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インフルエンザに関してよくある7つの疑問|ワクチンと検査、薬の必要性

インフルエンザに関しては、様々な疑問をお持ちの方が多いと思います。

このページでは、病院で患者さんから聞かれることの多い7つの項目に絞って簡単に解説しました。

ぜひ、ご参照ください。

 

なお、本ページは、厚生労働省ホームページ「インフルエンザQ&A」および、複数の論文を参照して作成しています(末尾に記載)。

 

インフルエンザ迅速検査はした方がいい?

インフルエンザ迅速検査とは、綿棒のような検査キットを鼻の奥に挿入し、5分ほどで結果が出る検査です。

インフルエンザにはA型、B型の2種類がありますが、いずれも同時に検査できます。

 

ただし、「インフルエンザなら検査で必ず陽性が出る」と思っている方がいますが、これは間違いです。

インフルエンザ迅速検査の感度(インフルエンザであるときに「陽性」と出る確率)は、約60%です(1)。

つまり、インフルエンザであったとしても10人に4人は検査結果が陰性です。

 

厳密には、症状が出てからの時間で感度は変化し、1日以内なら60%程度ですが、2日目で90%程度まで上がり、3日目から50%以下まで下がります(2)。

発熱すると慌ててすぐに病院に来られる方も多いため、この場合は感度はかなり低い、と考えた方がよいでしょう。

 

インフルエンザの診断に、この検査は必須ではありません。

医師は、検査結果にかかわらず、経過や症状などから総合的に判断します。

 

インフルエンザ薬の効果は?

インフルエンザの薬といえば、タミフルやリレンザ、イナビルなどがよく知られています。

これらの薬を「インフルエンザの特効薬」と思っている方が多いのですが、効果としては「発熱期間が1日ほど短くなる程度」です(個人差はありますが)。

 

通常インフルエンザの症状は5日から1週間ほど持続しますが、これが1日程度短くなる、と思っておいてください。

薬をもらうためだけに、辛い症状に耐えて無理に病院に来る方もいますので、この薬の性質は必ず知っておいた方がよいでしょう。

 

ちなみに、世界中のインフルエンザ薬の7割以上を日本人が使っている、という話もあるほど、日本ではインフルエンザの薬がよく使用されるようです(3)。

「職場や学校に1日でも早く復帰しなければならない」という風潮があるためかもしれません。

 

なお、インフルエンザの薬は複数ありますが、発症して48時間以内に使用しなければ効果は期待できません

発症から2日以上経過したケースでは、副作用のリスクだけを背負うことになるため、特別な理由がない限り使用すべきではありません。

 

インフルエンザ薬の副作用

インフルエンザ薬の副作用として、下痢吐き気腹痛といった副作用がわずかに見られます(0.1〜0.5%)。

他には、アレルギー反応皮疹肝機能腎機能障害白血球減少といった副作用も、まれですが報告されています(大部分は他のどんな薬にも起こる副作用)。

 

なお、インフルエンザ薬の内服後に子供が窓から飛び降りるなどの異常行動が見られたことが問題になったことがあります。

実際には、インフルエンザ薬を内服してもしなくても異常行動が見られることが分かっています(インフルエンザそのものによる症状)。

薬の使用の有無にかかわらず、患者さんが1人にならないように十分に注意することが大切です。

 

インフルエンザの治癒証明書は必要?

インフルエンザにかかった患者さんが職場復帰する際に、

「インフルエンザが治ったことを病院で証明してもらってください」

と職場から言われてしまうケースがあります。

前述の通り、インフルエンザの検査は確実性が低く、医学的にも「治ったこと」を証明するのは困難です。

 

厚労省のページでも、

「患者の治療にあたる医療機関に過剰な負担をかける可能性があることから、職場が従業員に対して、治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくありません」

と明記されています。

小児に関しても、こうした証明書を学校から求める必要はない、とされています。

 

では、どの程度で職場復帰すればいいのか、については次に記載します。

 

インフルエンザにかかったら何日間外出を控えるべき?

職場によって規則が異なります。

一般的には、学校保健安全法で定められた「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」が目安となることが多いと思われます。

ただしウイルスが排出される期間には個人差があります。

咳やくしゃみなどの症状が続いている時は、マスクを使用して他人への感染を防止してください。

 

ワクチンの接種回数と時期、価格は?

13歳以上は原則1回、13歳未満の方は原則2回接種です。

1回目の接種時に12歳で、2回目の接種時に13歳になっていた場合は、12歳と考えて2回目の接種を行えます。

 

流行前の接種が望ましいため、12月中旬までのワクチン接種が推奨されています

ワクチン接種は病気の治療ではないため、保険が適用されず、価格は医療機関によって様々です。

3000円から4000円程度であることが一般的です。

 

インフルエンザワクチンの効果はどのくらいある?

インフルエンザのワクチンには、麻疹(はしか)や風疹ワクチンほどの「高い発病予防効果」はありません

厚労省の報告によれば、ワクチンを接種しなかった人に比べると、接種した人の発病率は60%減少する、とされています(6歳未満を対象とした研究結果による)。

 

一方で、インフルエンザは多くの方が1週間程度で自然に回復する病気ですが、中には肺炎や脳症といった命に関わる合併症を起こす方がいます。

ワクチンの最も大きな目的は、この「重症化」の予防にあります。

重症化予防の観点から、ワクチンの接種は強く推奨されます。

 

「ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかったからワクチンは効果がない」と考える方がいますが、前述の通り「接種すればインフルエンザにはかからない」というものではありません

重症化を防ぐ意味では、非常に重要なワクチンであることは知っておいてください。

 

以下の記事もご参照ください

風邪を早く治したい!医師が教える風邪の治し方、よく見る間違った対処法

 

(参考文献)
インフルエンザ診療ガイド 2017-2018/日本医事新報社
感染症専門医テキスト 第Ⅰ部/南江堂
厚生労働省「インフルエンザQ&A」

(1) Ann Intern Med. 2012;156(7):500-11
(2) J Clin Microbiol. 2011, 49(1):437-8
(3) レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版/医学書院