師のせいで今回のような事態が起こってしまうのか、というとそんなことはありません。

なぜでしょうか?

それも含めて、今回のストーリーを振り返ってみましょう。

 

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今回のあらすじ(ネタバレ)

学会発表で高評価を得て自信をつけた白川。

「学会とか研究会に顔を出すと、ここのNICUはまだまだだなって思う」

と高い理想を語り、周りが見えなくなっています。

NICUの先輩医師、今橋(大森南朋)も、

「自信がついてくると自分の考えに固執してしまう」

と心配します。

そんな折、鴻鳥(綾野剛)の担当だった妊婦の出産が難渋し、NICUに協力を依頼。

今橋はリクルート説明会が入っていたため、白川と研修医の赤西(宮沢氷魚)が立ち会います。

新生児の呼吸状態が悪く白川がすぐに挿管。

手間取る赤西にはいつも以上に厳しい態度を見せます。

 

その後白川は両親に、赤ちゃんは「新生児遷延性肺高血圧症」だと説明。

一酸化窒素(NO)吸入療法を行えば3、4日で回復する、と両親に断言します。

「この治療に関して言えば僕はこの病院で一番経験がありますし、学会発表などもしている詳しい治療ですので安心してください」

と自信ありげに家族を勇気付ける横で、心配そうに白川を見つめる鴻鳥。

ところが赤ちゃんの状態は良くならず、赤西は、

「この子、本当に肺高血圧なんですかね?」

と白川の診断を疑い始めます。

さらにNICUの看護師からは今橋に相談することを進言されますが、

「その必要はない!」

と怒ったように強く言い切る白川。

 

その後赤ちゃんの状態はさらに悪化し、エコー検査でやはり白川の診断は誤りであることがわかります。

赤ちゃんは肺高血圧症ではなく、総肺静脈還流異常症、つまり先天性心疾患でした。

小児心臓外科のないペルソナでは手術ができないため、近隣の講談医大病院へ転送することに。

診断の誤りを伝えられた父親は、白川の誤診に憤慨します。

転送時にはドクターカーに別の医師に乗ってもらおうとする逃げ腰の白川を、ついに温厚な今橋が声を荒げて叱ります。

「責任持って最後まで見届けなさい!」

結局白川は転送後、自分の過信が生んだ過ちを反省し、自らの未熟さを痛感。

先天性心疾患の赤ちゃんの治療が遅れた経験から、小児循環器を専門的に学ぶためペルソナを辞める決意をしました。

 

新生児遷延性肺高血圧症と総肺静脈還流異常症とは?

当たり前ですが、赤ちゃんは母体のお腹の中にいるときは呼吸をしていません

母体の酸素を含んだ血液が胎盤を通して赤ちゃんの体に流れ込むので、呼吸によって外界から酸素を取り込む必要がないからですね。

よって赤ちゃんは、母体の外に産み落とされた瞬間に初めて肺に酸素を取り込むことになります。

肺は、外から取り込んだ酸素を血液中に取り込む場所です。

肺の中には細い血管が張り巡らされ、常に取り込んだ空気と広く接することができるようになっています。

赤ちゃんの肺は、母体の中にいるときは小さく縮こまっていますが、生まれて呼吸をした瞬間に風船のように大きく膨らみます

同時に張り巡らされた血管(細動脈)も広がり、血流が豊富になって酸素の取り込みがスタートします。

赤ちゃんにとっては、生きるために必要な酸素を初めて自力で取り込むという劇的な瞬間なのですね。

 

ところが、この血管がうまく広がってくれないことがあります。

血管が収縮したままだと酸素を血液中にうまく取り込めません

また心臓から肺へ送り出す血液も、肺の細動脈が収縮していると血管抵抗が大きくなるため、肺の血圧が上がります

水道のホースの出口を手で潰して細くし、水の抵抗を大きくすると、水の出る圧力が強くなりますね?

