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コードブルー1st 第4話解説①|バックボード固定とファイバー挿管の目的

技術面で徐々に成長を見せる4人のフェロー達。

様々な患者さんと出会うことで人間的にも成長し、また挫折も経験していく。

そんな第4話では、派手な外傷処置シーンと、ミュンヒハウゼン症候群という珍しい精神疾患が登場した。

 

今回も2部構成でお送りする。

一つ目は外傷患者の処置について。

コードブルーで出てくる外傷患者は、必ずオレンジ色の板に固定されて搬送されてくる

あの目的をご存知だろうか?

今回はそれに注目しつつ、外傷処置について解説する。

 

二つ目はミュンヒハウゼン症候群について。

あんな病気本当にあるの?

と思った方も多いだろう。

私の体験も踏まえ、この精神疾患と、その見分け方を第二部で紹介する。

 

バックボード固定とファイバー挿管

川に飛び込んだ若い男性が、川底で頭を打ち付ける事故が発生し、ドクターヘリで救出に向かう三井(りょう)と緋山(戸田恵梨香)。

その搬送中に、突然男性の意識レベルが低下瞳孔不同が現れたため、初療室に運び込むとすぐ緋山が気管挿管しようとする。

喉頭鏡を用いて挿管を試みる緋山を制して黒田(柳葉敏郎)は、ファイバー挿管(気管支鏡を用いた気管挿管)を指示。

緋山は難なく成功させる。

 

意識レベル低下の原因が頭蓋内出血であることを見抜いた脳外科医西条(杉本哲太)は、初療室で穿頭。

血液が除去され、意識レベルが回復した患者はそのままオペ室に移動、脳外科で手術が行われる。

のちにMRIで頸髄損傷が発覚し、今後永久的に四肢麻痺が残ることが判明するが、それを患者とその家族に告知できずに悩む緋山

三井から早く告知するよう叱責され、結果的に数日後告知すると、患者とその家族は予想外の報告に泣き崩れる。

 

さてまず、なぜ黒田はいつもと違ってファイバー挿管を指示したのか?

これを疑問に思った方が多いと思う。

意外にドラマ中でそれについての説明はなかったからだ。

 

また、外傷患者は必ず、バックボードと呼ばれるオレンジ色の板に全身を固定され、ストラップで厳重に頭と顎を固定されて搬送される

コードブルーでは外傷患者が多いため、この姿は数え切れないくらい見たことがあるだろう。

そもそもあの板は何のためのもの?

と疑問に思っている方もいるかもしれない。

 

実はこのバックボード固定とファイバー挿管の目的にはつながりがある

どういう意味か、説明しよう。

 

バックボード固定の目的は、搬送中に脊椎(せぼね)が動かないようまっすぐにしておくことである。

特に、脊髄損傷の疑いがある患者の場合、背中や首が曲がることにより、その損傷が急激に悪化するリスクがある

そのため、脊髄損傷がないことが確認できるまで、全身を固定した状態で診察することが多い。

 

今回の患者は、意識レベルが低下し、呼吸停止の恐れがあったため挿管が必要であった。

普通の気管挿管では、喉頭鏡と呼ばれる金属製の器具をのどに差し込んで、気管の入り口を見ながら(喉頭展開)チューブを挿入する

この際に重要な行為を「頭部後屈(とうぶこうくつ)・あご先挙上」と合言葉のように呼ぶ。

すなわち、しっかり首を後ろに反らしてあごを上げることで、のどの奥(喉頭)を見やすくすることだ。

ところが脊髄損傷(頸髄損傷)のリスクがある患者の場合、この行為が「とどめの一発」になることがある。

後ろに首を反らせた瞬間、頸髄損傷が完成してしまうということだ。

しかし首を反らさなければ挿管は難しい

こういう時に使うのがファイバー挿管という技術である。

 

気管支鏡という細い筒状のカメラを口から気管へ挿入し、この筒に沿わせる形でチューブを気管に挿入する

気管の中をカメラでのぞきながら挿管するため、首をボードに固定したまま確実に挿管できる、というメリットがあるわけだ。

脊髄損傷や頸髄損傷については「コードブルー第9話 感想|SSSって何?危険すぎる災害現場に物申す」の記事で詳しく説明しているので参照していただければと思う。

 

また、この患者は瞳孔不同半身麻痺が出現したことで頭蓋内出血が疑われている。

「瞳孔不同」は、左右の瞳孔の大きさが異なること

健康な状態では、当然左右の瞳孔は同じ大きさで、外界の明るさに応じて、同時に小さくなったり大きくなったりする(明るいほど小さい)。

頭蓋内出血などで、脳の中の瞳孔の動きを調節する部分が障害を受けると、そちら側だけ瞳孔の大きさがコントロールできなくなる

よって、ペンライトを使って光を目に当てると、正常な方だけ瞳孔が小さくなるため、大きさに違いが出るというわけだ。

同じく、障害を受けた脳がコントロールする側の手足の麻痺も同時に現れる。

これを見れば、「脳のどちらがやられているか」がわかるという仕組みである。

 

この患者の状況を見て西条は、

「エピデュラかもしれないな」

と言う。

「エピデュラ」とは、「硬膜外血腫」の英語「epidural hematoma(エピデュラル ヘマトーマ)」の略である。

脳の外側に出血して脳を圧迫する病態で、頭部打撲によってよく起こる。

頭を開けて血液を除去しないと、脳が圧迫されて命にかかわることになる。

似たものに「硬膜下血腫」があるが、これは「subdural hematoma(サブデュラル ヘマトーマ)」、略して「サブデュラ」である。

これらの違いについては「コードブルー3 第6話②|藍沢が現場で頭に何個も穴を開けた理由を医師が解説」の記事で、図解入りで詳しく説明しているので参照していただければと思う。

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バッドニュースを伝える技術

緋山は、この患者さんが頸髄損傷によって永久的に首から下が麻痺する、という病状をなかなか本人に伝えられなかった。

西条や三井に急かされてようやく伝えるのだが、予想通り患者さんとその家族は大きなショックを受けてしまう。

 

我々医師は、こういう「バッドニュース」を伝えることの難しさを日頃から体感している。

消化器癌を専門に診ている私であれば、癌が予想以上に進行していることや、手術後に再発したことを伝えなければならないことがよくある。

伝え方によっては、患者さんのその後の治療意欲にも大きく影響する

大きな心理的ショックによって、その後の抗がん剤治療が前向きに受けられなくなったり、医師への信頼を失い、病院に来なくなるリスクもある。

こういう情報をうまく伝えることは、百戦錬磨のベテラン医師ですら本当に難しいことなのだ。

 

したがって緋山のように、まだ話す技術を十分には身につけてはいない若手に、こんな大切な仕事を任せきりにしてはいけない

若手医師が受けるべき教育は、手術など治療の技術面だけではない。

患者さんにとっての「バッドニュース」を上手に伝えることもまた、若手医師が早いうちから教育されなければならないことだ。

 

今回のようなケースだと三井は、

「私が話すから、あなたは横でしっかり見て、どんな風に話すか、患者さんとご家族がどんな反応を示すか、見て学びなさい」

と言うべきだろう。

処置の技術教育は派手でドラマになりやすいが、実際の臨床現場では、この「話す技術」の教育も同じくらい大切なのである

 

というわけで最後はマジメにツッコミを入れてみたところで第一部は終了。

次回はこの続きを書きたいと思う。