夜中や休日に突然体調を崩したらどうしますか?
夜間・休日には病院はあいていません。
したがって救急外来のある病院に行くことになります(救急車を呼ぶ場合でも、そういう救急病院や休日診療所に運ばれます)。
では、救急外来と平日の一般外来は何が違うのか、ご存知でしょうか?
救急外来の仕組みは、意外と知られていません。
期待した医療が受けられず、怒って帰る人はたくさんいます。
今回は、救急外来に行く前に知っておいてほしいことをまとめます。
ほとんどの病院に救急医はいない
世の中の大半の病院に救急外来「専属」の医師はいません。
医療ドラマのように救急の専門家が多くいて、全患者を救急医が診療しているのはごく限られた施設だけです。
では誰が診ているのでしょうか?
多くの場合、各科の医師が持ち回りで診ています。
こういうシステムを「各科相乗り型救急」と呼びます。
我が国の多くの病院はこのタイプの救急医療を行っています。
専属の救急医がいる病院なら、救急医がシフトを組んで、平日・休日、日中・夜間問わず24時間体制で診ることができます。
一方救急医不在の各科相乗り型の病院ではそれができません。
平日の日中なら、症状に合った科のその日の救急当番の医師が診ますが、夜間や祝日は各科の医師は不在です。
そこでローテーション表が作られ、外科系1人、内科系1人、研修医2人のような形で分担して勤務しています(ルールは病院によって様々です)。
よって休日や夜間に足を怪我して救急外来に行っても、その日に診てくれる外科系医師は消化器外科医かもしれないし、乳腺外科医かもしれないし、泌尿器科医かもしれません。
「整形外科医に診てほしい!」と思っても、その希望が叶うのは、
「外科系医師のローテーションで偶然その日が整形外科医担当であった時だけ」
です。
「そんなことでは困る!」と思った方、もう少し読み進めてみてください。
休日や夜間の救急外来の目的は2つあります。
・専門科医師へ引き継ぐための応急処置
・専門科医師が診る必要があるかどうかの緊急性の判断
具体的には以下のような流れです。
怪我や病気に対して診察・検査、重症度を判断
↓
軽症なら応急処置のみ行い、平日の専門科の外来を予約する
重症なら(緊急性が高ければ)その場で専門科の医師を呼び出して治療を依頼する
常に専門の医師が全員揃っていて診療可能という状態を、休日や夜間まで実現するほどのマンパワーはありません。
その上、「その必要はない」とも考えられています。
休日や夜間に専門の医師が診なくてはならないほど緊急性の高い状態の患者さんは少ないからです。
必要な時に呼び出せば十分なのに、仕事のない医師を勤務させると人件費が無駄に多くかかります。
そしてこのコストは将来的に患者さんの負担となって跳ね返ります。
軽症の方にとっては、あくまで救急外来は「一般外来へのつなぎ」の役割しかないのです。
なお、病院によっては産婦人科医、小児科医が単独で夜間・休日のローテーションを組んでいるところもあります。
このタイプの病院だと、妊婦や産科疾患は常に産婦人科医が、子供は小児科医が診てくれます。
ただしこの体制を作るためには、産婦人科医、小児科医がそれなりの人数いなくてはなりません。
また、小児急病センターなど、小児科医だけが勤務する救急施設もあります。
救急外来は医師教育の現場
救急外来は、多くの病院で研修医の教育の場となっています。
救急外来に行ったら研修医に診られた、という経験をお持ちの方も多いでしょう。
上級医の監督下ではありますが、救急外来では研修医が診療することが多い傾向があります。
専門科の一般外来では、前線に研修医を出すわけにはいきません。
まだ専門領域の知識が乏しいからです。
救急外来は、前述の通り応急処置と緊急性の判断が目的ですから、全身を診察し、正しく診断する能力を学ぶ良い場でもあります。
「研修医に診療させるなんてけしからん!」
と思った方がいるかもしれません。
しかし、どんな名医でも最初は初心者です。
医師を教育しなければ未来の患者さんは救えません。
医療のクオリティを落とさずに教育を行いやすいのが救急外来なのです。
最終判断は当然上級医が行いますし、判断が怪しければ上級医が診察し直します。
患者さんにリスクが生じないよう最大限の注意を払うため、ことさらに心配する必要はありませんが、救急外来を受診する方はこういう事情は分かっておいた方が良いでしょう。
救急外来の待ち時間は長い
救急外来は「救急」という名前から、待たずに診てもらえると誤解している人がいます。
しかし実際には、待ち時間は長いところがほとんどです。
休日や夜間は外来を開けている病院が少なく、限られた病院に患者さんが集中しやすくなっているからです。
特に連休中はかなり混みます。
「連休が続いてしばらく外来に行けないから救急外来に行っておこう」
という発想の方が増えるからです。
連休中は2〜3時間待ちが普通、というケースも少なくないでしょう。
働く医師の方も激務です。
医療スタッフは患者さんのスムーズな受診のため最大限努力はしていますが、時に一般外来より長い待ち時間が発生する、という欠点はやむを得ないかと思います。
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一般外来より値段は高い
救急外来では、一般外来と全く同じ治療を受けても医療費は高くつきます。
定められた診療時間以外の受診では、時間外加算や休日加算、深夜加算といった、医療費を上増しする仕組みがあるからです。
価格の細かな詳細はここでは割愛しますが、一般外来を受診できる時にわざわざ救急外来を受診すると、コスト面で不利だと言えます。
診断書は出せないことも多い
交通事故や傷害事件などで、診断書を求めて救急外来に来る方がいます。
前述の通り、救急外来では専門の医師が診るわけではないため「診断書を出さない」という規則になっている病院もあります。
診断書だけを目的に長い時間待った挙句、ようやく会えた医師から「診断書は出せません」と言われて激怒する方もいます。
怒るのはもっともだとは思いますが、診断書が目的であれば、事前に発行が可能かを確認しておいた方が無難です。
救急外来で診断書が出せない病院だと分かれば、平日の日中に専門の外来を受診できます(整形外科などが多いでしょう)。
もちろん、診断書だけが目的でない場合、つまり何か診てもらいたい症状がある時は救急外来の受診でも構いません。
薬は数日分しか処方できない
病院にもよりますが、原則、救急外来で処方できる薬はせいぜい2、3日分が限度です。
前述の通り、救急外来の役割は応急処置であり、「一般外来へのつなぎ」です。
後日の一般外来の受診が前提となっているため、それまでの間に使用する分の薬が処方されます。
時に、定期的に処方されている薬がなくなって夜間や休日の救急外来にやってくる方がいます。
この場合でも、1ヶ月や2ヶ月といった長期に渡る処方は行いません。
翌日ないしは次の一般外来の日までの数日分だけ救急外来で処方する、という形をとります。
普段診療していない医師が長期間の処方を行うことは、患者さんにとって様々なリスクを生むからです。
今回は、救急外来に関して知っておいてほしいことをまとめました。
以下もご参照ください。
救急車を呼ぶ前に知っておくべき4つのこと・呼んだ後に準備すべき持ち物(参考) 日本救急医学会ホームページ、 救急医療と集中治療(日内会誌 98 : 192~196,2009)