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劇場版コードブルー|藍沢の英語シーンと雪村母の外傷を解説!

劇場版コードブルーの疑問を解決するQ&Aコーナー。

今回は、藍沢の英語シーンと、雪村のお母さんの頭部外傷を取り上げたいと思います。

藍沢の英語は予告編でも紹介されましたが、英語で交わされた一連の会話にどんな意味があるのか、よく分からなかったという方も多いでしょう。

また、雪村のお母さんの怪我についても、

「あんなこと本当にあるの?」

と疑問に思った方は多いかもしれません。

わかりやすく解説しましょう。

※以下ネタバレです。ご注意ください。

 

藍沢の英語シーン

藍沢が英語を話すのは、映画のラスト、最もカッコいいシーンです。

重度の外傷から立ち直り、予定通り藍沢はトロント大で脳外科医として勤務しています。

藍沢が執刀する手術中に、突然患者の血圧が上昇

何が起こったのか、同僚の脳外科医たちは分からず困り果ててしまいますが、藍沢はとっさの判断で適切に対処しました

このシーンは非常に短いので、細かい部分まで医学的に解説することは難しいのですが(私は脳外科が専門でないというのも理由ですが)覚えている限り再現してみます。

(全てのセリフは覚えきれていませんので、記憶を頼りに部分的に抜き出しています。誤りがあるかもしれませんがご容赦下さい)

 

まずこのシーンは藍沢の、

“Knife, please.”

から始まります。

「メスお願いします」ですね。

その後、突然患者の血圧が上昇、オペ室が騒がしくなります。

藍沢は術野の脳の状態を見ながら、

“She has a cerebral edema.”

と言います。

cerebralは「脳の」、edemaは「浮腫(むくみ)」です。

「脳が腫れている」ということです。

“she”ということで、この患者は女性であることがわかります(構文上主語が必要となる英語ではこのように性別が分かります)。

 

次に藍沢は、

“How is a blood pressure?”

と聞きます。

“blood“は血液、”pressure”は圧力(プレッシャー)ですから、”blood pressure”は「血圧」です。

「血圧はどうだ?」ですね。

これに対して慌てながら同僚が、

“Increasing, rapidly!”

“What could be happening!?”

というようなことを言います。

「急速に上がっている!」「何がおきてるんだ!?」という感じです。

 

血圧を下げようと、カルシウム拮抗薬(calcium blocker、降圧薬の一つ)の投与を慌てて指示したりするのですが、藍沢は至って落ち着いています。

しばらく考えたのち、

“There is a remote hemorrhage. I’m going to make a burr hole.”

と言い、周囲がどよめきます。

“remote”は「遠隔の(リモート)」、”hemorrhage”は「出血」ですので、「遠隔部に出血がある」、つまり、

「開頭して今見えている術野とは離れた、見えない部分で出血している」

という意味です。

 

そして藍沢は、「”burr hole(バーホール)”」を提案。

バーホールは「穿頭」、つまりドリルを使って頭に一円玉くらいの穴を開けることです。

別の部位で頭蓋骨に穴を開けて、血液を吸引しよう、という提案でしょう。

これはまさに、藍沢が翔北にいた頃「どこから出血しているか分からない!」となった時に現場で何度も経験してきた処置です。

3rd SEASON第6話でも、何度も頭に穴を開けるシーンがありましたね。

 

この藍沢に対して、

“You never lose your cool in a new situation, do you?”

“You became a neurosurgeon after much experience in the emergency medicine.”

と感心したように同僚が言います。

 

まず一つ目のセリフですが、

“You never lose your cool”とは、「あなたは決してクールさを失わない」ですね。

“in a new situation”は、「新しい状況で」です。

最後の”do you?”は、中学英語で習う付加疑問文ですから、

「お前は予想外の状況でもいつも冷静なんだな?」

のような感じになります。

 

そして二つ目のセリフでは、

“neurosurgeon”「脳神経外科医」

“after much experience”「たくさんの経験の後で」

“in the emergency medicine”「救急医療において」

ですから、直訳すると、

「救急医療の現場でたくさんの経験をした後で脳外科医になった」

となります。

 

ただし、このように「after以下の句が後ろから文を修飾している」と読むのは日本人の発想です。

当然英語を聴く時は前から順に聴いているので、ニュアンスを正確に反映した意訳にするなら、

「脳外科医になる前に救急の経験が豊富にあったんだったな」

というような感じが適切です。

ここを「前は」と意訳するのは翻訳なら適切ですが、受験英語の英文和訳で慣れない人がやると、構文が取れていないと採点者に誤認される恐れがありますので、受験生は避けましょう。

 

そしてこれに対する藍沢の答えは、

“Yes, I used to be a flight physician.”

