普通の外科医が思うこと

私は、某国立大学を卒業し、一般勤務医として地域の市民病院で働く普通の外科医である。

この「普通の勤務医」には、驚くほどメディアでの発言権がない。

メディアは、新しいことや珍しいことをニュースにしなければ、その価値を失うと考えているからだ。

従って、必然的にメディアで発言権を持っている医師は、

「一風変わった主張をする異端」

「異色の経歴の持ち主」

と決まっている。

世間一般の勤務医のサンプルとは言い難い場合が多い。

例をあげよう。

「癌は放置せよ」との考えでメディアでも頻繁に取り上げられ、ベストセラーを多数執筆しているK氏。

癌の標準治療を真っ向から否定するマイノリティである。

標準治療とは何か。

多くの疾患には治療ガイドラインがあり、医師は通例そこに掲載されている標準治療を選択して治療する。

特に私の扱う消化器癌(胃癌、大腸癌、膵癌など)は、罹患人口が多く、これまで医師や医学研究者らが臨床試験を繰り返して治療法が模索され、新たな知見が出るたびオンライン上でガイドラインが更新されている。

従ってその標準治療の信頼性は高い。

現時点で患者さんに提供出来る最良の治療選択肢の一つと考えて良い。

だが、

「皆さんと同じように、ガイドラインに記載された標準治療を受けましょう」

ではメディアのネタにもならない。

K氏が注目されるのは、その発言が極論で、

「そういうことを言う医師が他にいないから」

である。

癌と診断され、より良い治療を求めて藁をも掴む思いの患者さんたちは、メディアで取り上げられる治療に飛びついても無理はない。

私はこうした治療を否定したいわけではない。

これまで膨大なデータが解析され、数多くの治療法が「効果なし」として捨てられる中、生き残ってきた標準治療と、まだ効果が十分に証明されているとは言い難い(もしかしたら今後効果を示すデータが整うかもしれない)新しい治療

という二つの選択肢を提示されているということを患者さんにはわかってほしいだけである。

その上で後者を選ぶのなら、その選択に異論を差し挟む余地はない。

 

話を戻そう。

もう一つ例をあげる。

日経ビジネスオンライン誌で唯一の医師ライターであり、またYahoo!ニュースでも記事を連載して人気のN氏は、私と同じ、大腸を専門とする消化器外科医である。

都心の大病院で研修を積んだのち、一念発起して福島県の高野病院院長を務め、現在福島県郡山市の総合病院で働く異色の経歴を持つ外科医だ。

原発事故後に地元に残って患者らを支えた高野病院院長が亡くなったのち、近隣の非常勤医師がボランティアで診療を続けているという実情をきき、異動を決めたという。

街中で一介の外科医として日々の手術をこなすだけの私にとっては、同業者としてその尊い決意に大変感銘を受けるのだが、彼の語る「ことば」は、やはり「普通の」勤務医の言葉ではない。

異色の経歴の持ち主が語る、「ほかの医師が言えないこと」だ。

 

一般市中病院で働くその他大勢の「異色ではない」医師の声がメディアに載せられることはほとんどないのだということを、私は少々歯がゆく感じている。

「普通の」勤務医こそ、医療の現場に根ざした問題提起を行うことができ、医療システム改善に益する妙案を提示できるという考えから、私はこれまで新聞や雑誌などの媒体に自分の言葉を繰り返し投稿してきた。

しかし文章の長さに制限があったり、内容が厳しすぎるためにニュアンスを変更せざるを得なかったりと、自分のことばをストレートに表現することが難しかった。

無論、すでに一定の読者数が確保されたプラットフォームに自分の文章を載せることには、それなりの責任と制約が伴うのは当たり前のことである。

 

以上のことから、私はこのサイトを使って、一介の外科医の立場で自由に思う所を述べていきたいと思っている。

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