徹底解説!人工肛門ってなに?仕事や入浴はできる?どんな手術?

大腸がんや、その他の大腸あるいは小腸の病気で人工肛門が必要になることがあります。

そもそも「人工肛門(じんこうこうもん)」と言われても全くなじみがないでしょうし、「一体どんなものなのか想像もつかない」という方が多いかもしれません。

「人工肛門があっても、いつも通り仕事ができるの?」

「入浴は?」

「旅行は行ける?」

「においは気にならない?」

といった様々な不安や疑問がわきおこるでしょう。

また、ご家族が人工肛門を作る手術を受けることになり、介護のことを心配されている方もいるかもしれません。

 

私が外科医として多くの人工肛門造設術(人工肛門を作る手術)を行ってきた経験から、これらの疑問に全てお答えしたいと思います。

簡単にわかるように説明しますので、ご安心ください。

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人工肛門ってなに?

「人工肛門」ときくと、人工関節や人工呼吸器のように、器械のようなものをつけると誤解している方が多いようです。

名前がよくないのですね。

英語では、「コロストーマ」(あるいは単に「ストーマ」)と呼びます。

ストーマとは穴や瘻孔(ろうこう)のことです

胃の瘻孔は、英語で「ガストロストーマ」、日本語では「胃瘻(いろう)」です。

「胃ろう」なら聞いたことがあるのではないでしょうか?

胃ろう=ガストロストーマは、胃と外界が皮膚を通して直接つながった状態ですから、人工肛門=コロストーマは、腸と外界が直接つながった状態です。

腸の切れ端がお腹の外に見えている状態で、そこから便が出る仕組みです。

腸が外に出ている部分にパウチをつけて、便をパウチの中に溜めます。

適宜、パウチの中身をトイレで捨てたり、パウチを交換したりして便を管理します。

本来肛門から出ていた便を、腸の途中でお腹の外に出すことになるわけです。

手術によって、大腸で作ることもあれば、小腸で作ることもあります。

 

人工肛門やパウチの具体的なイメージを知りたい方は、実際に人工肛門を持っている人向けのサイト(国立がん研究センター「大腸がん手術後のストーマケア」)のイラストをご参照ください。

 

人工肛門で普通の生活ができる?

人工肛門を持ちながら仕事をしている方は多くいます。

芸能人で言うと、たとえば俳優の渡哲也さんが有名です。

アナウンサーの中井美穂さんも人工肛門であったことを公表しましたね。

人工肛門を持ちながら、世界陸上の取材で海外に行ったり、温泉レポートもされたりしていました。

人工肛門を持っていても普通に仕事はできます。

デスクワークだけでなく、肉体労働も可能です。

人工肛門がある、というだけで仕事ができなくなることはあり得ません。

また、家事買い物運転などの日常生活も制限はありませんので、心配はいりません。

旅行も全く問題ありません。

 

ただ、人工肛門の場合は便意がありませんので、自然にパウチのなかに便がたまっていきます。

定期的にトイレに捨てに行かなければならないという手間があります。

またパウチをおおむね2、3日に1回交換する必要があります(装具の種類によって日数は異なります)。

肛門から便が出ていたときに比べると、この点は不便です。

便捨てやパウチ交換は、数日トレーニングすれば皆さん簡単に習得されますので、心配はいりません。

高齢の方、介護が必要な方は、ご家族の方にもこの手順を覚えていただことになります

通常、人工肛門を作る手術を行ったあと、体の状態が落ち着いてから練習を始めます。

確実に習得してから退院となりますので、その点はご安心ください。

 

入浴はできるの?

入浴も問題なくできます。

パウチの表面に防水テープを貼って入浴される、という慎重な方もおられますが、パウチがきっちり装着できていれば、中身が漏れることはありません

また、パウチを外して入っても構いません(お湯に浸けても全く問題ありません)。

温泉銭湯のような公衆浴場も全く問題なく利用できますが、人によっては周りの目を気にして遠慮している、という方もおられます。

医学的には何の問題もありませんので、周囲の方には十分に理解していただきたいところです。

 

においは気にならないの?

パウチには防臭加工がされていますので、パウチがきっちり装着できていれば、においはありません。

少なくとも服を着ていれば、人工肛門があるかないかは、その人にどれだけ近づいてもわかりません

最初はパウチの装着に慣れず、便漏れなど失敗をすることが当然ありますが、慣れてくればそういうミスもなくなります。

 

ここからは、少し具体的な話をします。

 

人工肛門には2つの種類がある

人工肛門には大きくわけて2つの種類があります。

永久的な人工肛門と、一時的な人工肛門です。

永久的な人工肛門の場合は、手術で人工肛門を作ったあとは一生人工肛門で生活することになります。

この場合は身体障害者手帳の申請ができ、装具の購入費だけでなく、交通費など日常生活における金銭的なサポートを受けることができます(詳細は、日本オストミー協会のホームページで知ることができます)。

 

一方、一時的な人工肛門の場合は、数ヶ月、あるいは1年といった限られた期間だけ人工肛門で過ごし、適切な時期が来たら手術をもう一度受けて、人工肛門のない体に戻ります。

 

ちなみに渡哲也さんは直腸癌の手術による永久的な人工肛門です。

一方、中井美穂さんは腹膜炎の手術によって一時的な人工肛門となりましたが、現在人工肛門をなくされ、元の体に戻っています

 

この2つをどう使い分けているのでしょうか?

