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手術後の傷口の痛み、赤み、化膿など傷の変化は受診すべき?

手術を受けた方が退院され、次回の外来までの間に傷の変化があって連絡を受けることがしばしばあります。

「傷が赤くなった」

「傷口が開いた」

「傷から汁(膿み)が出ている」

などの変化です。

退院後にいつもの生活に戻ると、体の少しの変化でも不安になるのは当然のことです。

 

原則、傷になんらかの変化があって心配な時は早めの受診をおすすめします。

ただ、緊急で受診した方が良いのか、応急処置として何か対処した方がいいのかなど、ある程度知識は持っておきたい方も多いかと思います。

そこで今回は、術後の傷にあり得る変化について、様々なケースに応じて簡単に解説します。

なお、傷に何らかの変化があっても、消毒は行ってはいけません

これについても最後に説明します。

 

傷口が痛い、かゆい

まず、手術の傷口の痛みはかなり長期間続くのが普通です。

日常生活では腹筋をよく使いますので、お腹の傷の場合、軽く咳をしたり笑ったりするだけでも傷に痛みが出ます。

完全に痛みがゼロになるまで数ヶ月はかかるとお考えください。

よって、「お腹の手術後に傷が長い間痛い」というケースは、これから書く「傷の表面の変化」が全くなければ心配はいらないことがほとんどです。

また、傷口が痒くなることもありますが、これも同じです。

傷が治る過程で痒みが生じることはよくありますが、これから書く変化がないなら様子を見て構いません。

 

傷の赤み

傷の周りに軽い赤みが出ているだけであれば、緊急で受診する必要はありません。

術後の創部に大きな問題がなくても、軽度の赤みが残ることはあり得ます。

ただし、心配すべきなのは傷が感染していないかどうかです。

赤みの程度が徐々に強くなる場合、赤みの範囲が広くなってくる場合、押さえると痛みがある場合、硬くなっている場合などは、感染の可能性があります。

緊急とは言いませんが、早めに受診が必要です。

 

傷の排膿(膿が出ている)

傷の「化膿」と一般に言われる現象を、我々医師は「排膿(はいのう)」と呼びます。

「傷から汁が出ている」という場合は、まずその液体の性状を確認しましょう。

白っぽい、あるいは灰色っぽい濁った色である場合や、悪臭がある場合は膿(うみ)の可能性が高いです。

放置すると悪化することが多いため、早めに受診が必要です。

一方、黄色透明臭いのないサラサラした液体であれば、皮膚の下に溜まっていた滲出液(しんしゅつえき)が排出されただけで、感染ではない可能性の方が高いと考えられます。

感染でなければ、様子を見ていれば自然に治まります。

治らない場合、量が多い場合は早めに受診しましょう。

 

傷口が開く、ふさがらない

傷の開き方が軽い場合(およそ5mm以内)であれば、緊急で受診は必要ありません。

ただし傷がさらに開いてくる可能性があり、場合によってはテープでとめたり、再縫合などが必要になりますので、早めに受診しましょう。

お腹の場合は、傷が数センチにわたって大きく開き、が見えている、という事態がまれに起こります。

この場合は、夜中であっても緊急で受診が必要です。

なお、最近は傷を皮膚の内側で縫う埋没縫合が多く、抜糸は行いません(自然に溶ける糸で縫います)。

一方、抜糸が必要な縫い方の場合は、傷の治りが悪い患者さんの場合、抜糸後に傷が開いてしまうことがあります。

注意して見ておきましょう。

 

傷の内出血

傷を縫い閉じた後、皮膚の下にたまった血液が、表面から見えることがあります。

打撲のあとの打ち身青あざのようなものです。

正確には、皮下血腫と言います。

皮下血腫は誰でも起こり得ますし、重力に伴ってゆっくり広がるのも普通のことです。

下腹部の手術の傷が、下に降りてきて陰嚢まで広く真っ青になることもあります。

血腫は自然に吸収されて消えますので、特に治療は必要ありません(通常は青色から徐々に黄色っぽくなって薄くなっていきます)。

様子を見ておいて構いません。

ただ、短時間で急速に広がってきた、という場合は、皮膚の下で現在も出血が起こっている可能性があり、緊急で受診が必要です

 

傷の出血

傷から出血を起こすことがあります。

少量、じんわり出ているだけであれば、ティッシュやガーゼなど清潔なもので圧迫してください。

圧迫してすぐに止血できるようであれば、緊急で受診は必要ありません。

ただ、出血を繰り返す場合や、いつまでも出血が持続する場合、血が滴るほどたくさん出ている場合はすぐに受診しましょう。

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傷のふくらみ、盛り上がり

「傷が膨らんできたしこりがある」というのは、単に自然に治る経過を見ているだけの場合もあれば、皮膚の下に膿がたまってきたという場合もあります。

膿がたまっている場合は、赤みがあったり、押さえると痛みがあります。

こういう場合は感染の可能性があるため受診が必要です。

一方、全く赤みもなく、痛みもなく、単に膨らんでいるだけという場合は様子を見ても構いません。

ただし膨らみがどんどんひどくなる場合は受診しましょう。

 

傷が硬くなってきた

上述の膨らんできた場合と全く同じです。

押さえた時の痛みや赤みがあるかどうかがポイントです。

それらが全くなく、単に硬いだけ、という場合は様子を見ても構わないでしょう。

ただし、同じくひどくなる場合は受診が必要です。

 

傷から糸が出てきた

前述の埋没縫合を行なったケースで、数日後に傷の隙間から硬い糸が出てくることがあります。

埋没縫合は溶ける糸(吸収糸)で行いますが、溶けるまで数ヶ月かかります。

したがって、溶ける前に表面に出て来てしまうことがあるのです。

通常、傷が開いていなければ全く問題はありません

上述のような他の傷の変化がなければ放置してもOKです。

ただし、糸が引っかかってチクチクする場合は切ってもらう方が良いでしょう。

その場合は受診が必要です(普通に切るだけです)。

 

その他の注意点

なお、退院後もご自身で毎日イソジンやマキロンなどの消毒液をつけて傷の消毒をされる方が時々います。

かつては、手術後に毎日外科医が回診し、傷にイソジンをつけていた時代がありました。

現在では、傷の消毒は傷の治りを悪くするということがわかり、特別な場合を除いて消毒は一切行わなくなりました

医師からの指示がない限り、自宅で自己判断で消毒をすることはやめましょう

以下の記事もご参照ください。

消毒と乾燥は厳禁!すり傷・切り傷を早くきれいに治す方法

 

もし、創部の感染が起こると、ひどい場合は傷跡がのちのちも目立ちやすくなります。

手術の傷跡の残りやすさは体質によってずいぶん異なりますが、一度大きな傷跡が残ると、完全に消すことは難しくなります。

傷を綺麗に治すためにも、感染はなるべく悪化する前に治すことが大切です。


以上が術後の傷に起こりうる変化の一覧と対処法です。

様子を見ても良い、と書いたものでも、「治らず持続する」「ひどくなる」という場合は、早めに受診をおすすめします

なお、今回の記事で想定しているのは、私の専門である腹部の手術(開腹手術腹腔鏡手術)の術後の傷です。

消化器、産婦人科(帝王切開なども含む)、泌尿器科などの術後であれば当てはまりますが、整形外科や脳外科などの手術の傷に関しては、異なる注意が必要である可能性もあります。

担当の医師に必ず相談しましょう。

 

術後の入浴、飲酒、運転などの日常生活についての注意点を知りたい方は以下の記事をご参照ください。

胃がん・大腸がんの個別の術後の注意点を知りたい方は以下の記事をご覧ください。