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医療ドラマの医師の服装はリアルか?スクラブスーツと白衣の使い分け

最近の医療ドラマでの医師の服装は結構リアルです。

また、キャラクターに応じてうまく服装を使い分けていることも多く、見ていて非常に興味深いです。

例えば、2018年に放送された「ブラックペアン」の主要キャラクターの服装を思い出してみてください(公式ホームページの写真が分かりやすいです)。

 

堅実キャラの高階は、カッターシャツにネクタイをして、その上から白衣、というかなりきっちりした格好でした。

一方、研修医の世良は、水色のスクラブスーツです。

ドラマ中では、このスクラブの上に白衣を着ていることもあります。

 

佐伯、西崎の両教授の服装を比較してみてください。

佐伯教授はオペの名手というイメージで、スクラブの上に白衣です。

ラフな格好の教授に驚いた人がいるかもしれませんが、実はこれは非常にリアルです。

手術を頻繁にする外科系教授の中には、脱ぎ着しやすいスクラブを選ぶ人が結構います。

 

一方、論文大好き、学術分野に長けた西崎教授はスクラブを着ず、高階と同じシャツにネクタイです。

また、佐伯は白衣のボタンを留めませんが、西崎はいつもきっちり留めている、という違いもあります。

実際、技術面で選ばれた大学教授もいれば、学術面で選ばれた大学教授もいるので、これを対比的に描いたのでしょう。

 

さて、では主人公の渡海はどうでしょうか?

完全な私服に白衣を羽織っただけと、全くキャラ通りの服装です。

 

これだけ細かいところまで、キャラに応じてきっちり服装が練られているということです。

 

現実でも医師の服装が厳しく定められている病院はあまりないため、ドラマのように本人の好みに応じてバラバラの服装になることは多いです。

よって服装に医師本人の性格が現れるといっても過言ではないでしょう

 

では、どんな人がどんな目的でスクラブや白衣を使い分けているのでしょうか?

渡海のような私服に白衣の医師はいるでしょうか?

これまでも何度か質問をいただいた医師の服装について、今回はドラマを参考にしながら分かりやすく解説してみたいと思います。

 

スクラブスーツとは?

スクラブスーツとは、半袖で首元がVネックのカラフルな医療用シャツのことです。

「スクラブ」とは「ごしごし洗う」という意味で、何度洗っても傷みにくい丈夫な素材でできているためこう呼びます。

スクラブのズボンもあり、上下とも同じ素材で揃えることが多いのですが、世良君たちのように下に白衣のズボンを履く人もいます

 

最近はスクラブを着る医師がかなり多いため、ドラマでもスクラブを見ることが多くなりました。

上の写真のように、「ブラックペアン」の東城大病院では研修医全員に水色のスクラブが支給されているようですね。

病院によっては規定のスクラブが病院から支給されるところもありますが、自分で好きなものを購入する方が多い印象です(もちろん自腹)。

 

「コード・ブルー」では、救急医全員が救命センター独自のロゴ入りの青いスクラブを着ています。

実際に病院で、肩や胸に「Surgery(外科)」のようなロゴが入ったスクラブを着た医師を見ることがありますね。

これは、科の中で「お揃いのスクラブを作ろう!」という話になり、独自にデザインを考えて業者に発注しているケースが多いです。

いわゆる「中学生のクラスTシャツ」と同じノリです。

 

各科ごとに異なるスクラブを支給してくれるような親切な病院はまずない(たぶん)ので、自分たちで自腹で買っているわけです。

(職員全員が同じスクラブを支給される、という病院はありますが)

私もこれまで科のロゴが入った自作のスクラブを複数持っています。

 

スクラブの利点と白衣との違い

昔からの慣習で医師は白衣を着ますが、実は白衣は私たちの仕事内容にはあまりふさわしくない、合理的でない服装です。

まず無駄に裾が長いため、現場で作業するには動きにくく、どこかに引っかかることもよくあります。

車椅子の患者さんと話したり、少し処置するためにしゃがみ込んだりするだけで白衣の裾が床につきます

白衣は毎日クリーニングに出すわけにはいかないので、清潔とも言い難いです。

血液や体液が付着することもありますが、真っ白なので汚れも目立ちます

 

