以前書いた「医師は外来で患者を待たせないようもっと努力すべきか」というコラムでは、私の「外来論」のようなものを語りました。
今回はもう少し実用的で、現実的な話をします。
病院やクリニックに行き、外来のソファーで長時間待たされてイライラした、という経験は、誰しもお持ちだと思います。
中にはクレームを言ったことがある人もいるでしょう。
予約時刻に間に合うようにきっちり病院に着いているのに、1時間も2時間も待たされる。
そういう状況が病院では当たり前になっています。
厚労省が行った受療行動調査では、4人に1人が1時間以上の待ち時間を経験しているという統計結果が出ています。
みなさんが待っている、この1時間、2時間もの間、診察室のドアの奥で医療者は一体何をしているのでしょうか?
なぜこんなにも待ち時間が長いのでしょうか?
今回は、外来で時間がかかるリアルな6つの原因を書いてみたいと思います。
最初の3つは医師に原因があるパターン、あとの3つは医師以外に原因があるパターンです。
医師の怠慢
まずは医師の心理に原因があるケースです。
「怠慢」と言うと言葉は悪いですが、要するに「予約時間には間に合わなくて当たり前」という発想の医師であるケースです。
そもそも「患者さんを待たせないように」という時間感覚がないので、マイペースでのんびり外来をやります。
患者さんもそれは「いつものこと」と思っているので、あえて怒ったりすることもなく、この医師の姿勢が変わることはありません。
普通のサービス業ならあり得ませんが、これが医療現場の特殊性です。
また、外来では一人の医師が1日に何十人という患者さんを見なくてはなりません(科にもよりますが)。
昼食抜きは当たり前。
ほとんど飲まず食わずで朝から夕方まで外来をやる日もあります。
よってこういう状況で、
「こんなにも外来患者が多くて自分も大変なのだから、多少待たせても仕方がないよね」
と思っている医師も多くいます。
急ぐ必要はないにしても、「なるべくスムーズにやろう」という意識があるかないかで外来の進行は大きく変わります。
医師の計画性がない
外来でたくさんの患者さんを時間通りに(あまり待たせずに)診ようと思うと、かなりの計画性が必要です。
たとえば私は、患者数が多いことが分かっている時は、前日に必要な検査をオーダーしておき、準備できる資料は全て事前に作成しておきます。
紹介状や、手術・検査の同意書、次回の予約票なども印刷しておきます。
人数が多いとかなり大変ですが、これを当日に患者さんの前でやっていると印刷や書類の整理に時間を浪費します。
ただ、外来の前日、仕事が終わった後に夜遅くまでこういう準備をすることが億劫に感じる医師がいても不思議ではありません。
外来中でもできることを時間外労働として前日にやるわけですから、強く推奨されるものでもありません。
本人の考え方次第でしょう。
しかしこの計画性で外来のペースは大きく変わります。
医師の要領が悪い
医療現場以外でも同じだと思いますが、要領が悪い人は総じて仕事が遅いのは当然です。
外来で患者数が多い時は、患者さんを診てすぐに、
「この患者さんにしなくてはならないことは何か」
を先回りして考えなくてはなりません。
たとえば、患者さんの状態をまず簡単に診察し、血液検査やレントゲンが必要だ、と判断すれば、まず検査に行ってもらうことを優先します。
「症状から、明らかに検査が必要だ」と判断すれば、診察する前に検査を受けておいてもらう、ということもあります。
こうすると患者さんは2回診察を受ける手間がなくなり、スムーズに外来が進みます。
検査結果が返ってくるまでの間に別の患者さんを診ることができるため、同時進行で3人、4人の患者さんを診療できます。
また、たとえばこういうケースもあります。
時間がかかりそうな患者さんのすぐ後に、定期処方の薬をもらうためだけに来ている患者さんが待っている
予約時刻よりも早く来て、すでに検査も済ませて待合室で待っている患者さんがいる
こういうケースを先読みし、臨機応変に外来の順番を入れ替えます。
本当は予約時間が遅い人を、早い人より先に呼ぶことになります。
飲食店ならトラブルになるかもしれませんが、患者さん同士では、予約票を見ない限り「どちらが早く予約しているか」を知ることはできません。
それより診ることができる人から診る、と臨機応変に動いた方が患者満足度は高いはずです。
このような要領の良さは、医師にとっては「必須の能力」とは言えませんし、教育を受けているわけでもありません。
しかしこういう技術がなければ、外来は途方もなく時間がかかります。
外来事務員の能力
実は、ここまで書いてきた要領の悪さや計画性のなさは、外来に詰めている事務員が有能であればある程度カバーできます。
優秀なベテラン外来事務員は患者さんを見慣れているため、症状や全身状態から必要な医療行為を予測することができます。
待合にいる患者さんと話をし、先回りして医師に、
「この方、診察する前にレントゲン受けておいてもらいましょうか?」
という打診ができます。
また、医師から見えないドアの向こうの待合の状況を逐一見に行って把握しています。
たとえば、
順番が回って来てこちらはスタンバイしているが、患者さんはまだ問診票を半分も書き終わっていない、書き終わるまでにあと5分はかかりそうだ
