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紹介状の目的、書く内容、医師は紹介先の病院をどう選んでいるか?

誰しも一度は、医師に紹介状を書いてもらった経験があると思います。

しかし、紹介状の内容や目的については誤解が多く、

「知り合いの医師にしか書かないものなのですか?」

「出身の大学以外の大学病院には書きにくいものですか?」

といった質問を受けることがよくあります。

 

大学病院など、大規模な病院の初診料を浮かせるための「通行手形」「推薦状」のように思っている人もいます。

これらは、紹介状の目的を考える上では適切な解釈とは言えません

 

実際、相手の顔を見たこともない、それまで名前も知らなかった医師に紹介状を書くことは普通にあります

大学病院に紹介するとき、自分の出身かどうかで決めることも普通ありません

 

今回は、紹介状にまつわる疑問について分かりやすく解説します。

ぜひこの記事を読んで、紹介状のあり方を知っていただきたいと思います。

 

紹介状の目的・書く内容

「紹介状」は、正確には「診療情報提供書」と呼びます。

目的は「紹介」というより申し送りや業務の引き継ぎであることが多いため、むしろ「申し送り状」「引き継ぎ資料」と呼ぶべき場合もあります。

患者さんに関する医学的な情報を「よく知った医師からあまり知らない医師へ提供すること」が目的だからです。

 

紹介状に書く内容は、一般的には以下のようなものです。

・基本情報
氏名・年齢・性別

 

・既往歴
これまでにかかった病気や治療中の病気(必要ならアレルギー等の情報も)

 

・内服歴(使用中の薬剤)

 

・診療経過と考察
どんな症状で来院し、どんな検査を受け、どう診断してどんな治療をし、治療にどう反応したか

 

・紹介理由
どういう理由で紹介先を選んだか

 

紹介される相手の医師は、原則その患者さんを見たことがない人です。

一方、紹介元の医師は、患者さんと直接会って話し、体に触れて診察し、検査をして治療を行い、その反応を知っています

ここに大きな「情報量の格差」があります。

紹介状の最大の目的は、この「情報格差を埋めること」にあります。

 

「直接診察したことのない相手にいかにうまく情報を申し送るか?」

これが紹介状の最大のポイントです。

 

外来で紹介状を依頼すると待ち時間が長くなった、という経験をお持ちの方は多いと思います。

その間、医師はパソコンに向かって、上述の情報を必死で要約して文章化しています

経過が長い患者さんほど書く内容は複雑になり、時間もかかります。

ご容赦ください。

MEMO
紹介状を書いてもらうには料金が発生します。一般的には一通250点、3割負担で750円です。

 

では実際、私たち医師はどういう時に紹介状を書くのでしょうか?

 

紹介する理由

患者さんを別の病院に紹介するのは、患者さんからの希望によるケースと、医師から提案する(指示する)ケースがあります。

患者さんからの希望によるケースでは、

別の医師に診てもらいたい

転居したので病院を変わりたい

担当医師に不信感があるので医師を変えたい

といった理由が挙げられます。

 

これについては、私の連載記事である「医師との相性が悪い!と思ったらやるべき3つの対策」をご参照ください。

紹介状の頼み方や、書いてもらう方法を提案しています。

注意
セカンドオピニオンは通常の「紹介」とは異なります。

これについては「病院を変える時(転院時)やセカンドオピニオン外来時の注意点と準備すべきこと」をご覧ください。

 

一方、医師から提案する場合、その理由は様々ですが、大きく以下の2つのパターンに分けられます。

具体例と共に説明してみます。

 

①自分の病院ではできない検査や治療(手術など)を受けるべきだと判断した場合

「かかりつけのクリニックで肺炎が疑われ、血液検査やCT等の精密検査ができないため大きな病院に紹介

「腹痛で救急外来を受診、検査の結果、胆のう炎で手術が必要となったが、すでに他の手術で枠が埋まっており、自院では手術ができないため他の病院に紹介

「腕を打撲して受診、レントゲンで骨折が判明したが、自院では整形外科の救急対応ができない(もしくは整形外科がない)ため、治療可能な病院に紹介」

 

