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医療従事者はなぜ右と左をよく間違えるのか?

医療従事者は、実は「右」と「左」の使い分けが苦手です。

「いきなり何を言い出すのか」と不思議に思ったでしょう。

 

例えば、目の前にあるポスターを見て、ポスターの左側を「右」と言ってしまったり、右側を「左」と言ってしまったりすることが、非常によくあるのです。

なぜこんなことが起こるのでしょうか?

レントゲンやCTなどの画像は、画面の左が「患者さんにとっての右」、画面の右が「患者さんにとっての左」で表示されるからです。

 

皆さんが「右」「左」を誰かに伝えたい時、「〇〇に向かって右」といったように、ある視点を設定し、その視点から見て左右のどちらであるかを伝えることが多いと思います。

自分が向いている方向が違えば左右は入れ替わるからです。

 

例えば、「コンビニの方を向いて右」は「コンビニに背を向けて左」ですから、「右」や「左」は向いている方向によって常に入れ替わりうる表現です。

日常生活では、誤解を招かないよう「東西南北」で表現する、という手もあります。

 

ところが、患者さんの病気や病状を説明する時の「右」や「左」は、常に「患者さんにとっての右や左」です。

「患者さんに向かって右」などということはあり得ません。

当たり前のことですが、「右の肺炎」とか「右手の骨折」というのは、医師が患者さんと対面していようと、背中を向けていようと、常に「右」だからです。

 

よって、レントゲンやCTなどを見ながら何かを説明する時は、「向かってどちら側か」という発想はなく、無意識に左を「右」と呼び、右を「左」と表現します

これが完全に習慣化してしまった結果、目の前のものの右と左を逆に説明してしまうことがあるのです。

 

特に苦手なのが、人が写っている写真やポスターを見ている時です。

写真の左は被写体の右なので、思わず写真の左右を被写体にとっての左右で表現してしまい、聞いている人を混乱させてしまったりします。

 

ちなみに、CTやMRIでは体を輪切りにした断面を観察できます。

画面の右が「患者さんにとっての左」になるのは、寝ている人を下から見上げた状態の断面が表示されるからです。

当たり前なのですが、寝ている人を下から見ると、「向かって左」は「患者さんの右」です(逆に寝ている人を上から見ると「向かって左」は「患者さんの左」で一致します)。

 

ただし、CTやMRIでは画像を再構成し、縦の断面を表示することもできます。

すると、画面の左は「患者さんの前」になることもあります。

 

さて、患者さんの体について説明する時は、「左右」以外にも厳密に方向の呼び方が決まっています。

頭から足先までの軸だと、「頭側(とうそく)」「尾側(びそく)」です。

人に「尾」はありませんが、お尻の骨は「尾骨」と呼びます。

 

また、人の前と後ろの軸だと、「腹側(ふくそく)」「背側(はいそく)」です。

さらに、胃や小腸、大腸のような消化管などを表現する時は、「口側(くちそく)」「肛門側(こうもんそく)」です。

消化管は口から肛門まで一本道なので、この方法で確実に一つの方向を示せます。

(正確には「口側(こうそく)」なのですが、肛門側と紛らわしいので慣用的に「くちそく」と読むことが多い。あえて英語で”oral” “anal”と呼ぶこともある)

 

他にも、体の中心寄りであることを「内側」、中心から離れた側よりであることを「外側」と呼びます。

この読み方は「ないそく」「がいそく」で、「うちがわ」「そとがわ」ではありません。

 

患者さんに対する医療行為は、たいてい複数の医療スタッフで一緒に行います。

よって、どこから見ても同じ呼び名になるような名称を使わねばなりません

例えば、先輩医師が部下に「そのちょっと左!」と指示しても、立ち位置が違えば左右も変わってしまいます。

一方、前述のような定まった呼び名を使えば、立ち位置によらず同じ言葉を使うことができます

これはまさに、地理的な位置を「東西南北」で表現するのと同じなのですね。