『すばらしい医学』シリーズ累計21万部

劇場版コードブルー|映画徹底ネタバレ解説&あらすじ その1

コードブルー1st SEASONから約10年、ついにコードブルーが映画になった。

藍沢ら元フェローたちは立派な救急医となり、3rd SEASONを経て新フェロー達も現場で動けるようになっている。

劇場版では、彼らが一流救急医として未曾有の大災害でスムーズな動きを見せる一方で、患者との関係で苦悩し、医師としてまだ成長途上にある姿が描かれる。

 

また、相変わらずリアルで迫力のある現場シーンは健在で、冒頭の処置シーンからいきなり専門用語の嵐

これまで何度も書いてきたように、コードブルーでは視聴者が医学的な意味を理解して見ることが想定されていない

とにかくリアリティの追求が最優先。

「何を言っているかさっぱり分からないが面白い」と感じさせれば目的は達成である。

これが「コードブルー」というシリーズの最大の特徴であり、他の医療ドラマとは異質であるポイントだ。

 

実は私のような医師ですら、映画内で高速で交わされる専門用語での会話に完全についていくのは難しい。

むろん、実際の医療現場でも、治療に参加していない医師が横で会話を聞くだけでは、治療の進行が掴みにくい。

コードブルーでは、セリフやスタッフらの動きがかなり本物に近いため、これと同じ現象が起きるのは当然である。

 

さて、このブログではこれまで、コードブルーを見た人が感じるであろう疑問を解決し、よりドラマを楽しめるようにするため、徹底解説として60本以上の記事を書いてきた

今回の映画でも、

「意味が分かると一層楽しめるシーン」

や、

「どこまでがリアルなのかは知っておいた方が良いシーン」

がたくさんある。

 

特に最大の見せ場となった海難事故現場で窮地を救った藍沢(山下智久)らの手術は、現役の医師でもなかなか思い付かない究極の解決策

それでいて医学的矛盾はなく、トンデモでもない

このシーンを含め、全編に渡って分かりやすく解説していきたいと思う。

 

なお、ここから先は完全なネタバレとなる。

映画をまだ視聴していない方は、ぜひ「ネタバレなし感想記事」を読み、先に映画を見に行っていただきたいと思う。

また、今回の映画が初めてのコードブルー、という方には、これまでのあらすじや人物関係をまとめた記事があるため、そちらもぜひ読んでいただきたい。

 

成田空港の飛行機事故

翔北救命救急センターにドクターヘリ要請が入る。

成田空港の飛行機事故で、多数の負傷者が発生しているという。

現場に向かった白石(新垣結衣)ら翔北のメンバーは、現場で寝かされた多数の患者の手の甲に数字が書かれ、すでに何者かによってトリアージ(重症度のランク付け)されていることを知る。

現場にはまだ他の病院から医師は到着していないはず。

そこへ現れたのは藍沢耕作だった。

留学先のトロントから一時帰国直後に起きた事故で、即座に現場で救急医として救助に参加していたのだ。

 

多数の患者に次々に処置を行う中、白石は胸部外傷を負った一人の女性を診療する。

女性は帽子をかぶっていたが、帽子を脱がせると髪の毛がない。

翔北に搬送後、進行したスキルス胃がんで抗がん剤治療中であることが発覚する。

 

女性は重度の胸部外傷を負っており、回復まで4〜8週間。

抗がん剤の効果はすでに乏しくなっており、傷が治るまでに胃がんによって命を失う可能性もある

結婚を目前に控えた中で、いまだ現状が受け入れられない中での事故だった。

 

彼女の元に結婚相手の男性が訪れ、どうしても結婚式をしたいと訴えるが、式場の予約が取れたのは1ヶ月後

それまで体が持つかどうか分からない。

これを知った冴島(比嘉愛未)は、藤川(浅利陽介)と挙げる予定だった式の日程を彼らに譲ることを決意する。

希望が叶った女性は車椅子で式を挙げるが、式の最中で大量に吐血

再び翔北に搬送されてしまうのだった。

 

がんの終末期に医師が行うべきこと

救急医療がテーマのコードブルーにおいてがんの終末期」がメインに描かれたことはこれまでなく、非常に新鮮だった。

これまで、恋人の死を目前にしてもなお、看護師として患者を救うことを最優先してきた冴島。

赤の他人に結婚式を譲るなんて、と思う人もいるかもしれないが、これは冴島がこれまで絶えず見せてきたプロ意識を知っていれば違和感を持つシーンではない。

 