これと同じです。

これが新生児遷延性肺高血圧症です。

周産期の低酸素症によって起こることが多いため、今回のケースは出産時の赤ちゃんが低酸素状態となったことが原因だと白川は考えていました。

そこで血管を広げる作用のある一酸化窒素を吸入する治療を行なっていたのです。

一酸化窒素(NO)は通称「ニトロ」とも呼ばれ、狭心症の方が血管を広げるためにも使う薬ですね。

 

しかし新生児の呼吸状態が悪いとき、原因は肺だけでなく心臓にあることもあります。

先天性心疾患です。

先天性心疾患の種類は様々で、第1話で出てきた心室中隔欠損もその一つです。

今回の赤ちゃんは総肺静脈還流異常症であることがわかりましたね。

正常では、全身から右心房に戻ってきた静脈血(酸素の少ない血液)は、心臓の右心室から肺に出て行き、酸素を取り込んだのち左心房に戻ってきます

酸素をたっぷり含んだ血液が左心房から左心室へ向かい、そこから全身を巡る仕組みになっています

ところが、先天性の心臓の異常で、肺からの血液が左心房ではなく、別の部分に戻ってしまうことがあります

今回赤ちゃんにエコーを当てた今橋が、

「肝臓の中に変な血管が見える。肺から血液が心臓に戻らず肝臓に流れ込んでるよ」

と言いましたね。

肺から血液が戻っていたのは門脈、つまり肝臓の入り口の血管だったのです。

肺でせっかく酸素を取り込んで血液がきれいになっても、門脈に戻ってしまえば、またしても全身を巡ってきた酸素の少ない汚い血液と混じることになります。

結果として全身を巡る血液の酸素濃度が低くなってしまうわけです。

これではいくら肺に酸素を送り込んでも全身に酸素が行き渡ることはありません

 

NICUの看護師が、

「これだけやってサチュレーションが上がらないのは変じゃないですか?」

と言っていましたね。

「サチュレーション」とは「飽和」という意味の英語です。

全身の血液中に酸素がどれくらい十分に含まれているかをパーセントで示す数字「SpO2(エスピーオーツー)」を意味する業界用語です。

正常値は「ほぼ100%」です。

赤ちゃんのモニターには「89%」と非常に低い数字が映っていました。

このとき、

「肺で酸素をうまく取り込めていないからサチュレーションが低い」

というのが白川の理解でした。

ところが正解は、

「肺で酸素はうまく取り込めても、その血液が全身をうまく巡っていないからサチュレーションが低い」

だったというわけです。

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白川の存在はどのくらいリアルか?

冒頭で私は今回の白川を見て「あるある」だと書きました。

確かに白川のように、自分に自信がついてきた頃に大失敗をしてしまう医師はいます。

しかし、実際に今回のドラマのような事態が起こることはまれです。

理由は、まさに「白川のような医師がよくいる」ということを、先輩医師や有能な看護師が分かっていて危機管理ができているからです。

今回のようなケースだと、本来は「白川一人には任せられない」として、今橋が白川の患者さんをこっそりフォローします。

また患者さんをそばで常に見ている看護師も同じく、

「白川先生には任せられない」

と思っているので、こうなるずいぶん前に今橋に報告します。

白川に、

「今橋先生に連絡しなくても良いですか?」

と聞けばきっと、

「その必要はない」

プライドを傷つけられたようにムキになって反論してくるに決まっているので、そんなことは聞きません。

ただこっそり告げ口するだけです。

「白川先生、危ないです」と。

そして結局恥ずかしい思いをするのは白川です。

 

基本的にチームというのはこのように、一人が空回りしていても他のメンバーがフォローするため患者さんには直接害が及ばないように機能するのが普通です

(それでもうまくチームが機能しないときに医療過誤が起こってしまうことはあるのですが)

 

ところが、このシステムには欠点があります。

現実世界の「白川」は大怪我をすることがないということです。

そうなる前に周りが患者さんを守るため、ドラマのように一回の大失敗で大反省する機会は与えられないのです。

残念ですが、このように自分を過信し続けてなかなかそのことに気づけない医師は実際に多くいます。

非常に細かいポイントでしたが、講談医大病院の小児科医も不快なほど偉そうでしたね。

転送先にはこういう若手医師はよくいますし、自分の病院に患者さんが転送されて来たときに、転送して来た医師に対してこういう態度をとる若手医師もよく見ます。

「自分の病院でしか治療できない患者さんを預かった」

という上から目線の態度で、

「もう少し早く来ていれば良い治療が受けられた」

などと皮肉を言います。

そもそも転送の理由は病院の設備や役割分担の違いによるのであって、その医師の能力によるものでは全くないのですが。

 

