風邪をひいたときにみなさんがよく行う対処法は、実は間違いだらけかもしれません。
冷えピタでおでこを冷やす
うがい薬を使ってうがいをする
病院に行って抗生物質をもらう
点滴をしてもらいに病院に行く
お風呂は入らないようにする
これらはいずれも、風邪の対処法としては誤りです。
今回は、正しい風邪の対処法と治し方について解説したいと思います。
風邪を早く治したい!という方は、必ず全て読んでください。
目次
おでこを冷やす意味はない
風邪をひいたお子さんが、おでこに「冷えピタ」や「熱冷まシート」などの冷却シートを貼って外来を受診される姿をよく見ます。
私ももちろん昔はやったことが何度もあります。
しかし、おでこを冷やしても体を冷やすことはできません。
体を冷やしたいなら、太い血管があって多くの血流があるところを冷やさなくてはなりません。
体の中で太い血管があるのは、首、脇の下、足の付け根(そけい部)です。
これらの部分を冷やさない限り体温は下げられません(ただし風邪で発熱している時は、ここを外から冷やしたとしても体温は下がりません)。
どういうわけか、体の温度を反映するのが「おでこ」だと習慣的に思われています。
子どもが「熱っぽいかな?」と思ったとき、おでこに手を当てる方が多いのではないでしょうか?
それなのに、そういう方でも体温を測るのは脇の下です。
おそらく、熱がでたときは頭がボーっとするので、頭が熱を持っているような感覚があるからでしょう。
ちなみに熱は無理に下げようとしなくても構いませんが、効果的に下げるのであれば解熱剤を使うのが良いでしょう。
ただし解熱剤は使い方に注意が必要ですから、こちらの記事もご参照ください。
ちなみに、喉の痛みに対して喉に冷えピタや熱さまシートを貼る人もいるようです。
喉の痛みは、風邪(=上気道のウイルス感染)による喉の炎症ですが、外から首を冷やしても、治りが早くなることはまずありません。
気持ちは良いかもしれませんが、効果はありませんので注意しましょう。
うがい薬でのうがいはNG!
以前は、イソジンなどのうがい薬を使ってうがいをするのが有効だと考えられていました。
しかし、京都大学から2005年に発表された研究データで、イソジンのうがい薬によるうがいは、水道水でうがいをするより風邪をひきやすくなることが証明されました。
それ以後は私たちも水道水でのうがいを指示し、特別な理由がない限りうがい薬は処方しなくなりました。
うがい薬は使わず、水道水でうがいをしましょう。
特に、手洗い、うがいは風邪の治療というより予防に必須です。
ちなみに、うがい薬で風邪をひきやすくなる理由としては、イソジンのような傷害性の強い薬がのどの粘膜を傷め、ウイルス感染に弱くなるからではないかと推測されています。
余談ですが、すり傷や切り傷などの治療にも同じことが言えます。
イソジンや消毒液で消毒をするとむしろ皮膚を傷めることから、近年では傷を消毒することがなくなりました。
私たち外科医も、特別な理由がない限り手術後の傷を消毒することはありません。
詳しくはこちらの記事をご参照ください。
抗生物質は風邪には効かない
風邪はほとんどが上気道のウイルス感染です
抗生物質(正しくは「抗菌薬」)は細菌をやっつける薬ですから、ウイルスには全く効果がありません。
風邪をきっかけに肺炎(=細菌感染)などを起こせば抗生物質が必要になりますが、風邪を抗菌薬で治すことは原則できません。
一方、抗菌薬は下痢などの副作用があります。
風邪で抗菌薬を飲むことは、副作用のリスクだけを飲んでいるようなものです。
風邪に抗菌薬は必要ありません。
特別な理由で処方される場合を除き、抗菌薬は飲まないようにしましょう。
「抗菌薬を飲んだら早く治ったことがある!」
という方がいるかもしれませんね。
残念ながら、それは抗菌薬のおかげではありません。
早く治る程度の軽い風邪だっただけです。
抗菌薬を飲まなくても早く治ったでしょう。
かぜを治す点滴はない
「病院に行って点滴をしてもらえば風邪が早く治る」と信じている人がいます。
かく言う私も、昔はそう思っていました。
しかし点滴の成分を知って、「風邪が治るはずがない」と思いました。
点滴の成分は、ほとんど水だからです。
水にナトリウムやカリウムなどの電解質(ミネラル)が含まれているだけです。
では点滴は何のためにあるのでしょうか?
