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コードブルー3 医師が解説|なぜ灰谷は仮性動脈瘤破裂を防げなかったのか?

一昨日投稿した「名取のスキル、カットダウンはなぜ褒められたのか?」は、Twitterでシェアしてくださった方も多く、1日で8000を超えるアクセスがありました。

これは、私にとっては非常に大きな数字です。

これは、Hey!Say!JUMP 有岡君の人気がすごいということだと思いますが…。

確かにルックスのみならず、あの圧倒的な存在感と演技力を見れば人気があって当たり前ですよね。

みなさん、病院に行ってもあんなかっこいい医者はいませんよ。

灰谷風の人はたくさんいますが

 

冗談はさておき・・・

前回の記事で、第8話でフェローたちが行なったREBOA(レボア)という治療、名取の行なったカットダウンについて解説しました。

今回は続きとして、少年を襲った仮性動脈瘤とはどういう病気だったのか?、という話です。

 

少年はそもそも、鉄棒から落ちて胸を打ったのに、お腹を痛がっていましたね

「だいたいなんで胸打ってお腹が痛いのよ」

と、母親にも仮病扱いされていました。

お腹を打ったわけでもないのに、なぜお腹を痛がったのでしょうか?

さらに不思議なことに、少年は入院後、すっかり痛みがなくなってしまい、灰谷と談笑しています。

「じゃあやっぱり仮病か」

と藍沢にも言われ、藤川は、

「なんでもない子供を入院させたんだろ?」

とバカにします。

しかし灰谷は、

「慎一くんは頭のいい子です。胸を打ったのにお腹が痛いなんて、そんな辻褄のあわないこと言ってわざわざ疑われるようなことしないと思うんです」

と、最後の最後まで「何かがおかしい」と疑っていました。

結局、少年はその直後に腹腔内出血を起こして突然急変し、命の危機に陥ります

 

この1日の間に、少年の体にはいったい何が起こっていたのでしょうか?

実は、仮性動脈瘤がどういう病気なのかがわかれば、この謎は全て簡単に解けます

 

また偶然ではありますが、少年が急変した時、同時に腹部大動脈瘤破裂の患者が搬送されていました。

仮性動脈瘤腹部大動脈瘤

いずれも「動脈瘤」という名前ですが、全く違う病気です。

どう違うのでしょうか?

この違いからまず説明していきましょう。

 

動脈瘤とは何か?

「瘤(りゅう)」の訓読みは「コブ」です。

つまり「動脈瘤」とは、動脈の壁が徐々に「コブ」のように飛び出してきて、破れやすくなる状態のことです。

動脈は全身にはりめぐらされていますが、動脈瘤がよくできる場所はいくつかに絞られます。

 

たとえば、動脈瘤が破裂する病気の中で、みなさんが最もよく知っているものがあります。

クモ膜下出血です。

クモ膜下出血は、脳の血管にできた動脈瘤が破裂することで、頭蓋内に出血する病気です(一部にそれ以外が原因のものもありますが大半は動脈瘤です)。

大量に出血すると救命が難しい、非常に危険な病気です。

 

もう一つよく知られているのが、大動脈瘤です。

大動脈は、胸からお腹まで、体の中心を貫く最も太い動脈です。

胸にできれば胸部大動脈瘤、お腹にできれば腹部大動脈瘤と呼びます。

大動脈瘤は、破裂すると命に関わります。

大動脈の壁が破れると、激しい勢いで大量の出血が起こるからです。

なぜこんなに大量に出血するかについては、「大動脈断裂はなぜ助からないのか?」の記事を読んだ方なら分かりますね。

 

腹部大動脈瘤は、英語で”Abdominal Aortic Aneurysm”です。

全てAから始まるので、「AAA(トリプルエーまたはスリーエー)」と私たちは呼びます。

また破裂のことを、医療現場ではよく「ラプチャー(rupture)」と英語で言います。

 

第8話では、まさにこの業界用語が連発されましたね。

腹部大動脈瘤破裂の患者さんがドクターヘリで搬送されると、エコー(超音波)をお腹に当てながら藍沢が、

「大動脈瘤だ。ラプチャーしてる」

と言います。

また、同時に急変した少年の状況を知った藤川も、

「まずいなぁ、こっちトリプルエーだしな・・・」

灰谷との電話中に藍沢も、

「こっちはトリプルエーの患者の初療でいま手が離せない」

 

まさかの、これで状況説明は終わりです。

視聴者は「え、なんの病気??」となったのではないでしょうか。

ただ私たち医師にとっては、「腹部大動脈瘤の破裂だ!」と言われるよりはるかにリアルな会話です。

ドラマの製作者にとって、リアリティを追求することと、視聴者を置いてけぼりにすることは表裏一体です。

しかし、「意味は完全にはわからないが、緊張感は伝わってくる」というこの微妙なラインをいつもギリギリで攻めるのがコードブルーのすごいところです。

 

さて、ここまでで説明したように、動脈瘤の破裂はいずれにしても命に関わります

よって動脈瘤の治療で大切なのは、早く見つけて、とにかく「破裂を予防すること」に限ります

脳動脈瘤は、破裂する前に見つければ、クリッピング手術(動脈瘤をクリップして破裂しないようにする)で治せます。

大動脈瘤は、カテーテル治療で、ステントグラフトという特殊な器具を大動脈内に留置することで破裂を予防できます。

 

ここまでが普通の動脈瘤の説明です。

一般的には、これ以上動脈瘤のことを知っておく必要はありません

普通の医療情報記事なら、ここで終わっても全く差し支えはないのですが、これはコードブルーの解説記事。

特殊な動脈瘤である「仮性動脈瘤」を次に説明しましょう。

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仮性動脈瘤とは?

