死亡率が全国平均の3倍高い病院は問題視すべきか

もしあなたがこれから手術を受けようとする病院がニュースで取り上げられていて、

「術後の死亡率が全国平均の3倍だ」

と報道されていたらどう思うだろうか?

 

近畿地方のある病院で、心臓手術の死亡率が全国平均の3倍にのぼるとの調査結果を受け、同病院に対して日本心臓血管外科学会が、手術後の対応や医療体制の課題を指摘する報告書をまとめ、改善を促したとの報道があった。

 

この報道に学会側は記者会見で
「学会が、問題があって病院への調査をしていると解釈されたのは非常に残念」
「学会、機構が意図している部分が十分に伝わっていない」
と述べたが、こちらの方はあまり報道されていないようだ。

 

この報道と、学会側の発言についてもう少し深く掘り下げて説明したいと思う。

そもそも大前提として、手術死亡率を病院間で比較する」ということは、あまり医学的に意味のないことである。

病院によって条件があまりにも違いすぎるからだ。

 

「ある病院の心臓手術の死亡率が全国平均の3倍高い」というだけの報道を見ると、一般の方はおそらく「その病院の医療体制に問題がある」と理解するのではないだろうか。

 

もちろん医療体制に問題がないかどうかの検索と、あればその改善に向けて努力することは非常に重要なことだ。

だが我々外科医がその報道を見てまず第一に考えるのは、

「どのような背景の患者さんを手術しているか」

ということと、

「緊急手術をどのくらい引き受けている病院なのか」

ということである。

 

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どのような患者背景か

今回の心臓手術の例なら、心臓の病気以外の「持病」を持っている患者さんをどのくらい手術しているか、ということが重要である。

つまり、糖尿病や高血圧、腎疾患や肝疾患など、術後死亡や合併症のリスクが高い患者さんの割合がどのくらいだったか、ということである。

 

術後合併症のリスクが高い患者さんを積極的に受け入れている病院では、そうでない病院と比較して当然術後の死亡率が高くなる

こうしたリスクをなるべく引き受けなければ、その病院の治療成績は向上する

もちろんこれは「悪いこと」ではない。

 

たとえば、腎疾患のある患者さんは、術前・術後に腎臓内科の専門的なケアが受けられるよう、腎疾患に強い病院に紹介しそちらで手術を受けてもらう、といったケースはよくある。

また、たとえば癌に特化した病院では、心臓など他の臓器に持病のある患者さんは癌の手術が受けられないことが多い。

仮にこういう病院で、心臓に持病を持つ患者さんに胃癌の手術をして、術後に心臓関連の合併症が起こったら、心臓を専門的に治療できる病院に転院してもらわなければならないリスクがあるからである。

 

今回報道された病院は、リスクの高い背景疾患を持つ患者さんも進んで手術をする、という総合病院とのことである。

上述した専門性の高い病院より術後合併症率や死亡率が高いのはさほど不思議なことではない

 

 

緊急手術の割合がどのくらいか

緊急手術以外の一般的な「定例手術」の場合、手術までに1ヶ月前後の猶予期間があるので、この間に手術に向けて様々な準備を行う。

喫煙中の方は必ず1ヶ月以上前に禁煙してもらい、肥満の方には減量を指示する。

場合によっては管理栄養士と連携して栄養状態の改善に努めたり、術後肺炎など呼吸器合併症を予防するため、事前に呼吸リハビリを導入したりする。

そして手術当日に体をベストな状態にできるよう、医師・患者ともに努力をするのである。

こうした準備が、術後死亡、術後合併症の予防に大きく貢献する

 

一方緊急手術では、その真逆の悪条件で行われるのが常である。

そもそも緊急で手術が必要な状態であることは、すなわち体の状態が非常に悪いことを意味する。

消化器が専門の私なら、すでに腹膜炎で全身に菌が巡っている敗血症に陥った状態で緊急手術を余儀なくされることがある。

腹膜炎は手術で治ったとしても、全身状態が非常に悪いタイミングでお腹の大きな手術をしたことによる体への負担が原因で、術後に心筋梗塞や脳梗塞を発症し、むしろこちらが命取りになることもある。

 

また、突然の手術となるために、上記のような準備が全くできない。

手術当日までタバコを多量に吸っていた人も、リスクを負って手術を受けねばならない。

 

従って、緊急手術を多く引き受けている病院は、術後死亡率や術後合併症率が高い傾向にあっても不自然ではない

緊急手術が多いかどうかは、その病院がどのような医療圏に属しているのかに左右される。

周辺に救急体制が整っている病院が少なければ、その地域の緊急症例を一手に引き受けなければならない。

今回報道された病院は、緊急手術が全体の6割と極めて高い割合を占めていたそうだ。

これは、今回のデータに大きな影響を与えた重要な因子と考えるべきである。

 

以上の二つの条件は、地域におけるその病院の役割と密接に関わっていて、「医療体制として改善すべき点」には該当しない。

 

こういう複雑な条件が治療成績に大きく影響を与える、ということが、病院間で死亡率などの治療成績を比較することが非常に難しく、あまり意味のないことだと書いた理由である。

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