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大腿骨頭壊死症の原因とは?坂口憲二さん活動休止のニュースを解説

俳優の坂口憲二さんが、無期限の芸能活動休止を発表されたとのニュースがありました。

原因は「特発性大腿骨頭壊死症」(とくはつせいだいたいこっとうえししょう)とされています。

 

おそらく多くの方が、聞きなれない病名だと思ったのではないかと思います。

大腿骨骨頭壊死症は、厚労省の難病指定を受けた特定疾患です。

 

大腿骨頭壊死症とは、どんな病気なのでしょうか?

何が原因で起こる病気なのでしょうか?

整形外科は専門ではありませんが、一般論を分かりやすく解説してみたいと思います。

 

大腿骨頭壊死症とはどんな病気?

大腿骨とは、太ももにある太い骨のことです。

大腿骨頭とは、大腿骨の「頭の部分」、つまり、足の付け根の関節を構成する部分のことです。

何らかの理由でこの部分の血流が悪くなり、壊死するのが大腿骨頭壊死症です

 

原因がはっきりしているものを「症候性大腿骨頭壊死症」

原因不明のものを「特発性大腿骨頭壊死症」

と呼びます。

「特発性」を「とっぱつせい」と読む人がいますが、これは間違いです。

正しくは「とくはつせい」です

「突発性難聴」や「突発性発疹」の「突発性(とっぱつせい)」「突然発症の」という意味です。

一方、「特発性(とくはつせい)」とは「原因不明の」という意味です。

 

原因が明らかな「症候性」のものは、外傷や血管内にできた血栓などにより、大腿骨頭の血流が悪くなって壊死する、というものです。

放射線治療や、他の手術時の合併症として起こることもあります。

 

一方、原因不明の「特発性」は、明らかな原因がないにもかかわらず大腿骨頭が壊死する疾患です。

ただし、特発性の中には「危険因子」が分かっているものが二つあります。

ステロイド製剤の副作用と、アルコールの多飲です。

これらは特発性大腿骨頭壊死症のリスクを高めることが分かっていますが、「なぜこれらが原因で大腿骨頭が壊死するのか」は不明です

そして、これら2つの危険因子を持たない、真の意味で原因不明な狭義の特発性大腿骨頭壊死症もあります。

今回はもちろん詳細な情報はありませんので、このいずれなのかは分かりません。

 

特発性大腿骨骨頭壊死症の不思議な特徴

原因ははっきり分かりませんが、約半数の人が、片足の股関節に発症した後、1年以内に反対側の股関節にも発症します

また、約1割の人が、上腕骨(腕の骨)の骨頭や、大腿骨の下端(骨頭とは反対側)などにも多発する、といった特徴もあります。

非常に不思議な病気です。

 

女性は、20歳代のステロイド性のもの、男性は、40歳代のアルコール性のものが多いとされています。

ステロイド製剤の副作用として起こるものは、普段からステロイドを長期的に使用しなくてはならないような持病がある人に起こります

たとえば、SLEなどの膠原病や潰瘍性大腸炎など、自己免疫性疾患(免疫の異常で、免疫機構が自身の体を攻撃してしまう病気の総称)がその代表です。

(20歳代女性に多いのは、SLEの好発年齢と一致しているからと考えられます)

 

大腿骨頭壊死症の症状は?

股関節の痛みで発症します。

徐々に発症するのではなく、転びそうになってふんばる、といった日常生活で急に荷重がかかるような動作がきっかけで急性発症する、とされています。

壊死しているだけでは症状はなく、こうした荷重によって壊死した部分が潰れて初めて痛みが出ます。

したがって、痛みが出るより随分前から、気づかないうちに壊死が進んでいる、ということです。

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大腿骨頭壊死症にはどんな治療をするか?

どんな治療を行うかは、どの程度壊死しているのかによって決まります。

また、年齢や職業、片足だけか、両足に発症しているか、によっても様々です。

 

ごく小さな範囲での壊死であれば、荷重がかからない限り骨が潰れることはありません。

できる限り手術は行わずに、壊死した部分が修復されるのを期待します

しかし、これで治る場合でも、正常の骨に置き換わるのには2〜3年かかります

 

一方、広い範囲で壊死している場合は手術が必要です。

「骨切り術」と呼ばれる方法で、骨を切って荷重のかかる位置を移動させます

壊死した部分があまりに大きい場合は、人工骨頭置換術や、人工関節置換術が必要です。

つまり、大腿骨の骨頭や関節全体を、人工的に作られた器具に入れ替えるということです。

これ自体は、高齢者によく起こる大腿骨の骨折の治療としてよく行われています。

高齢者で大腿骨に人工骨頭が入っている人は非常に多くいます。

 

一方、大腿骨頭壊死症は、前述の通り若い人に起こる病気なので、できるだけ骨の温存を優先します。

人工骨頭への入れ替えを考えるのは、自分の骨頭が使えなくなってからでも十分間に合います

 

特に活動性の高い職業の人は、できるだけ骨の温存に努めるのが一般的でしょう。

よって安静は必至、ということになります。

しかも、半数は両足に発症することを考えても、とにかく荷重を避け、治療に専念することが妥当だと思われます。

 

個人の情報については憶測を語るつもりはありませんが、一般論として、大腿骨頭壊死症について解説しました。

参考にしていただけましたら幸いです。

(参考文献)
STEP整形外科/海馬書房
標準整形外科学/医学書院