です。

映画のCMで使われたセリフです。

「ええ、かつてフライトドクターでしたから」という感じですね。

“used to〜”は高校英語で出てくる「かつて〜した」です。

“physician”は、”surgeon(外科医)”と比較して「内科医」という意味で使うこともあれば、単に”doctor”の代わりで「医師」として用いることもできる単語です。

 

英語講師をやっていた頃を思い出して英語の授業になってしまいました。

比較的わかりやすい英語のシーンでは、英語そのものを聴いて字幕はあまり読んでいないので、字幕でどう表示されていたかはあまり覚えていません。

ここに書いた意訳とは少し違うかもしれませんが・・・。

 

雪村の母の頭部外傷

雪村の母はアルコール依存症で、お酒を飲みすぎては同居している雪村の姉に迷惑をかけています。

雪村は、母と距離を取りたいあまり、家を出て一人暮らしをしています。

 

そんな雪村の元へ、包丁が頭に刺さった状態で母が搬送されてきます。

母は泥酔状態で初療室でも大暴れ。

ふとした拍子に頭から包丁が抜けてしまいます。

その直後に意識がなくなって痙攣し、緊急事態に陥ってしまいました。

結局包丁は脳の隙間(脳の実質がない部分)に刺さっていたので、後遺症を残さず無事回復します。

 

最初に撮影した頭部レントゲンでは、包丁が頭蓋骨を派手に貫いている様子がわかります。

骨は硬いのに刃物が貫くようなことはあるのか?

と疑問に思った方は多いようですが、実際こうした事例は本邦でも報告が複数あり、起こってもおかしくはありません。

 

頭でもお腹でもそうですが、刃物が刺さった時は、無理に抜かずにそのまま受診するのが原則です。

また救急搬送後も、傷が浅い場合を除き、刃物を抜く前にCT等で画像検査し、刃物の周囲の臓器や血管の位置関係を確認してから対処します

場合によってはそのまま手術室に行き、万全の体制で刃物を抜くこともあります。

 

これは、刃物が血管を貫いたり傷つけたりしている時に、刃物が出血を防いでいる場合があるからです。

ちょうど刃物が傷ついた血管に蓋をした状態になっているということです。

 

脳の表面にも多数の血管があるため、脳自体は損傷しなくても、包丁は表面の血管を傷つけていたようです。

おかげで包丁を抜いた瞬間に大出血してしまったわけです。

 

脳に出血すると、脳の表面を血液が急激に圧迫し、その部分で異常な電気的活動が起き「てんかん発作」を起こすことがあります。

今回雪村の母は、右側の頭に包丁が刺さっていたので、包丁を抜いた瞬間は脳の右側でこうした現象が起こります

右の脳は、顔面は右側を、胴体と四肢は左側を支配しています。

包丁を抜いた瞬間の雪村の母の姿を思い出してみてください。

左腕をぐーっと曲げて震えるように動かし、右側の顔面が引きつっているように見えましたね。

コードブルーでは、こうした細かいポイントは全て医学的に正確に描かれています。

 

脳の表面の出血だけであれば、手術で血液を取り除けば後遺症を残さず回復することは可能でしょう。

今回も、脳自体は傷つけていなかったため、母は九死に一生を得たのでした。

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藍沢と雪村の共通点

雪村は貧困家庭に育ち、母はアルコール依存症。

不遇な環境で、自力で道を切り開いて看護師になったという自負を持つ一方、実家に残した母や姉に負い目を感じていました

母のために力にはなりたいが、しかし悩んで出した答えは自分の人生を優先することでした。

 

藍沢もまた、幼い頃に父が家を出て母を自殺で失っており、両親に関しては暗い過去を持っています

育ての親だった祖母の介護に悩んだ時期もありましたが、医師として孤独に自分を磨くことを選んできました。

 

藍沢の過去を当初知らなかった雪村は、藍沢に対して「医学部を出て医者になったような人には自分の苦労は絶対に分からない」ときつく当たります。

藍沢はこのセリフに対し、背中を向けてしばし立ち止まり、何も言わずに雪村の前を去ります。

喜怒哀楽の感情をあまり表に出すことがない藍沢の、特徴的なシーンです。

 

この二人の共通点は、映画のストーリー中でも効果的な伏線になっています

フェリー内での事故現場で、車内で腹部を鉄柱が貫通し、生死をさまよった男性。

その助手席に座っていた男性の息子は、幼い頃に父からの暴力が原因で家出した過去がありました。

そして自力で人生を切り開き、今では立派に家庭を持つまでに至った、という自負があります。

 

事故があったのは、そんな父と久しぶりに会って大げんかしたばかりでした。

父に伝えたいことがあったのにうまく伝えられず、そして目の前で父の命が失われつつある。

そんな彼に藍沢と雪村は自分の過去を重ね合わせ、「その思いを叶えさせてあげたい」と共鳴することになります。

 

藍沢がICUに入室した時初めて、雪村は藍沢の過去を知ります。

看護師を含め医療者にとっては、患者さんの家族構成を知っておくことは非常に大切です。

特に、いつ急変するか分からない重症の患者さんに関しては、「何か起こった時に誰にどういう順番で連絡するか」を、スタッフ同士で事前に慎重に確認しておきます。

万一ここで連絡ミスがあると、大きなトラブルに発展する恐れがあるからです。

 

雪村は看護師としてまず藍沢の家族に連絡がいっているのか白石に確認し、そして「藍沢には連絡すべき家族が誰一人いない」という事実に愕然とするのです。

孤独なのは自分だけではなかった。

優秀で何一つ隙がないように見えた藍沢には、辛い家庭環境と仕事の両立に苦しみ抜いた過去があり、そして彼もまた自分以上に孤独だった。

 

コードブルーでは、それぞれのキャラクターが大きな悩みや辛い過去を抱え、ドラマ的に完璧な人は一人もいません。

こうした「不完全性」こそが、コードブルーをより重厚な物語にしているのですね。