だが、「末期がん」「救急医療」は、感動的なドラマにおいて共存しにくい、というのが日々がんを診療する私の本音だ。

女性のがんにはすでに抗がん剤の効果がなくなっており、月単位の予後だとされている。

その上、重度の外傷を負い、これによっても命の危険がある状態。

「救命のために全力を尽くすこと」よりも、「死を前向きに受け入れるためのお手伝い」が重視される段階だ

 

実際のがん診療の現場では、終末期の患者さんには苦痛を伴う積極的な治療は行われず、ご本人の同意の上でQOLを重視した治療を優先することが多い。

余命が短い患者さんとそのご家族に対して医療者は、死を前向きに受け入れられるよう心身ともにサポートする必要がある

ある意味で、瀕死の患者さんを救命することと同じくらい、あるいはそれ以上に難しい仕事である。

これは、コードブルースピンオフ第2話の解説記事でも詳しく説明したことだ。

 

もし現実にこういう状況で重度外傷を負った患者さんがいれば、まず行うべきは「DNRの確認」となるだろう。

DNRとは、呼吸や心臓が止まるような急変時に、本人の身体を痛めつけてまで蘇生処置を行わない、という意思の確認のこと。

2nd SEASONでも大きなテーマとして扱われたポイントだ。

 

がんの終末期の患者さんは、苦痛を伴う蘇生処置を行っても長期予後が期待できず、患者さんにとってデメリットが大きすぎるからである。

そしてDNRの同意が得られた患者さんには、気管挿管を行うことはない。

 

したがって今回のように、胃がんからの大量出血で吐血し、出血性ショックになった彼女が、人工呼吸とREBOAを使って全力で蘇生されるシーンでは、

「彼女はこれを望んでいるということを本当に、間違いなく確認しているのだろうか?」

と心配になってしまう。

「仮に結婚式までは延命を希望したとしても、その後の処置については事前に厳密に詰めているのだろうか?」

と厳しい目で見てしまうのが、がんを専門に診療する医師の感覚である。

 

胃がんからの出血は現場でもよく遭遇するが、時に止血が困難で、特に終末期の患者さんでは輸血以外には積極的な治療ができないことも多い

この女性は入院中にもすでに何度か大量吐血しており、かなり厳しい状態だった。

よってこうした患者さんへの対応を考える時は、とにかくかなり早い段階での急変時の対応に関する説明が必要となる。

 

むろん、コードブルーではこの救急対応こそが見せ場であり、なくてはならないシーンである。

だが、がんの終末期における蘇生処置はかなりデリケートなポイント。

末期がんと派手な救急医療が感動的なドラマでは共存しにくい、と書いたのはそれが理由である。

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がん診療における細かなリアリティ

だが、こうしたがん診療においても、細かいところまでリアルに再現されているのは、コードブルーの特筆すべきポイントだ。

例えば「髪の毛が全くなくなった女性」は、抗がん剤治療中の患者さんとしてドラマでよく表現される。

だが実際には「脱毛」という副作用がない抗がん剤も多いため、厳しい抗がん剤治療を行っても髪の毛が全く抜けない人は多くいる

抗がん剤の種類が違えば、副作用も違うのは当然のことだ。

 

だが今回この点においては医学的に矛盾はない。

この女性がこれまでに使用したのは、イリノテカンとドセタキセルとされるが、これらの代表的な副作用こそが「脱毛」である。

胃がん治療においては、「ファーストライン」として最初に使う抗がん剤(シスプラチン/オキサリプラチン+S-1)で脱毛が起きることは確率的にまれ。

これが効かなくなり、セカンドライン、サードラインと移行する中で、イリノテカンやドセタキセルが使われることになる。

この女性が終末期であることを考えると、直近に使用した抗がん剤がイリノテカンとドセタキセルである事実は理にかなっている

 

また、余命を尋ねられた白石が答えたセリフが、

「統計を超えて生きる人もいるし、明日何かが起きるかもしれません」

だった。

がんの終末期の患者さんを診療する医師であれば、数え切れないほど口にしたことのあるセリフ、そのものである。

 

このたった一言だけでも、「末期がん」という難しいテーマを描くに当たって綿密な取材が行われたことが容易に分かる

リアリティを追求するコードブルーらしいシーンであると言えるだろう。

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