仮性動脈瘤は、コードブルーでこれまでに2回出てきましたね。

1回目は、第4話のバーベキュー場での事故で、首に鉄串が刺さった少年の治療の時です。

現場で鉄串を抜くとかえって危険という判断から、そのまま病院に搬送して血管造影を行いました。

すると、鉄串が頸動脈を傷つけており、そばに仮性動脈瘤ができていることがわかります。

この時は仮性動脈瘤を事前に見つけられたことで、脳外科の若きエース二人、藍沢と新海がそれを想定した手術を行い、破裂をまぬがれましたね

オペ室で藍沢がゆっくりと鉄串を抜き、周囲が安堵するシーンが印象的でした。

 

そして2回目が、前回の第8話です。

鉄棒から落ちて左胸を強打した少年の、脾臓の入り口(脾門部)に仮性動脈瘤ができ、これが破裂してしまいます

 

この2つのケースに共通することは何でしょうか?

外傷がきっかけで急性に発症した動脈瘤だということですね。

 

一般的に言われる「普通の動脈瘤」は、これと対比して「真性動脈瘤」と言われることもあります。

一方仮性動脈瘤は、「仮の」動脈瘤、つまり本当は動脈瘤ではありません

どういう意味か、図解してわかりやすく説明します。

 

動脈の壁に外傷によって小さな傷が付くと、この部分で血液が漏れます

これがもし小さな傷だと、大出血には至らずにすぐに止まります

コブ状の「かさぶた」ができた状態になるからです。

しかし、あくまでこれは「かさぶた」でフタをされただけで、そもそも動脈はすでに破れた状態です。

何かのきっかけですぐに破綻し、大出血に至ります

形は同じコブ状なので動脈瘤という名前がついているだけです。

そもそも動脈の壁自体がコブ状に飛び出した本当の動脈瘤とは全く別物だということがわかりますね。

(医学生は、動脈の層構造と、解離性動脈瘤も知っておく必要があるため、このイラストでは不十分ですよ!)

 

さて、コードブルーの第8話のシーンに戻ります。

まず、最初にお腹が痛いと言ったのは、動脈の壁が破れて少しだけ出血したからです。

脾臓は左の脇腹にある臓器で、左胸を打撲した時に傷つきやすい臓器です。

脾臓のまわりの動脈が傷ついて出た血液は、重力にしたがって下にポタポタ落ちますから、痛くなるのはお腹です

 

つまり最初に灰谷が診察した時点で、CTではわからないほど少量の腹腔内出血がすでに起こっていたのです。

大破裂の前に軽い出血によって痛みを経験することがある、というのは仮性動脈瘤の特徴です。

これを「警告出血」と呼び、ここで仮性動脈瘤の存在に気付けるかが勝負の分かれ目です。

「危ないよ」と警告してくれている出血、という意味です。

(「警告出血」という言葉は、脳動脈瘤などの真性動脈瘤や、他の病気でも用いる言葉で、仮性動脈瘤の「専売特許」ではありません)

 

仮性動脈瘤は破裂のリスクが非常に高いため、破裂を予防する治療が特に大事になります。

したがって、見つけたらカテーテル治療によってコブを潰してしまいます。

具体的には、カテーテルを動脈瘤の近くまで進め、金属製のコイルなどをコブに詰めこんで固めてしまう、というような治療を行います。

 

第8話の解説記事でも書いたように、事前に仮性動脈瘤を見つけられずに破裂を防げなかったのは悔やむべきことです。

そのせいで、12歳というまだ幼い少年のお腹に大きな傷がつくことになってしまいました

もちろん、動脈瘤が小さく、事前に見つけることが難しいケースも多々あります

大丈夫と言って自宅に帰ってもらい、自宅で破裂してしまうことに比べると、灰谷のとった経過観察入院という方針は賢明な判断だったと言えます

しかし、もしあの時、灰谷から相談を受けた藍沢が1度でもお腹を診察していればCTを1度でも見てあげていれば、と悔やまれます。

藍沢なら一瞬で仮性動脈瘤の存在に気づけたはずだからです。

あれでは、少年に対して組織としてベストな対応をした、破裂したのは仕方なかった、とは決して言えないでしょう。

 

コードブルーではよく、命の危機に瀕した患者さんを、ギリギリのところで何とか救命できた医師たちの高い技術や行動力が、「カッコ良さ」として描写されます

しかし、これを美談とするのは医師の自己満足だというケースも時にはあります。

結果的に命が助かったとしても、命の危機に陥ったときの患者さんの苦しみや痛みは計り知れないからです。

「なぜ患者さんを危険な状態にさらしてしまったのか?」

「それは本当に防げなかったのか?」

という観点で振り返ることが大切だということを、我々医師は忘れてはいけないと思うのです。

 

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