今回は、「医療ドラマではよく見るのに実際にはありえないシーン」を3つ、紹介します。
いずれも「確かに見るなぁ」と思うものばかりだと思います。
ドラマはもちろんフィクションですので、現実に即して描かれている必要は全くありません。
本記事では「医療を身近に感じていただくこと」を目的に、分かりやすく解説してみたいと思います。
外科医の不思議なポーズ
医療ドラマの手術シーンでは時に、外科医の不思議なポーズが見られます。
上のイラストのように、両手を胸の前に出して手のひらを内側に向けているポーズです。
イラストはかなり大げさですが、確かに実際も似たようなポーズをとることがあります。
外科医は手術前に手洗いをした後、肘を曲げてお腹の前あたりに両手を浮遊させておきます。
普段通り両手を下ろしてぶらぶらしていると、清潔でないものに触れてしまう恐れがあるからです。
清潔な状態を維持することが目的なので、腕を高く上げる必要まではありません。
逆にもし両手がドロドロに汚れている時に、歩きながら自分の服を汚したくなかったらどうしますか?
お腹の前あたりに出してふわふわさせておこうと思うでしょう。
それと同じポーズです。
滅菌手袋をした後は、腕組みをしておくこともよくあります。
着ているガウンは清潔なので、腕組みをしたりお腹や胸を触っても構わないからです。
ここまで「清潔」という言葉を使ってきましたが、医療現場で使う「清潔」「不潔」は、一般に使う「清潔」「不潔」とは意味がかなり異なります。
専門用語として医療現場で使う時は、
「清潔」=「滅菌・消毒されている状態」
「不潔」=「滅菌・消毒されていない状態」
です。
よって、たとえ新品のガーゼや手袋であっても、滅菌処理されていないなら「不潔のガーゼ」「不潔の手袋」です。
上の写真は、一般的によく使われる「清潔手袋」と「不潔手袋」です(写真は私の手と使用期限切れのサンプル)。
右の不潔手袋も新品ですから、一般的な意味では “かなり清潔” なのですが、用語の定義上は「不潔」です。
医療現場では「感染源となる微生物がいない高度な清潔さ」を要求される場面が多いため、
「ここは清潔か不潔か」
を常に意識して動かねばなりません。
特に体腔内(お腹や胸の中など)や血管内などの処置は、厳密に「清潔」でなくてはいけません。
例えば、血管内に挿入予定のカテーテルに、不潔手袋をはめた人が少しでも手を触れたらその時点で「不潔」になってしまい、カテーテルは即座に破棄、新しいものと交換です。
処置や手術において確実な「清潔操作」を行う必要がある時は、清潔なエリアと不潔なエリアを必ず区別します。
清潔なシーツを敷き、そこに清潔な道具を並べて作業する場合、
「そこは清潔エリアだ」
と分かるよう、青いシーツ(ドレープ)を使用するのが一般的です(上のイラストでもそうですね)。
清潔手袋をつけていても、一瞬でもベッド柵や白衣などに触れたらその時点で手は「不潔」ですから、その時は必ず、
「今、私の右手が不潔になりました」
というように報告するのがルールです。
その瞬間から、周囲の人がその手を「不潔」として扱わないといけなくなるからです。
そのくらい「清潔」と「不潔」の概念は医療行為においては厳密です。
以下の記事もご参照ください。
医療ドラマの外科医はどのくらいリアル?帽子、マスク、手袋の種類と違い
屋上でトーク
医療ドラマの人たちは妙に屋上を愛用します。
最近では「A LIFE」「コード・ブルー」「コウノドリ」「ドクターX」、いずれも屋上シーンがありましたね。
しかし実際には、職員が屋上に出ることはあまりありません。
ドラマのような大きな病院だと屋上はヘリポートになっているところが多く、その場合は簡単には屋上に出られません。
ちなみに屋上だけでなく、病院の庭のようなところのベンチや、院内のカフェスペースなどで医師や看護師などが話す場面もよく見ますね。
実際には、こういうことはあまり行われません。
白衣や医療用ユニフォームを着て、多くの患者さんが通るような場所でくつろぐのは少し抵抗があるためです。
では、日中の休憩時間はどうするのでしょうか?
医師は医局(職員室)に自分のデスクがあるので、そこでゆっくりします。
看護師など他の職種の人は個人用デスクがない人が多いので、それぞれの部署の休憩室でゆっくりするのが一般的でしょう。
医療ドラマではよく、ナースステーションの裏側(?)の休憩室で医師や看護師らが話しているシーンを見ますが、これは現実に照らせば「医師が看護師用の休憩室に入らせてもらっている」という設定を考えます。
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みんなでランチ
医療ドラマでは、医師や看護師たちがみんなで病院の食堂や休憩室で一緒にご飯を食べるシーンがよくあります。
しかし実際はなかなか難しいことが多い印象です(科によりますが)。
多くの医師は普段それぞれが独立して動いているため、休憩のタイミングがあまり一致しません。
外来業務の医師は昼ご飯を食べる暇がないか、あっても合間でサッと食べることが多いと思います。
手術に一緒に入っているメンバーでも、終わった後はそれぞれの仕事があるため、一緒にご飯を食べることはあまりありません。
たとえば、手術を担当した医師のうち、主治医は手術後ベッドに横たわった患者さんを病室まで送ります。
さらに術後の指示等の管理があり、すぐにご飯を食べるわけにはいきません。
しかし助手の医師は、手術が終われば患者さんがまだ全身麻酔がかかっている段階でも一足先に手術室を出られます。
そのまま食事に行くケースもあるでしょうし、手術中に別の担当患者さんが病棟で何か変化を起こしていれば手術後すぐに自分の仕事を始めることもあります。
それぞれが別の患者さんを担当していますから、仕事内容もペースもバラバラということですね。
看護師の場合も、ある部署のスタッフ全員が同時に休憩に入ると病棟や外来が空っぽになってしまうので、休憩のタイミングをずらして取るのが一般的です。
医師と看護師など他職種同士だと、残念ながら休憩のタイミングを合わせるのはほぼ不可能です。
もちろん、フィクションの世界を否定する意図は全くありません。
現実と比較して楽しんでもらえたら、と思います。
続編は以下をどうぞ!
医療ドラマの「あのシーン」はウソかホントか? vol.2