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ブラックペアン第4話感想|改造が許される寛容な治験と論文不正の謎

一般に、研修医のことを業界用語で「レジデント」と呼ぶ。

「レジデント」とは、「住人」という意味だ。

研修医は自宅に帰る暇もなく働き続けるため、「病院に住んでいるようなもの」という意味で今でもこう呼ばれている。

 

東城大病院では、中堅医師でありながら病院に「住んでいるようなもの」どころか、炊飯器を持ち込んで「本当に住んでいる」医師がいる。

天才外科医、渡海征司郎(二宮和也)である。

渡海の「住居」に訪れた花房看護師(葵わかな)には、親切に卵かけご飯をふるまうほど「住人感」は満載

勤務中に病棟を離れて医師の仮眠室に入りびたるなど、バレたら看護師長から大目玉を食らうどころでは済まないだろう。

むろん、そんな花房さんも病棟ナースなのかオペ室ナースなのか所属は不明であり、誰に叱られるのかはわからない

こういう設定は医療ドラマの「あるある」であって、見ていて面白い部分である。

 

ただ、ブラックペアンはエンターテイメント重視だけあって、臨床上重要な部分でのツッコミどころも多い。

しかしながら、ドクターXのように全体に漂う「コント感」は一切なく、至って真面目に進行するのが特徴と言える

「治験コーディネーター事件」も、岸部一徳さんが大金と一緒にメロンを渡していればこんな大ごとには発展しなかったわけだ。

そう考えると、医療ドラマの「バランス感覚」とは難しいものだと痛感する。

 

さて、これまで通り第4話の感想を気ままに書いたみたいと思う。

早々にネタ切れ感は否めないが、今回は機械の改造と論文の最高責任著者をめぐる争いについて、私の考えを述べておきたいと思う。

 

さも簡単に登場する「新型スナイプ」

今回は、血小板や凝固因子が少なく血が固まりにくい上、不規則抗体を持つために輸血が難しい小児患者が登場する。

帝華大病院時代から担当していたこともあり、その患者さんには思い入れの深い高階。

何としてもスナイプで救いたいとシミュレーションを繰り返すが、今回もやっぱり「自分では無理」と渡海に頭を下げることになる。

 

問題はスナイプのサイズが大きすぎるため、いつものように心尖部からのアプローチができないことだった。

そこで渡海は、カテーテルを使って大腿静脈(足の付け根の静脈)からスナイプの人工弁装着システムを心臓まで運ぶという方法を提案。

設計図を取り寄せ、あろうことかスナイプを改造してしまう

「新型スナイプ」と名付けられた器具は、オペ室側もあっさり受け入れOKで、渡海は今回もすんなり成功させてしまう。

 

それにしても、思わず「スナイプ治験が進行中」であることを忘れそうな展開である。

前回記事の繰り返しになるが、治験の対象にするのは、十分に安全性が担保でき、かつ効果が期待できる患者さんでなくてはならない

ところが今回は、最初から成功率は「5%にも満たない」と分かった患者さんを治験の対象にする、という驚くべき展開。

さらには、まさかの

「小児」でもOK

「凝固異常」でも「不規則抗体あり」でもOK

あろうことか「器械は改造しても全然オーケイ!」と、もはや何の治験なのかさっぱり分からないレベルに達している

ここを「適応外です」と止めに入るはずの「治験コーディネーター」は今日も、

「全て当初の計画通りですか」

「治験をコーディネート」することはなく、佐伯とミシュラン星付きのラーメン屋で密会と来ている。

なかなか凄まじい展開である。

 

もちろん毎度のことながら手に汗握る面白い展開なのだが、回を追うごとにトンデモ度も加速度的に増している

エキサイティングであると同時に様々な疑念が次々に沸き起こるため、ある意味ジェットコースターに乗せられているような気分にさせられる。

素直に楽しめば良いのだが、なかなかそうもいかないのが医師の性である。

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論文の最高責任者の謎

高階執筆のスナイプ論文が、ついに日本外科ジャーナルに出版される。

佐伯(内野聖陽)に忠誠を誓ったように見せかけて東城大病院でスナイプ症例を稼ぎ、結局寝返って帝華大の西崎(市川猿之助)の名前を最高責任者に載せた高階。

しかし衝撃的なのは、論文の著者として名前が載るはずの彼らが、雑誌を開くまで自分の名前の位置を知らなかったことだ。

 

近年、論文不正が話題になって久しいが、この不正の例として「ギフトオーサーシップ」というものがある。

Wikipediaの「科学における不正行為」にある文言がわかりやすいので引用しよう。

(ギフトオーサーシップとは、)論文の成立に直接貢献していない者が、あたかも「論文の共同執筆者」であるかのように名を連ねる(自身の名前を書き足す)という不正行為。

研究室の責任者の立場にいる者などが行うことが多い。

これは、立場の強い者が政治力を行使して名を表示させるケースだ。

今回のドラマで佐伯や西崎が行なった行為を見て、「大学病院『あるある』だ」と思われた方がいるかもしれない。

だが、さすがにこれは「あるある」を超えた「ただの不正行為」ということは強調しておきたいと思う。

 

私たちも論文を書くときは、「責任著者を誰にするか」を決めることになる。

一般にこの著者のことを「corresponding author(コレスポンディングオーサー)」と呼ぶ。

一方、論文を実際に書く高階のような医師は、「first author(ファーストオーサー)」と呼ばれる。

著者の中で先頭に名前が来る人のことだ。

 

論文執筆の際は、コレスポンディングオーサーはファーストオーサーの指導的立場であることが多く、頻繁にやりとりしながら一緒に論文を完成させていくのが一般的である。

また著者に名前が並ぶ医師たちは、コレスポンディングオーサーを含め全員が原稿を読み

「ここはこんな表現に変えた方が良いのではないか」

「この統計解析はこちらの手法を使った方が良いのではないか」

「考察にはこういう記載を追加した方が良いのでないか」

と助言を加えながら論文の完成度を高めていく。

あるいはファーストオーサーが論文を書きなれている人であれば、完成した時点でコレスポンディングオーサーを含む著者全員が目を通し、投稿にこぎつける。

 

むろん投稿してもすぐに受理されるわけではない。

査読(いわゆる審査員による審査)があり、「修正依頼(リバイズ)」で返って来ればさらに論文を練り直す

この際も、著者全員がその状況を逐一把握し、一緒に論文の修正を行う。

そして再投稿の末ようやく受理され、さらにその後出版までの数ヶ月の時を経て、ようやく雑誌に論文が掲載される

著者に名前を連ねる人はこの間、何らかの形で論文作成に貢献することが求められる。

 

よって雑誌を開いて「こんなところに私の名前が!」というようなことは、現実には起こり得ない。

これだけの長い過程の間、コレスポンディングオーサーとなりうる人が論文作成を手伝っていないどころか、

「自分の名前がどこに書かれるかも知らなかった」

という状況が周囲に知れれば、大学病院の立場はかなり危ういということである。

医療ドラマにおける「大学病院内の権力闘争」は定番となっているが、さすがにここは強く主張しておきたいと思う。

 

というわけで第4話の感想はこれにて終了。

毎回楽しく視聴していることは強調しておくが(そもそも面白くなければ毎週見ない)、やはりツッコミを入れずにはいられない。

「ウザい奴だ」と思われるだろうが、来週も全開で突っ込んでいく所存である。