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星野仙一氏逝去、膵臓がんはなぜ「たちが悪い」のか?

プロ野球の中日、阪神、楽天の元監督であった星野仙一さんが逝去されました。

70歳、死因は膵がんでした。

 

膵がん(膵臓がん)は、私たち消化器系の医師が扱うがんの中でも、最も「たちの悪い」がんの一つです。

全体の5年生存率は6%前後、発見時に手術の適応となる人は1〜2割程度しかいません(※)。

つまり、多くの膵がんは見つかった時点で「手術では取り切れない」段階まで進んでいるということです。

さらに、手術ができても術後の5年生存率は10-20%程度(※※)。

再発が非常に多いからです。

(数値は研究データによって多少の差はあります)

 

星野さんは、2016年7月にがんが見つかり、その約1年半後に亡くなったことになります。

発見時の進行度(ステージ)にもよりますが、私たち外科医の感覚では、手術ができたケースの比較的典型的なタイムスパンです。

なぜこれほどに膵がんはたちが悪いのか?

分かりやすく解説します。

 

進行するまで症状がない

消化器がんの中で、我が国で最も多い代表的な存在が、大腸がん胃がんです。

胃や大腸は食べ物の通り道なので、がんがある程度大きくなると、それなりの症状が出ます。

胃がんなら、食欲低下、吐き気、嘔吐、胸焼けなど、大腸がんなら血便、腹部膨満、便秘といった症状です。

ところが、膵臓は食べ物の通り道ではありません

 

膵臓は、胃の裏側、つまりみぞおちくらいの高さで、背中側にあります。

食べたものを消化する消化酵素を分泌する外分泌機能、血糖値をコントロールする内分泌機能を持つ臓器です。

ここに腫瘍ができても、かなり大きくならない限り症状は出ません

がんがかなり大きくなった時点で、背中や腰に痛みが出たり、胃や十二指腸に浸潤して吐き気や嘔吐などの症状が出ます。

 

また膵臓の中には、消化液である膵液の通り道(膵管)がありますが、これががんによって詰まると膵炎を起こします。

膵炎を起こすと、発熱腹痛などの症状が出るため、これが膵がん発見の契機になることもあります。

星野さんも、膵炎がきっかけでがんが発覚したとされています。

 

初期の段階での発見がきわめて難しい、というのが膵がんが「たちが悪い」一つの要因です。

あるレベルを超えて腫瘍サイズが大きくなると、手術の適応外になります

抗がん剤治療(化学療法)が治療の主体となりますが、これが劇的に効くというケースは決して多くはありません。

 

再発が多い

膵がんはとにかく再発が多いのが特徴です。

その理由は、

血液の流れに乗って転移する(血行性転移)

リンパの流れに乗って転移する(リンパ行性転移)

表面からこぼれ落ちてお腹の中に広がる(腹膜播種

という全てのパターンの再発が起こりやすいことにあります。

 

血行性転移が多い

膵臓は血流が非常に豊富な臓器です。

がんがある程度大きくなると血流に乗って他の臓器に流れていきます。

転移が多いのは肝臓です。

発見時、すでに肝臓に転移があれば手術は行いません。

発見時に転移がなく手術ができた方でも、目に見えないレベルで肝臓にがん細胞が到達していれば、術後に肝転移という形で再発します

 

リンパ行性転移が多い

膵がんは、小さなものでもリンパ節に転移しやすいという特徴があります。

膵臓周辺のリンパ節への転移であれば、手術で取りきることは可能です。

しかし、リンパ節と、リンパ節同士をつなぐリンパ管は全身に張り巡らされています

膵臓から離れたリンパ節にも容易に流れ着いてしまいます。

体中に無数にあるリンパ節を全部取ることは、当然ながらできません。

手術時に、目に見えないレベルで遠くのリンパ節にがん細胞が飛んでいれば、術後にリンパ節転移という形で再発します

 

腹膜播種が多い

腹部の臓器にできたがんが大きくなり、お腹の中(腹腔内)にがんがこぼれ落ち、たくさんのがんの塊を作ることを「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」と呼びます。

「播種」とは「種を播く(まく)」という意味です。

がんが、種をまくように無数に広がってしまうことを意味します。

膵臓は、胃や大腸と違って表面が分厚い壁で覆われているわけではありません。

膵臓にできたがんは、簡単に表面に顔を出し、がん細胞がこぼれ落ちてしまいます

発見時にすでに腹膜播種があるケースも多く、こうしたケースでは手術の適応になりません。

腹膜播種がなくても、目に見えないレベルでがん細胞がすでに腹腔内に散らばっていれば、術後に腹膜播種再発を起こします

 

再発や転移があると手術はできない

ここまで読んで、

転移が起こればそれを手術で取ってしまえばいいのでは?

と思った方がいるかもしれません。

もちろん、肝臓に1ヶ所転移がある、腹膜播種が1ヶ所ある、というケースでは、技術的には取ることは可能です。

しかし私たち外科医は、目に見えるがんしか取ることはできません

人の目で認識できるがんのサイズとなると、数ミリ以上は必要です。

ところが、たった1mmのサイズのがんに、がん細胞は100万個います

1センチ程度の再発があれば、目に見えないサイズのがんは他に無数にあると考えます

実際、1センチ程度の転移を切除しても、短期間ですぐに別の部位に再発することがよくあります。

手術時すでに存在した、目に見えないサイズのがんがすぐに成長してくるからです。

 

一般的に消化器がんは、転移する前の段階で手をつけない限り、手術でがんをゼロにすることはきわめて難しいのです。

そして膵がんは特に、その傾向が顕著だと言えます。

もちろん、そうではないがんもあります(転移巣を切除することで治癒を目指せるがん種もあります)。

また、手術でがんをゼロにできなくても、抗がん剤(化学療法)や放射線治療で善戦できる(がんをコントロールできる)ケースも大いにあります。

これらのことは以下の記事でも詳しく書いているので、読んでみてください。

 

まとめ

膵がんが「たちが悪い」理由は、

症状がないため進行するまで発見されにくい→手術の適応となる患者が少ない

手術できても再発が非常に多い

ということです。

膵がんを小さなサイズの段階でいかに見つけるか。

現在、様々な研究がされています。

現時点ではまだ臨床応用されたものはありませんが、近い将来、優れた診断技術が登場する可能性はあるでしょう。

(※) Jemal A, Siegel R, Xu J, Ward E. Cancer statistics, 2010. CA Cancer J Clin. 2010;60:277e300.
(※※)消化器外科専門医へのminimal requirements/MEDICAL VIEW