点滴の目的は水分補給です。
風邪をひくと、水分がとれなくなったり、嘔吐や下痢などで多量の水分が失われたりすることがあります。
こうした脱水症状があるときに、短時間で多くの水分を補給できるのが点滴のメリットです。
脱水が治れば体の状態が改善し、結果として風邪が治ることはあるでしょう。
ただ、水分補給が目的であれば、水分を口から飲める人がわざわざ点滴をする必要はありません(重度の脱水でない限り)。
血管に針を刺して水分を無理やり体内に注入するより、口から飲む方がよほど生理的で適切です。
ちなみに脱水の時に飲む水分は、水やお茶などの電解質が少ないものより、スポーツドリンクなどの方が適切です。
あるいは、OS-1などの経口補水液も有効な選択肢です。
経口補水液を飲めば、同じ量の点滴をしたのと同じ効果があるとされています。
熱中症対策としても非常に有効ですので、自宅に何本か常備しておくことをおすすめします。
かぜ薬で風邪は治らない
総合感冒薬(いわゆる「かぜ薬」)は、風邪を治す薬ではありません。
風邪によって起こる、頭痛や喉の痛み、全身倦怠感、鼻水、くしゃみ、咳などの症状を軽くする成分しか含まれていません。
パブロンもルルもPLも全て目的は同じです。
「かぜ薬を早めに飲んだら風邪が治ったことがある!」という経験がある方は多いでしょう。
その理由は「その時の風邪は軽かったから」です。
かぜ薬を飲まなくても自然に治ったはずです。
「効いたよね、早めの〇〇」のような視聴者の誤解を誘う宣伝文句には注意が必要です。
また、病院で処方される風邪薬も、コンビニやドラッグストアで市販されている風邪薬も、効果に大差はありません。
したがって、
「市販薬が効かなかったから病院で風邪薬を処方してもらいに行く」
というのは、あまり意味のない行為です。
まして、
「風邪を早く治したいので、早めに病院を受診する」
というのはもっと意味がありません。
たいていまだ症状が軽いため、風邪以外の症状を疑って精密検査をする必要もありません。
病院で出される薬は市販されているものと大差はありません。
早く治す方法は、症状の軽いうちにしっかり休養することです。
病院に行って他の患者さんと接触したり、外来の待合で長時間待たされることは逆効果でしかありません。
しかし「早めに病院を受診する人」ほど、たいてい仕事が忙しく休めない、という人が多く、仕事の合間を縫って「わざわざ」病院に来ている、という皮肉な現実があります。
(風邪で病院に行くべきタイミングについては後述します)
風邪を治すのはあくまで自分の免疫力です。
「自然に治る」のを待つしかありません。
風邪薬についてはこちらで詳しく解説しています
広告
風邪の時もお風呂はOK
「風邪をひいたらお風呂に入ってはいけない」というのが昔は常識でした。
昔の家は風呂が屋外にあったり、家に風呂がなく、銭湯に出かけたりするのが普通で、風呂上がりに体が冷えて風邪が悪化する危険性があったからでしょう。
今は自宅の屋内に風呂があるのが普通です。
風邪をひいた時にお風呂を控える必要はありません。
湯上り後に体が冷えないよう気をつけておけば問題ないでしょう。
私自身、あるいは私の子どもが風邪をひいた時も、風邪だけを理由にお風呂を控えたことはありません。
お風呂が好きな方は無意味に我慢せず、熱いお風呂に入ってすっきりしてください。
(もちろん高熱が出ている時に無理にお風呂に入るのは避けてください)
風邪の時こそ好きな食べ物を
「風邪をひいた時はお粥を食べる」というのも、民間療法のようなものです。
「うどんを食べる」という家もあるかもしれません。
確かに消化に良いものを食べることは大切ではありますが、医学的には、
「水分を十分にとること」
「食べられるものを食べること」
が大切です。
好きでもないのに、風邪をひいた時だけ無理してお粥やうどんを食べるのは全くもってナンセンスです。
お粥よりご飯の方が好きなら、ご飯を食べてください。
肉が食べられそうなら肉を食べてください。
外食でも出前でも、食べられそうならOKです。
食欲がないのに好きでもないものを無理に食べると嘔吐するリスクもあります。
「風邪の時は栄養のある食べ物を食べないと!」とレシピに神経質になる方が余計に疲れるでしょう。
ただし、食欲がなくても水分だけはしっかり摂るようにしましょう。
風邪の人はマスクを
風邪をひいている人は、他の人への感染予防としてマスクを着用しましょう。
咳やくしゃみによる飛沫をマスクでせき止めることができます。
どんな時に病院に行くべき?
ただの風邪だと思っているけれど、重病だったらどうしよう、と不安になる方もいるでしょう。
病院に行くべきなのは、以下のようなケースです。
水分が摂れない
元気で食事も問題なく摂れている、という時は心配いりませんが、ぐったりして水分も摂れない、喉が痛くて水も飲み込めない、という時は必ず病院に行きましょう。
点滴による水分補給が必要です。
熱が長引く
風邪をひいて熱が出ても、3〜4日以内には下がるのが一般的です。
インフルエンザなら、5日程度まで発熱が長引くこともあります。
しかしそれを超える期間発熱が続くなら、風邪ではない他の病気を疑うことがあります。
血液検査やレントゲンなど、精密検査が必要になるケースもあります。
小児(生後3ヶ月未満)
3ヶ月未満の子供が熱を出した時は、入院が必要となることが多いです。
重症化するリスクがあるためです。
病院に連れて行って診てもらいましょう。
高齢者や持病のある方
70歳を超える高齢者や、心臓や肺に持病がある方は注意が必要です。
風邪をきっかけに、肺炎を起こしたり、心臓の病気が悪化したりするリスクがあります。
また、風邪以外の原因で発熱している可能性もあります。
元気で食欲もある、という時は心配いりませんが、
ぐったりして食欲がない
汚い痰が多く出ている
呼吸が苦しい
などの症状がある時は病院に行きましょう。
他に非典型的な症状がある
風邪の症状に加えて、
体にブツブツ(皮疹)ができている
関節が痛い、腫れている
頭がひどく痛い
意識がぼーっとしている
など、これまであまり経験したことのないような、非典型的な症状が重なっている時は、「ただの風邪」でない可能性があります。
こういう時も精密検査が必要ですので、必ず受診しましょう。
風邪を治す方法は?
では、結局どうすれば風邪は早く治るのでしょうか?
風邪を早く治す方法、それは「よく食べてよく寝ること」です。
こう言ってしまうと身も蓋もありませんね。
でもこれが真実です。
体に無理を強いることを続けると、風邪はなかなか治りません。
十分に体を休めることが風邪の一番の薬です。
風邪についての記事は以下もあわせてお読みください
大切なことを書いています。
(参考文献)
Yearnote2016/MEDIC MEDIA
感染症999の謎/メディカルサイエンスインターナショナル
Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med 2005; 29: 302-307
感染症専門医テキスト第1部/南江堂