手術前に患者さんから必ずされる5つの質問

以前、外来でよく見る患者さんの言い間違いについてまとめました。

今回は手術前に非常によくされる質問や、答えるのが難しい依頼をまとめてみたいと思います。

手術を受ける予定がない方でも、必ず疑問に思うことが含まれていると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

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麻酔から覚めないことはないでしょうか?

これまで数えきれないくらい聞いた、患者さんの不安です。

全身麻酔が初めての方にとっては、こう考える気持ちはよくわかります。

昔の医療ドラマや小説などでは「麻酔から覚めない」というストーリーがありました。

現代の医療では、まずあり得ないことです

 

全身麻酔の手術を受ける方は必ず、手術の前に担当の麻酔科医から注意点やリスクをたくさん説明されます。

その中に「麻酔から覚めないかもしれません」はありません

心配はご無用です。

私も医師になってから全身麻酔手術を受けましたが、よくわかっているせいか、恥ずかしながらすごく不安でした。

しかし結局寝ている間に終わり、何の苦痛もありませんでした

もし全身麻酔手術を受ける方は、その点も踏まえてじっくり解説している以下の記事を読んでみてください。

全身麻酔手術、方法/前日の準備/麻酔の影響など体験談を交えて解説

 

途中で目が覚めてしまうことはないでしょうか?

似た質問に、

「私は麻酔がかかりにくいですが大丈夫でしょうか?」

というのもあります。

これも非常に多いです。

 

これらには以下の異なる2つのパターンがあります。

一つは大酒呑みの方「飲酒量が多い方は全身麻酔がかかりにくい」ということを調べてこられたケースです。

確かに、普段から飲酒量の多い方は全身麻酔に必要な麻酔薬の量が多いことがありますが、

「麻酔がかかりにくくて困る」

「途中で冷めてしまう」

ということはまずあり得ません

全員がすぐに寝てしまいますし、途中で起きることもありませんので安心してください。

 

もう一つは、歯の治療や皮膚の傷の治療などで受けた局所麻酔と混同されているケースです。

局所麻酔が効きにくくて痛い思いをした、という経験があったのですね。

局所麻酔薬の必要量には個人差がありますし、傷の部位や状態によっては誰でも効きにくいケースがあります。

しかし局所麻酔と全身麻酔は全く別物です

使う薬も違いますし、神経を麻痺させて表面の痛みだけをとる局所麻酔と、鎮静(眠らせる)と、筋弛緩(体が全く動かないようにする)が必要となる全身麻酔とでは、その概念が根底から全く違います。

ですから、局所麻酔で体験したことは全身麻酔では無関係ですので、ご心配はいりません

 

脂肪もついでに取ってくれませんか?

これが最も多いかもしれません。

もう数えきれないくらい言われています

冗談半分の方もいれば、切実なお願いとして言われることもあります。

冗談で言う方は、

「脂肪もついでに取ってくれませんかね(笑)」

と突き出たお腹をさすりながら言います。

本気で言われる方は、

「せっかくお腹を開けるのだから、脂肪も切除するなり吸着するなりしてほしい

と真剣です。

しかし残念ですが、いずれにしても答えは「不可能」です。

 

体を構成する脂肪には「皮下脂肪」「内臓脂肪」があります。

一般的に、女性は皮下脂肪が多く、男性は内臓脂肪が多いです。

同じ体重の方でも、CT検査の断面図で皮下脂肪と内臓脂肪の量のバランスを見れば、見慣れた私たちなら男性か女性かはすぐにわかります(乳房や生殖器が写っていなくても)。

そのくらい特徴的に違います。

 

お腹の壁は、地層のように何層もの異なる組織でできた層が重なってできています。

皮下脂肪はこの中の一つの層として皮膚の下に張り巡らされています。

実際の地層を想像していただければ、

「3番目の層だけ抜いてきてください」

などというわけにはいかないということがわかるでしょう。

 

一方、お腹の中を見たことがない方にとって内臓脂肪ほど想像しにくいものはないでしょう。

お腹を開けると、すぐに見えるのは内臓とそれを取り囲む黄色い内臓脂肪です。

内臓脂肪は腸管などの臓器に広くくっついていて、その中を血管が張り巡らされています。

 

たとえは悪いですが、関西風のお好み焼きを想像してみてください。

黄色い部分が内臓脂肪、肉やエビ、イカなどの具が臓器です

生地である内臓脂肪「だけ」を取れませんよね?

お好み焼きの角の具のない部分を少しだけなら削り取れるかもしれませんが、できたとしてその程度です。

ちなみに臓器を摘出する時には、周囲の内臓脂肪は一緒に取れます。

お好み焼きからエビを取る時に、それを包む周囲の黄色い生地も一緒に取るようなイメージです。

ですから、お腹の手術をするとある程度の内臓脂肪が減ることにはなります

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盲腸もついでに取ってくれませんか?