ところで、鴻鳥は今橋から白川の話を持ちかけられたとき、

「僕にもそういう時期がありましたから」

と言いましたね。

確かにこういう時期のある医師は多いですが、そうでない医師もたくさんいます。

自慢ではないですが私にもこういう時期は全くなく、妙に自信ありげに鼻高々になっていく同期を寒々しく眺めていました。

自分の上にいる先輩医師を見て常に自分の能力に不足を感じ続けていたからです。

そしてその感覚は今でも変わらず同じです。

まだ社会に出て数年しか経っていない時期に、自分に自信を持つ理由がありません

白川の立場なら、今橋を見て「この人には敵わない」と思っているべきでしょう。

小児科医としての診断力や治療力、人間性、あらゆる面で自分が劣っていることを感じながら、自分を磨かなくてはなりません。

 

ちなみに外科医は短気ですぐに怒鳴る人ばかりです。

その点今橋はいつも温厚で冷静、しかし本当に大事なときだけは声を荒げる

私が最も理想とする医師の姿です。

コウノドリの中で今橋は、最も私が「カッコ良い」と思っているキャラです。

 

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コウノドリ2 第8話 感想|現実世界にもたくさんいる白川的若手医師に忠告」への8件のフィードバック

  1. MITA

    こんにちは
    連日の解説、お疲れさまです。
    産まれた赤ちゃんが泣いた〜と喜ぶのは、肺がしっかり機能したという事なんですね。
    心臓の図解もわかりやすかったです。ありがとうございます。

    先生は、今橋先生になれますよ‼︎

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      MITAさん
      ありがとうございます!
      またわかりやすいと言っていただいて嬉しいです。
      お言葉を励みに頑張りたいと思います。

      返信
  2. 小山澄美子

    講談医大医師へのkeiyo先生のコメント、niceでした。すっきりしました。ありがとうございます。

    白川先生も、やはりやっちまいましたね。
    ほんの数年の現場経験だけで、変に自信を持ってしまう勘違い人間いますねぇ。
    それにしても、下屋先生も白川先生もまだまだ自分の専門科で実際に経験していない病態や疾患がいくらでもあるわけで、それら全てに完璧に対応できると思っていたんですかね??
    だから、自分の力量の足りなさに悔しくて、もっとレベルの高い医師になろうと修行に出る・・
    このあたり、私はどうも納得できなくて・・下屋先生の救急科修行の件にもkeiyou先生が的確にコメントしてくださいました。彼らは自分達の専門科にとどまってまだまだ勉強するべきことがあるのにと思います。(やはり、俳優さんの負担軽減があるのかな?)
    師と仰げるだけの技量を持った、立派な先輩医師がいるのに・・・若い彼らは、チーム医療の一員であることを忘れずに、自分の判断が正しいかどうかを同僚や先輩に確認し、未経験の症例や病態には自ら勉強するとともにしっかりと指導を仰ぐことで、技量は積み重ねていけると思います。

    自分の力量不足を皆の前で露呈して悔しい思いをして、そのまま同じ職場で働き続けるのって、毎日が「針の筵」的で、皆の視線が痛くて辛いですよね。
    でも、そこから逃げずに必死でひたすら日々学び、技量を習得していけば、皆は絶対に認めてくれますよね。ちゃんと見ていてくれてますよね。

    自分はそう思いました。先輩だけでなく他科の先生にも怒鳴られられたりした若い頃、出ていくこともできず・・自宅で独り悔し泣きする日々でした。 そういえば、白川先生、悔し泣きを人前はばからずしてました。私は人前で泣くのは嫌です。(ただ、歳取った今、鼻涙管が閉塞気味で右側の眼から涙が流れて仕方ありません。情けないです。)

