研修医自殺に労災認定、医師の労働を減らす方法

新潟県の病院で2016年1 月に女性医師が自殺したのは過労が原因あったとして、新潟労働基準監督署が労災認定の方針を決めたとのニュースがあった。

亡くなった医師は、看護助手をしながら医師を目指して勉強し、2013年に研修医となったが、15年4月に後期研修医として移った病院で勤務が急増。

16年1月24日夜、行方不明となり、翌朝自宅近くの公園で遺体で発見された。

電子カルテの操作記録から、月平均残業時間は約187時間、最も多い月で251時間に達していたことがわかった。

一方病院側は、「電子カルテの操作記録の多くは医師としての学習が目的で、労働時間に当たらない」と説明していたという。

 

この病院では、同じ部署の他の医師の時間外労働も同じくらい多かったのだろうか

全医師が同じくらいの過重労働を強いられていたのなら、「医師の絶対数を増やす」とか「医師の時間外労働一律削減」のような制度の再設計が必要になる。

だが、この医師に労働が偏りすぎた結果このような事態が生じていたのなら、その医師の仕事を他の誰かが分担すれば良かったということになる。

もしそうなら、それは院内で解決できる問題で、制度の変更は不要である

 

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医師間での分業の重要性

最近、医師の過剰な時間外労働が問題視され、いくつかの基幹病院に労基署の立ち入り調査が入った結果、救急車の受け入れ抑制、外来枠削減など、著しい診療体制縮小が行われている。

だが、医師の一律の時間外労働削減は、短期的には患者に与える不利益がかなり大きい

私は以前の記事で、「勤務医の時間外労働が多いのは、能率的な分業が行いにくいから」ということを述べた。

実際若手は実働、上司は指導・教育という体制をとっている病院は多い(もちろんそんなことは言っていられないほど忙しく全員実働という病院もあるが)。

 

上述のニュースで病院側が「時間外労働の多くは学習が目的」と言うように、医療は、労働であるとともに、自己研鑽という性質も併せ持つ

そのため、これまで先輩から後輩への屋根瓦式の教育体制は、組織的に安全性を担保しつつ医師を育てるという点で、医療の発展に寄与する部分は確かに大きかった。

だが、今はどの職種においても、時間外労働をいかに減らすか、という合理的な手段を考えなければならない時代になっている。

強制的な一律の時間外労働削減が患者に与える悪影響を考えると、可能なら医師間の分業体制の確立の方を優先すべきではないかと私は思う。

 

医師・非医師間の分業の重要性

一方で、もし自殺した医師以外の他の医師も同じくらいの過重労働を強いられていたのなら、次に考えるべきは、医師の業務を他の職種の人に分担にできないか、ということだ。

つまり、第一に「医師間の分業」、それが無理なら次は「医師、非医師間の分業」を考えるということである。

 

海外であるような、麻酔看護師やCVナース(カテーテル挿入を専門的に行う看護師)、スコピスト(腹腔鏡手術でカメラを持つ専門職)などを導入するといった制度改革は、一朝一夕には不可能だ。

だが、医師免許がなくてもできる事務作業(診断書や保険・介護関連の書類作成、臨床データ入力)が、時間外労働のかなりの部分を占めていることを考えれば、大幅な制度改革がなくとも、ある程度は医師以外の職種との分業が実現可能なのではないかと思う。

 

新自由主義を代表する米国の経済学者ミルトン・フリードマンはかつて、「医師免許は不要だ」と言ったという。

まさに極論だが、1962年に書かれた著書「資本主義と自由」にある文章は、確かにその通りだと頷ける内容である。

「無資格者の医療行為が法律で禁じられた結果、別にキャデラック級の専門医でなくとも十分にこなせる多くの行為が、免許を持つ医師に限定されているのである。(中略)となると、他の人でも問題なくこなせる「医療行為」に正規の医師がかなりの時間を割くことになり、その結果必然的に、本来の医療行為に充てる時間は大幅に減ってしまう。(中略)不正や過失により他人を傷つけた場合には法的責任と賠償責任を問われることを条件に、誰もが自由に医療行為をしてよいとしよう。すると、医療の発達はいまとは全然違ったものになっていただろう。」

まさにフリードマンが50年以上前に完璧に指摘しえた医療の問題が、未だくすぶっているのが我が国であるといえるのかもしれない。

 

医師数を増やすのには時間がかかる。

時間外労働の一律の削減は患者への不利益が大きい。

その前に、それぞれの病院で分業体制の構築という余地がないかどうか、その確認は必要だと私は思う。

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