よくある「ついでに取って」の2つ目は盲腸です。

そもそも「盲腸」という言葉は誤りで、正確には「虫垂」ですね。

「外来でよく見る患者さんの間違った言葉の使い方を集めました」参照)

 

虫垂は確かになくても困らない臓器で、かつ虫垂炎の原因となりますから、一見すると「百害あって一利なし」のように思えます。

しかしこれを切除するというのは、大腸の一部を切ってその切り口を縫い閉じるということです。

出血のリスクや、縫い口がうまく治らないリスク(縫合不全=便が漏れて腹膜炎を起こす)など、余計なリスクが増えます

虫垂に病気があるなら切除することのメリットがありますが、病気でも何でもない臓器にメスを入れることはやってはいけません

そこで、このお願いに対しても残念ながら答えは「ノー」です。

ただ、虫垂に病気がなくても、その周囲に病気があるために虫垂を一緒に切除することはありえます。

大腸がん憩室炎など大腸の病気がそうですね。

 

先生お疲れでしょうけど大丈夫ですか?

最後はこれです。

これもものすごく多いです。

1日2件、3件手術がある時の、後半に当たった患者さんのケースです。

1日に何件も手術をする外科医を気遣って下さっているのですが、もちろん本心は、

「自分の手術は、できれば疲れている時にやってほしくない」

ですね。

この心配も全くありません。

私たち外科医は、毎日数えきれない件数の手術をしています。

私も過去を振り返ると、多い年では年間250〜300件くらい手術をしていて、うち50-60件くらいが緊急手術という感じでした。

手術が日々の生活の一部ですので、1日の何件目が疲れているとか疲れていないとか、そういう感覚は特にありません

ですから、自分が何件目の手術に当たってとしても、気にせず受けていただければと思います。

 

以上が手術前によくされる質問集でした。

もちろん質問してはいけないという意味では全くありません。

手術前は全ての疑問や不安を解消しておくべきですので、むしろ担当医に何でも質問すべきです。

上に書いたことでも、どんな答えが返ってくるか試しに聞いてみてもらっても構いませんよ。

たぶん、おおむね私と同じ答えが返ってくるはずです。

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手術前に患者さんから必ずされる5つの質問」への7件のフィードバック

  1. いつも興味深く拝読させて頂いています

    母から、昔に膝の手術を受けた際、手術が長引いたこと&不馴れな医者であったこと(?)から、麻酔が途中で切れてしまい、死ぬ思いをしたと聞いていたのですが、全身麻酔でない場合はそういうこともままあるのでしょうか。
    想像しただけでも痛いです…(>_<)

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      コメントありがとうございます。
      お母様、本当にお辛かったと思います。
      実は腰椎麻酔や伝達麻酔と呼ばれるタイプの麻酔の時は、手術が長引くとこういうことが起こり得ます。
      というのも、こういう一部だけ(下半身や片方の足だけ)の麻酔は、途中で麻酔薬の効果が切れた時に追加することが難しいんですね。
      一旦手術が始まってしまうと、麻酔に適した体位を取ることができなくなるからです。
      そこで、途中でこういうことがあると、局所麻酔薬を局部に追加して対応することが多いのですが、膝の手術などは局所麻酔だけでは効きにくいこともあります。
      逆に、全身麻酔は受けたくないという方で、痛みが出るのを承知で選ぶ方もおられます。
      解決策としては、やはり術前にどのくらい時間がかかるかというのをできるだけ術者がしっかり予測し、長引きそうなら最初から全身麻酔、という風にすべきでしょうね。

      返信
  2. ラン

    keiyou先生、こんばんは。
    いつも楽しく拝読させて頂いております。

    麻酔の体験談を。。。
    全く、急いでおりませんので、お時間のある時にでもご回答頂けると助かります。

    ◆20年以上前
    在胎28週の早期破水で絶対安静2w後、在胎31週足らずで胎児切迫仮死により緊急帝王切開となった時の話です。

    ぼんやりとした意識で力の入らない体を丸め腰椎麻酔後、メスがお腹に…
    「いたーーーーっ!!」
    医師が「えっ、これは?本当に?」と何かでツンと…
    確かに冷たかったし痛かったので、体制を変え、再度、腰椎麻酔する事となりました。

    無痛分娩ニュースの記事だと、
    “適切な場所に適切な量を”との事(と私は解釈したのですが)なので、
    一体、一本目の麻酔薬はどこに入ったのか考えると、ちょっとぞっとしました。