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どんな時に人工肛門が必要か?

永久的な人工肛門

永久的人工肛門の多くは、癌の手術で必要になります。

代表的なのは、肛門に近い位置にできた直腸癌肛門管癌の手術です。

癌を残さず切除するためには肛門も一緒に切り取ってしまわなければいけません。

このように肛門がなくなる手術を受けた方は、永久的な人工肛門になります。

 

一時的な人工肛門

こちらは、一部の直腸癌、癌以外(良性の疾患)の大腸の病気、小腸の病気など、挙げればきりがないほどたくさんあります。

また、大腸で人工肛門を作ることもあれば、小腸で人工肛門を作ることもあります。

ちなみに、潰瘍性大腸炎クローン病腸閉塞痔ろうなどの病気を例として挙げているサイトを見かけます。

私たち外科医の感覚では、これらの疾患で人工肛門が必要になるケースは非常に少なく(重症例のみ)、例としてあえて挙げるにしては、頻度が低すぎます。

ここでは確実に頻度が高く、みなさんが遭遇する可能性の高い2つのケースを解説します。

 

一部の直腸癌

病院の方針にもよりますが、直腸癌のおよそ10〜30%で一時的な人工肛門が必要です。

そして、大腸がんの4割以上は直腸にできます

頻度が高いと書いたのはそれが理由です。

なぜ一時的な人工肛門が必要なのでしょうか?

 

上述の通り肛門を切り取らなければならないような直腸癌は永久的な人工肛門になります。

ただ、ある程度肛門から距離がとれる位置の直腸癌の場合、肛門を温存することが可能です。

通常、大腸がんの手術は、がんがある部分を含む10〜20cm程度の大腸を切除し、その上流と下流をつなぎ合わせる手術を行います。

ただ、直腸癌の場合は、このつなぎ合わせた位置(吻合した位置)が肛門に近くなり、排便時にもっとも圧がかかりやすい位置に縫い目が来ることになります。

縫ったばかりの時期に便が通って縫い目に圧がかかると、縫ったところは容易に破綻してしまいます。

 

たとえば、皮膚の切り傷を縫い合わせると、完全に肉が盛ってくっつくのに数日はかかります。

治り切る前に縫ったところを引っ張って圧をかけると傷が開いてしまう、というと理解しやすいでしょうか。

 

そこで、この部分がきれいにくっついてしまうまでの間、縫い目の部分を便が通らないように(圧がかからないように)する、という処置が必要です。

その際行うのが、上流の小腸で人工肛門を作ることです。

小腸に人工肛門があれば、便は大腸に到達する前に小腸から体外に出ますので、縫い合わせたところを安静に保つことができます。

通常、3〜6ヶ月後に人工肛門を閉鎖し、それ以後初めて便が大腸を通ることになります。

 

下部消化管穿孔(大腸穿孔)

何らかの理由で大腸に穴があく病気があります。

癌が原因のこともありますし、憩室(けいしつ)といって大腸のくぼんだ部分に穴があく病気(憩室穿孔)もあります。

中井美穂さんがご自身のオストメイト経験を話された講演では、「良性の病気で大腸に穴があいた」と話されていましたから、この病気だったのではないかと思います。

いずれにしても、大腸に穴があくと便がお腹の中に漏れ、重症の腹膜炎を起こします。

こういう場合、穴を縫い閉じたり、穴のあいた部分の大腸を切り取って縫い合わせてもうまく治りません。

すでにお腹の中が便で汚染されている状態で腸を縫っても、きっちり肉が盛って治らないのです。

 

上述と同じように、皮膚の切り傷を縫ったときを考えてみましょう。

この場合は、何針か縫って閉じたものを、バイキンだらけの水のなかにひたしておくようなものです。

すぐに傷口は開いてしまうでしょう。

 

そこで、こうした大腸穿孔例では、多くの場合は穴があいた部分を切除するだけで、その場では縫い合わせません。

切った断端を一時的な人工肛門にします。

お腹のなかの炎症が治まったのちにもう一度手術をして、人工肛門を閉鎖し、改めてつなぎ合わせます。

ただし、炎症が軽い場合はつなぎ合わせることもありますし、つなぎ合わせた上で吻合部を安静にするために小腸で人工肛門を作る(上述の例と目的は同じ)こともあります。

これは腹膜炎の重症度によってケースバイケースです。


最後は少し難しい話になってしまいましたが、人工肛門のだいたいのイメージはつかめましたでしょうか?

人工肛門をつけている人はたくさんおられます。

気付かないのは、それだけ日常生活を普通に送っているからです。

もしあなたが、「人工肛門が必要だ」と言われても、それは病気を治すために不可欠な治療だと思って前向きに受け入れてください。

人工肛門の専門の認定看護師(WOCナース)は知識が豊富な心強い味方ですし、多くの社会的なサポートもありますので安心してください。

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