②治療中に、自分の専門外の領域の病気が関連している可能性が浮上し、その領域の専門家による診療が必要と判断した場合

「腹痛と嘔吐で消化器内科を受診したが、卵巣の疾患が疑われて産婦人科に紹介

「大腸癌の抗癌剤治療中に副作用で皮膚に炎症を起こし、皮膚科に紹介

 

注意点としては、

紹介後は自分の元に戻ってくることを想定していないケース

紹介後も引き続き自分とともに診療を続けるケース

の両者がある、ということです。

前者はまさに「申し送り」や「引き継ぎ」ですが、後者は他の専門家に治療に参加してもらう、ということになります。

後者の例が、上述の抗癌剤治療中の皮膚科受診のケースです。

このパターンを「併診(へいしん)」と呼びます。

 

紹介先の選び方

紹介先を選ぶ時は主に、

・紹介先の医師の専門領域

・患者さんの自宅からのアクセス

の2点を考慮しながら、患者さんと相談して決めます。

 

まずは、患者さんの病気を診療できる専門科の医師や、専門科のある病院を探します。

特定の疾患を専門にする医師をピンポイントで選ぶこともあれば、その疾患の診療を専門的に行っている病院を選ぶ、ということもあります

 

しかし、長期的に通院が必要な場合、自宅から数時間かかるような遠方の病院を紹介するのは、患者さんに対して不親切です。

よほど特別な理由がない限り、その病院に通う患者さんの交通利便性も同時に考えて紹介先を選択します。

 

冒頭でも書いたように、

自分と知り合いかどうか

出身大学と関連しているかどうか

は大きな問題にはなりません。

上述の条件を満たせば、直接会ったことのない医師に紹介することもよくあります

むしろ、「知り合い」や「出身大学」まで選択範囲を狭めると探すのがかえって大変です。

 

ただ、自分の出身大学の関連病院を転々としながら働く勤務医は、必然的に関連病院の情報に詳しくなります

どんな医師がいるか、どんな治療が行われているかに関して詳しい知識があるため、選択肢として挙げやすい、ということはあります。

一方、先輩医師への「忖度」といった、感情的な理由で紹介先を選ぶことはありません

 

医師の仕事は患者さんに適切な医療を提供することですが、「適切な医療機関に紹介すること」もそれに含まれる行為です。

「紹介先としてベストな選択を提示できるかどうか」もまた、医師の手腕にかかっていると言えます。

特に腕のいい開業医の先生は、紹介先の選択や紹介のタイミングに長けていることが多い印象があります。

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紹介状に添付するもの

患者さんに対して検査を行ったのであれば、紹介状に検査結果を添付することが一般的です。

例えば、血液検査のデータを印刷して添付したり、CTやレントゲン、内視鏡などの画像データをCDロムに焼いて添付したりします。

 

アナログではありますが、データを病院間で共有するシステムは今のところないため、封書を使うのが未だに一般的です(事前にFAXすることもあり)。

文章だけでは伝わりにくい情報も、検査所見を見れば一目瞭然、ということはよくあるため、検査結果の添付は大切です。

 

宛先と違う病院に行ってもいい?

紹介状の目的は情報提供ですので、宛先と異なる病院に持って行っても、その目的は果たされます。

しかし、前述の通り医師はきっちり根拠を持って紹介先を選んでいます

自己判断で別の病院に行くと、結局適切な医療が受けられず、再度別の病院に紹介される可能性があります

 

紹介状作成には費用と時間がかかりますので、宛先は紹介元の医師ときっちり話し合って決めましょう。

安易に宛先と違う病院に行くことはお勧めできません

 

紹介状には返書を書く

紹介状をもらった医師は、返書を書くのがマナーです。

第一報として、紹介された患者さんが無事来院したことを告げる返書を書き、それ以後は患者さんに対して行った検査の結果や治療の反応などの経過報告を行います。

こちらも、「ただの挨拶」ではなく情報提供です。

 

紹介した医師は、患者さんが紹介先でどんな治療を受け、どういう結果を得たのか、気になっています。

紹介を受けた医師がこれを報告することで、お互い情報を共有することができます。

紹介した医師は、その紹介が適切だったかをフィードバックし、次のよりよい紹介につなげることができます

返書にも、紹介先で行った検査の結果や手術記録などを添付することが一般的です。


今回は、意外に知られていない紹介状の実態について紹介しました。

ぜひ、スムーズな医療機関の受診に役立てていただけると幸いです。