なぜ医者によって言うことが違うのか?3つの理由を分析する

患者さんからの不満で非常によく聞くのが、

「人によって言うことが違うので困ります」

というものです。

これには様々なパターンがあり、

入院中に複数の担当医の間で言うことが違う

別の病院(クリニック)の先生と言うことが違う

などのケースもあれば、

医師と看護師、あるいは看護師間で言うことが違う

というケースもあります。

 

患者さんは医療機関で多くの医療スタッフと接し、様々な指示や助言を受けます。

それらの指示や助言が互いに矛盾していたり、両立しえないものであった時、患者さんは「どちらに従えばいいのか?」と悩むことになります

こうした矛盾はさらに、

「一体彼らは自分をちゃんと診療してくれているのか?」

という疑念につながり、医療不信を引き起こすリスクがあります。

 

一方で私たち医師は、医学においてこうした多少の食い違いは許容せざるを得ないケースもある、と思っています。

なぜでしょうか?

こうした矛盾が起こる3つの理由を分析してみます。

 

病状への解釈が一つではない

医者と患者はなぜ分かり合えないのか?4つの原因を分析」の記事でも書いたように、患者さんは一般的に、

「名医は症状の原因を突き止め、病名を与え、その病名に対して定まった治療を行い、その上で症状から自分を解放してくれるものだ」

と思っています。

しかし実際には、きっちり診察、検査を行っても原因のはっきりしない症状は非常に多く「病名をつけられない状態」にもよく出会います。

よって私たち医師は、

「病的な異常があるのかどうかを医学的にはっきりさせることはできないが、症状を抑える治療(対症療法)を行いつつ、病状の変化を観察する」

という方法をよくとります。

 

こういう「はっきりした答えの得られない問題」は、医療現場においては日常茶飯事であり、私たち医師はこの現象に疑問を抱いてはいません

医学とは、人体とは、「そういうもの」だからです。

そしてもちろん、こうした微妙な性質を持つ対象に対して、医学的に妥当で最適な対応策を提示するためには、研ぎ澄まされた臨床能力が必要です。

 

答えは一つではないー。

そう考えれば、ある現象を目にした時にその解釈が医師によって異なるのは当たり前です。

複数の医師が、教科書的知識や自らの経験、これまで論文などで報告されてきた知見を踏まえた上で出した推論は、同じでないことの方が自然なのです

 

一方、患者さんは、

「私が抱えている問題には確固たる答えがあるはずだ。その答えを専門家であるあなたに問うている。そのために長時間待ち、お金を払っているのだ」

と思っている傾向があります。

よって、医師によってその答えが違うと、

「答えは一つのはずなのに、二人が違うことを言っている。すなわち、どちらか一方がヤブである」

となります。

あるいは、

「両方ともヤブである」

と考えるケースもあるでしょう。

医療不信を防ぐためには、「医学における現象の解釈は一つではないのが自然だ」ということを理解していただく必要があると感じます。

 

病気は患者の想像以上に激しく変化する

「医師によって言うことが違う」時のもう一つの重要な原因として、

「病態の経時的変化への感覚の違い」

があります。

あえて「経時的変化」という難しい言葉を使ったのは、これが臨床において最も重要な概念の一つであり、それゆえ私たち医師が日常的によく使う用語だからです。

分かりやすく言い換えると、

医師は患者より、はるかに激しい速度で病気の状態は変化するものと考えている

ということです。

 

たとえば、こんなケースを考えてみてください。

ある患者さんが咳と鼻水の症状で病院に行く。

医師は、「風邪ですね。様子を見ましょう」と言って風邪薬を処方する。

しかし、薬を飲んでも治らないので、数日後に別の病院に行く。

すると医師はその患者さんを診察し、検査をした上で「肺炎です。すぐに入院してください」と言う。

 

さて、この患者さんはどう思うでしょうか?

「医者によって言うことが違う。だから困るんだ」

と思ったり、

「最初の医者は肺炎を見抜けなかった!」

と思う可能性があります。

 

一方、私たち医師はこういう状況では、「受診したそれぞれのタイミングで適切な診療行為を行なった」と考える可能性が高く、たいてい違和感を持ちません。

数時間の単位で状態が目まぐるしく変化する病気は非常に多いからです。

つまり、「最初の医者が肺炎を見抜けなかった可能性」より先に、「その時はまだ肺炎ではなかった可能性」について、ごく自然に考えを巡らせるからです。

 

これは一例ですが、基本的にどんな病気でも、病状は時間とともに刻一刻と変化しています

入院しなくてはならないような病気の方であれば特に、急性期の病状は目まぐるしく変化します。

「医者によって言うことが違う」と思った時は、単純に「短時間で病状が変化しているだけ」という可能性があるわけです。

 

むろん医師が行うべきことは、患者さんにそういう病気の性質を丁寧に伝えることです。

そして、上述の例のような外来のケースであれば、「どんな状態になればもう一度医師に相談すべきか」を、可能なかぎり具体的に伝えておくことが大切です。

 

情報伝達の不調や誤解

「医師によって言うことが違う」という現象に対し、これまで「医師と患者間での医学に対する解釈の違い」にその原因を求めてきました。

しかし残念なことですが、「医療スタッフ間での単なる情報伝達の不調」が原因であることも、もちろん往々にしてあります。

 

入院中は、患者さんを複数の医療スタッフが担当することになります。

担当医が複数いる場合は、担当医たちの間で情報伝達がうまくいっておらず、患者さんからの訴えが共有されていない、ということもあります。

また、担当医Aが必要だと思って患者さんに検査を行い、その結果を確認したが、その流れを担当医Bは把握できていなかった、というケースもあります。

結果として、担当医Aから聞く話と、担当医Bから聞く話の間に食い違いが生じてしまいます。

 

こうしたエラーは、担当患者さんが増えれば増えるほど起きやすくなります。

看護師間でも、各シフト間の申し送りが不十分で、情報がきっちり共有されていないことがあります。

これらは当然、防ぐべきヒューマンエラーです。

 

私たち医療スタッフが、電子カルテ等を上手に利用し、情報共有を図っていくしかない部分です。

また、もちろん「どちらかの医師が間違ったことを言っている」というシンプルなエラーもあります。

こういう勉強不足に起因する誤解もまた、個々人の日々の努力によって防がねばならないものである、というのは言うまでもありません。


今回は、「医者によって言うことが違うケース」の原因を挙げてみました。

医療現場においては、医師と患者の考えが食い違うことはよくあります。

こういう現象の原因を丁寧に分析し、それを言語化し、お互いが歩み寄ることが大切だと私は考えています。