という状況を鋭敏に察知し、順番を入れ替えて別の患者さんを呼ぶことを医師に提案します。
もう少し高度な例もあります。
たとえば、中年の男性が初診受付をして一人で待合に座っているとします。
その人の順番が回って来ても、有能な事務員なら呼び入れる前にまず患者さんに状況を訪ねます。
そして、
「実は妻が一緒に来ているが、駐車場にいま車を停めていてあと10分くらいかかりそうだ」
というような話を聞き出します。
すると、この方の前に10分以内に終わる可能性の高い患者さんを、順番を入れ替えて呼びましょう、という提案ができます。
事務員はこの時、男性の様子、受診する時間帯、自宅の住所から推測される病院までのアクセスを総合的に判断し、適切に動いたわけです。
逆にもし男性だけを先に呼び入れてしまい、一通り話が終わった後に妻が遅れてやってくる、となると、もう一度同じ話をしなくてはならなくなります。
実はこういうことは外来では非常によくあります。
こういうことは、慣れていない、あるいは要領の悪い事務員だとできませんし、当然ながら事務員にここまでの能力を要求できません。
しかし、パートナーがどんな事務員かによって、外来のスムーズさや時間が大きく左右されるのは事実です。
ちなみに、病院によってはこの仕事を外来看護師が行うケースもあります。
一般に看護師は事務員より医療の専門的知識を持っていますが、こういう処理能力が高いかどうかは人によります。
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患者さんの話が長い
自分の体のことだけでなく、近況報告など、様々な雑談をしてなかなか話が止まらない方はたくさんいます。
こういう方が続く日は、どうしても外来の時間が押してしまいます。
ただ、一人暮らしの高齢の方などにとっては、定期的に会う医師は貴重な話し相手です。
また、病気の治療中にゆっくり話をしたり、医師に相談にのってもらって気分転換をすること自体は一つの治療です。
こういうお話をすることで、気持ちの整理がつき、治療に対して意欲が増すなら、それは大きな治療効果と言えます。
よって私は、お話はなるべく切らず、話したいことはできるだけ話してもらうようにしています。
もちろん他の方が待っていることも考慮しなければならないので、難しいポイントです。
時間のかかる患者さんが多い
日によって、一人あたりに長く時間のかかる患者さんが多いことがあります。
パターンとしては以下の3つがあります。
説明すべきことが多い
例えば私なら、
検査の結果がんの再発が分かった人
治療方針を変更しなくてはならなくなった人
リスクの大きな手術や検査前の人
などです。
これらは、外来を予定通りのペースではできない、説明の時間を削ってはいけないケースです。
特にがんの再発や治療方針の変更は直前まで予期できないことも多く、患者さんへのお話に予想以上に時間がかかることもあります。
こういう方が続くと、やむを得ず待ち時間は長く発生することになります。
「2時間も待ったのに診察は2、3分で終えられた、前の人は30分以上しゃべっていたのに」
ということがどうしても起こってしまうわけです。
事務的な処理が多い
書類作成など、事務的な処理が必要となるケースです。
患者さんから診断書や紹介状の作成を依頼され、かつすぐに渡さなくてはならないケースでは、書類が完成するまで次の患者さんを呼べません。
病院によっては事務員が代筆してくれるところもあるようですが、ほとんどは医師が全て自分で書いています。
緊急で多くの検査が必要
定期的に通う患者さんでも、その日に限って検査値に異常があり、追加でいくつか緊急検査をしなくてはならないケースがあります。
すでに検査の予約枠が埋まっているところに無理やり検査をねじ込むことになるので、どうしても待ち時間が発生します。
検査を受ける本人も検査待ちになりますし、こうした患者さんが多いと、他の患者さんも待ち時間が長くなります。
しかも、緊急検査の必要性は、来院したその日に突如判明するものです。
予期して外来患者数を減らすことはできません。
以上、外来に時間がかかる6つのパターンを紹介しました。
ちなみに私は「患者さんをなるべく待たせない」を第一に考えるタイプです。
外来に来ている人はみんな何らかの病気を抱えている人です。
待合でじっと座っているだけでも辛いはずです。
外来では必ず「どの人が今の時点で何分待っているか」に常に気を配り、待たせている時は、事務員に「今どんな様子ですか?」と聞きます。
この私の姿勢が正しいかどうかは分からない、というのは以前のコラムに書いた通りです。
ただいずれにしても、医師は外来中に待っている患者さんのことを常に考えるべきであること、明確なポリシーをもって外来をやるべきであることは間違いないでしょう。
また、こういう現状を理解しなければ待ち時間を短縮する対策を考えることはできません。
いたずらに医療スタッフを増やせば良い、というわけではないことは明らかでしょう。
これについては、また別の記事で改めて書きたいと思います。
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