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      小山先生
      正直、全体を通して私はあの講談医大の医師の数秒が一番イラっとしたかもしれません笑
      下屋先生、白川先生の異動については私も小山先生と全く同意見です。
      ここはドラマの都合や原作漫画の都合上なんでしょうけれど、実際には自分の専門科でしっかり学ぶべきだと私も思います。
      下屋先生に関しては、そもそも産科救急は産科で学ぶべきでしょう。strokeや外傷などの対応を身につけたところで、結局必要ないので数年経ったら結局体は動かなくなる気がします。
      また白川先生についても、小児循環器という専門に絞る前にまず小児科医としてgeneralな能力を身につけるべきですよね。
      サブスペシャリティはそれからの話でしょう。
      この展開については医療者でなくてもさすがに「え!?もう変わるの?」と思ったのではないでしょうか。

      おっしゃる通り、真面目に努力すればビギナーの頃の周りの評価などすぐに忘れられます。
      すごく頼りになる医師が、「そういえば、あの頃お前全然ダメだったよなぁ」と言われることなどいくらでもありますしね。
      そして最後の一行、ちょっと笑ってしまいました笑
      (訂正、あってますか?)

      返信
  3. ピスタチオ

    いつも解説ありがとうございます。コメント欄も、現役の医師や看護師の方、実際の患者さんのお話が伺えて為になります。

    ところで、今回の白川先生も、下屋先生も、(たしかに素人目にも、一回の失敗経験で持ち場を離れる点は、え?とは思ったものの)基本的には、ミスに向き合い、責任を全うしようと努力する、先輩から見ると将来有望な若者だと思います。

    が、世の中には、テストの点は良くても、どうにも体がテキパキ動かなかったり、コミュニケーション力が皆無だったり、仕事を右から左に流すだけだったり、という社会人が一定量いるものだと思います。会社では、そういうタイプは管理職になれずに定年まで過ごしたり、ある時点でリストラされたりしていくものですが、医師の場合は如何なのでしょうか?ドラマだと、「有能だが」口は悪いとか、傲慢だとか、精神的に弱いとか、そういうタイプの医師はでてくるけど、そもそも力量がないキャラは出てこないので…でもいるはずですよね?

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      ピスタチオさん
      そうですね、おっしゃる通り二人ともああいうキャラなら将来的に全く心配ないと感じます。
      医師の場合は、科や施設によって仕事内容がかなり多彩なので、力量がないと言ってもどこかでは自分の良さを生かせる領域がある、という感じでしょうか。
      コミュニケーション力が皆無、という医師は確かにいますが、そういう人は患者さんと会う必要のない科を選べば良いですし、体がテキパキ動かない人はゆっくりした病院に赴任すれば大丈夫です。
      ドラマでは絵になりやすい急性期病院ばかりが登場し、あれが医師の働く場のイメージだと思いますが、医師が働く施設の中で急性期病院はほんの一部ですからね。
      療養型の病院もあれば、老健施設や精神科の単科病院、厚労省に入って医系技官になる人もいますし、産業医や医療統計家もいます。
      大学や研究施設、製薬会社で基礎研究を行う研究医もいますしね。
      そういう意味では医師は恵まれていると思います。医師免許があれば、何とか自分の特技を生かせるところに変わっていけば良いですからね。

      返信
  4. ピスタチオ

    ありがとうございます。
    なるほど…以前、コードブルーの記事でも書かれていましたが、比較的医師の「異動」は難しくないようでしたし、職場の多様性は思ったよりあるのですね。内科⇆外科のような専門分野の変更も(ザックリですみません)特別な事ではないのでしょうか。
    能力のみならず、人生のステージによって職場も選びやすいという事ですね。(とはいえ、ストレスもあり技術のキャッチアップもあり、大変なお仕事である事に変わりはないですが)

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      ピスタチオさん
      その通りです。
      内科、外科を変える人も普通にいますよ。
      普通の会社員では考えられないほど、医師はあっさり自分の意思で動きます。
      仕事の幅が大きいですからね。
      人生のステージによってもそうですね。
      50歳を超えてから開業する、という人もいますしね。

      返信

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