特に清潔さが求められる処置では白衣を脱がないといけませんし、大きいので畳んでおくのも面倒です。

病棟で患者さんに対して医師数人で処置をする、という場面では、ベッドサイドや部屋の外に脱いだ白衣が何着も散らかり、終わった後間違えて別の人の白衣を着てしまう、ということもあります。

よって白衣は、医師としての信頼性を示したり、患者さんに安心感を与えるためのコスチュームに近い意味合いと言えます。

特にご年配の方の中には、医師が白衣を着ている方が安心する、という方は多いようです。

 

一方、スクラブは頻繁に容易に洗えますし、動きやすくて安全です。

病院で忙しく動き回る医師にとっては、圧倒的にスクラブの方が合理的な作業着と言えます。

よってスクラブだけを着て、白衣なしで仕事をする、という医師も多くいます。

 

ただ、病院によっては今でも、

「スクラブだけで患者さんと接するのは失礼だから必ず上から白衣を着るように」

と指導するところもあります。

この場合は、スクラブの上に白衣を着ます。

「患者さんからどう思われるか?」ということが結果に大きく反映するのが医療現場なので、この辺りは「合理性だけにこだわることができない」部分です。

むろん、ビジネスマンが取引先の人と会うのに真夏でもスーツを着ることを思えば、どの業界でも合理性や利便性だけで服装を決められないのは同じでしょう。

 

渡海のように私服に白衣を着る医師もいますし、ズボラな人はTシャツの上に白衣です。

私は個人的には、私服の上に白衣を着るなら、襟のついたシャツを着るのが望ましいと思います。

もちろん明文化されたルールはなく、個人の好みですが、やはりTシャツに白衣ではだらしない印象を与えるので私はやりません。

 

ネクタイまできっちりする医師もいますが、外科系だと手術のたびに着替えるのがかなり面倒なので、どちらかというと内科系の医師に多い印象です。

ちなみに渡海は「腕はピカイチだが普段はだらしない、マナーは気にしない」というキャラですから、部屋着に白衣がぴったりということになります。

 

余談ですが、看護師の服装も時代とともに変わってきました。

ナースキャップは不潔であったり、点滴に引っかかって危ない、という観点で廃止されているところが多いようです。

私の妻は看護師ですが、妻が以前勤めていた病院では看護師も全員支給されたスクラブでした。

看護師は医師以上に体を動かす仕事なのでスクラブの方が合理的ですが、やはり「白衣の天使」という印象を失わせていいのか、という意見もあるようです。

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ケーシー白衣という選択肢

ここにはまだ挙げていない医師の服装としてもう一つ多いのが「ケーシー白衣」というものです。

「白い巨塔」で伊藤英明さんが、「ドクターX」では田中圭さんが着用していましたね。

白衣と同じ生地ですが、丈が短い半袖で、首の部分がタートルネックのようになっています

アメリカのドラマ「ベン・ケーシー」で、脳外科医のベン・ケーシーがこれを着ていたことに由来するので、「脳外科医の制服」という人もいます。

以前私が勤めていた病院では、脳外科医全員がケーシーというところもありましたが、脳外科医以外でもこれを好む人は多くいます。

 

ちなみにこれは、Tシャツで外出中に病院に呼ばれても、上からケーシーを着れば下がTシャツだと分からないという利点があります。

「Tシャツの上に白衣」に抵抗のある私は、念のためケーシーも一着は病院に置いています。

ただ、逆に襟のついた服の上には着ることができない、という不便さもあります。

肥満した医師がケーシーの下に白衣のズボンを履くと、全身真っ白で「雪だるま」のようになるため、この服を嫌う人もいます。

 

余談ですが、ドクターXで岸部一徳さん演じる「晶さん」の愛猫の名前も「ベン・ケーシー」ですね。

この海外ドラマに由来しているのでしょう。


というわけで今回は医師の服装について解説してみました。

これから医療ドラマを見るときは、服装に注目してみると製作者がどんな風なイメージでキャラを描きたいかが分かりますよ。