癌が一番怖くない病気である理由

何か症状を訴えて来院した患者さんが、外来で最もよく言う言葉がある。 

それは「癌ではないでしょうか?」である。

 

世間では、「癌になったら治らない」とか「癌が再発したら治らない」と考えている人が多く、癌への強い恐怖がある。

他のいかなる病気よりも、何よりも「癌」が恐れられている

 

日々の診療でつくづく実感することである。

 

 

癌は特別に怖い病気なのか。

癌は特別に「治らない」病気なのか。

 

私は「癌は一番怖くない病気だ」と思っている。

今回はその理由を述べたいと思う。

 

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病気が「治る」「治らない」の意味

まず、ある疾患が「治る」かどうか、という質問に答えることは、実は非常に難しい。

「治る」という言葉の定義が曖昧だからである

 

たとえば、「治る」という言葉が、

「今後永久に入院も通院も必要なく、またその病気に対する薬の投与の必要もなくなること」

を意味するのであれば、「治る」病気はほとんどない。

 

糖尿病や高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症)などの生活習慣病の方は、長期間、あるいは半永久的に通院し、病状に応じて内服薬を飲み続けている

 

狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などにかかった方は、一度治療しても、その後の再発を予防するために長期間、血を固まりにくくする薬を飲み続けなければならない

定期的な入院、検査も必要である。

 

糖尿病の方は、病状によってはインスリンを自己注射し、重篤な合併症(失明したり、透析が必要になるリスクがある)の可能性を少しでも下げるために、毎日何度も血糖値を測定して気を遣い続けている

肝硬変も肺気腫も心不全も腎不全(透析)も、全て同じである。

 

いずれの病気も、治療がうまくいかなければ、その病気が命取りになる。

 

治らない病気ばかりである。

 

 

では癌はどうか。同じ意味で「治らない」病気である。

手術によって完全に切除が可能な比較的早期の癌であっても、術後何年もの間(癌腫によって、5年あるいは10年というものもある)通院、検査が必要である

進行した癌を手術した場合は、その通院頻度が増える場合もある。

再発が見つかり、抗癌剤治療を行う場合も長期戦である。

どれほどの期間治療を継続しなければならないかを、治療開始時に予測することは難しい。

他の病気と同じである。

 

癌は特殊な病気ではない

巷では、週刊誌などに「癌にならない方法」「癌になったらどうするか」「癌は治療しなくてよい」などのタイトルが踊り、癌に関わる膨大な著書が出版されている。

とにかく「癌か、癌でないか」という二元論によって癌の恐怖を増幅させ、癌を特別視する風潮がある。

だが我々専門家は、死亡原因第1位となるほどありふれた病気である癌の方が、他の多くの病気より全然「怖くない」と思っている。

 

多くの経験があるため、治療戦略が豊富にあるし、どのような経過をたどるかも予想しやすい。

抗癌剤治療も、多くは通院治療なので、入院治療が必要になる病気と違って仕事との両立が可能であるものが多い。

癌の患者数が多いため、緩和ケアや癌専門のリハビリなど、癌に特化した様々な治療オプションが豊富に用意されている。

何より、同じ病気の人が周りに多い、ということが心の支えにもなる。

(周りに癌で亡くなる人が多い、というのは、死亡原因の比率で癌が圧倒的1位だからで、頻度を考えれば当たり前のことである。)

 

癌という診断を受けると、まるで死の宣告を受けたかのように、「もう治らない」と精神的に大きなショックを受ける人が多い。

そういう方には、上記の内容を説明した上で、

 

・癌は、長期間お付き合いをしないといけない病気であること

・でもそれは、ほかの多くの病気と同じであること

・日常生活をできるだけ今まで通り続けながら、うまく治療していくこと

・そのサポート体制は十分すぎるほど整っていること

 

をゆっくりと説明するようにしている。

 

そして最後に。

癌より怖い病気などいくらでもある。

そういう病気を予防するために、生活習慣を整えたり、健診を受けることは、癌をことさらに恐れるよりも大事なことである

 

※本項は、消化器(食道・胃・大腸・膵・肝)、肺、乳房など頻度の高い固形癌を想定して記載している。一部の稀な悪性疾患には当てはまらない可能性もあることを申し添えておく。

 

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