    胎児取り出し直後に眠らされた(鎮静?)為、目覚めたのは数時間後。
    目覚めた時から数日間はお腹の傷より、激しい頭痛で起き上がる事が困難でした。

    そして、腰椎麻酔トラウマとなりました。

    その数年後発症(症状はあったので正しくは診断確定)し、勧められた痔核手術も後回し後回しにして大きく育ててしまい、、、

    ◆7年程前
    覚悟を決めて痔核根治手術です。
    腰椎麻酔への不安が不安を呼び手術前からブルーです。
    手術中は若干パニックで泣き続け、摘出部位を見せられた後、寝かされました。
    そして、目覚めた時から数日間は激しい頭痛(ガンガンガンと強く叩かれ、時々少し収まるの繰り返し、動くと痛みが増すのでゆっくり起き上がり歩行はそーっと)でした。
    あまりに痛いので医師に相談したら麻酔科医が説明にきました。
    脳髄液?が…自己血パッチ?と…治まるかも?…との話。
    その時、言ってる事はなんとなく理解は出来たがイマイチ信じられず、あまり勧めている雰囲気でもなく、痛い頭であまり考えられず、
    「時間の経過で治まるなら我慢します」と

    麻酔科医を信じられなかったのは、
    “腰椎麻酔2回経験のうち2回共にほぼ同じ症状。よくあるケースではない事が2回共に起こった。”
    とはどうしても思えなかったのです。

    そして、腰椎麻酔トラウマも更に大きく育ち、、、

    ◆余談です
    大腸内視鏡検査もパニックしそうで寝かせてもらう派なのですが、“起きていた方がよい”との記事も読ませて頂きました。
    次に検査する時は、頑張って起きてよう!と思いました(笑)
    本当に勉強になるお話ばかりで、助かります。

    ◆さて、話が長く脱線もしましたが、
    私がお伺いしたいのは、
    ・腰椎麻酔が効かないってどういう事
    ・腰椎麻酔と頭痛の関係
     (脳髄液漏れってよくある話?それ以外に考えられる事。精神的を含め)
    の2点です。

    腰椎麻酔トラウマが少しでも解消出来たらなと思い質問させて頂きました。

    返信
    1. keiyou 投稿作成者

      ランさん
      まず1つ目の腰椎麻酔が効かないということですが、実は時々あります。
      よくあるのは、おそらく本来入るべき空間に入らず皮下に溜まっていたりするのだと思います。
      私たちもその経験があるので、メスを入れる前に、本当に痛みが全くなくなっているか確認するようにしていて、もし効いていなければランさんが経験したように、腰椎麻酔のやり直しをします。
      これ自体は特異なことではないので、心配はいりませんよ。
      また「適切な場所に適切な量を」というご理解で間違いありませんが、腰椎麻酔の場合は必要量はごく少量ですので、適切な場所に入らなかったとしても大きな害はないでしょう(無痛分娩の硬膜外麻酔で必要な量よりかなり少ないですので)。

      また腰椎麻酔後の頭痛もよく見ます。5人に1人くらいは起こるとされていますね。
      ランさんが説明された通り髄液の漏れが原因と言われていて、長期間続く場合は自己血パッチ(自分の血液を注入して漏れを止める)で治療します。
      これも特異なことではなく、心配はいりません。
      事前にこういう経験がある方は、細い針を使ったり、腰椎麻酔(腰椎穿刺)後にすぐに起き上がらずにベッドで搬送する、など対策をとりますね。

      返信
      1. ラン

        ご回答ありがとうございました。

        そうですか、どちらもある話だったとは…
        腰椎麻酔を受ける事になった時には、事前に頭痛を起こしやすいと切実に訴えるようにします!

        ついでにもう一つ、、、
        痔核根治手術後2日間、硬膜外麻酔を受けていたのですが、
        この麻酔はそのような頭痛には効かないのですか?
        和らげるだけだから多少は効いていたのでしょうか?
        むしろ、その小さな穴からも髄液が漏れ続けていたと考えられますか?

        相談室みたいになってしまい申し訳ございません。
        最初の時に書くべきでしたが、「個別な症状の相談」に該当するようでしたら、どうぞ構わずスルーしてください。
        とても丁寧で率直な回答を頂けるのでつい甘えてしまっていますが、どこまで聞いてよいのか分からないので。。。

        返信
        1. keiyou 投稿作成者

          ランさん
          個別の症状ではなく一般論としてコメントできる範囲でコメントしますね(いずれも一般的によく誤解されていることなので)。
          硬膜外麻酔は非常に狭い範囲にのみ効かせる鎮痛法です。
          ですから、「下腹部だけ」とか「臀部だけ」といった鎮痛です。
          飲み薬の鎮痛薬と違うのはそこですね。

          返信
          1. ラン

            麻酔はとっても繊細に使い分けられているのですね。
            とっても勉強になりました。
            長々とお付き合い頂きありがとうございました。

            今後の記事も楽しみにしております。

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