外来受診時や入院時は、患者さんに要領よく問診し、スピーディーに情報(アナムネ)をとることが大切です。
しかし、緊急時にもかかわらず教科書通りに順を追ってゆったり問診する後輩医師や看護師を見て、ハラハラすることが時にあります。
また、問診に使う言葉が患者さんにわかりにくく、正確な情報が得られていないこともよくあります。
医療スタッフは、教科書的な問診方法だけでなく、それを臨機応変にアレンジし、自分なりにスムーズに問診する方法を身につけておく必要があります。
今回は、私が普段意識している、スムーズな問診方法をご紹介します。
医療者以外の方は、「自分の病状をどうやってスムーズに説明するか」の参考にもなりますので、ぜひ読んでみてください。
Closed questionを上手に使う
まず緊急時のスムーズな問診方法について解説します。
急ぎの場面での問診で最も大切なポイントは、「closed question(クローズドクエスチョン)」をうまく使うことです。
教科書的には、患者さんに問診するときはまず、
「どこが調子悪いですか?」
のような、YesかNoで答えられない「open question(オープンクエスチョン)」から始めるのが定石です。
しかし、緊急時はこのようにゆっくり聴取する余裕がありません。
その上、患者さんは痛みや辛さで悶えていることが多く、じっくり考えて答える精神的余裕がないため、open questionでは正確に問診できないのが普通です。
そこで、closed questionをうまく使います。
たとえば喫煙について聞くなら、
「タバコは何本吸っていますか?」
と聞いた後に、
「10本くらいですか?1箱くらいですか?」
のような質問を追加します。
既往歴について聞くなら、
「5年くらい前ですか?10年くらい前ですか?それとももっと前ですか?」
症状の経過について聞くなら、
「今朝からですか?昨日からですか?それとももっと前から?」
という形です。
こうすることで、患者さんは選択肢から選べるようになるため、かなり答えやすくなります(特に「期間」を聞く時は有効です)。
また、
「5年くらい前ですか?」
と言った時点でYesかNoで答えられる質問になっているので、ここで患者さんから、
「いやいや!もっと最近ですよ!」
とか、
「もっと前ですよ!」
と質問を遮るように答えが返って来ることが多いはずです。
そこで、
「じゃあ去年とか一昨年とかですか?」
という流れで、別のclosed questionにかえていくことができます。
特に緊急時は、患者さんは身体的にも精神的にも参っているにもかかわらず質問攻めにされています。
この状況を十分理解した上で、相手の立場に立って答えやすい質問をしない限り、スムーズな問診はできません。
ちなみにこれは、緊急時だけでなく、高齢の方への問診でも使える方法です。
高齢の方は、若い頃ほどスピード感のある会話のキャッチボールができなくなっているのは当然ですし、そもそも過去の記憶も曖昧です。
たとえば、
「その手術はいつ頃されたんですか?」
という質問に対して、
「えーっと・・・・いつ頃だっけなぁ・・・あの手術は本当に大変で、手術が終わった後もなかなか家に帰らせてもらえなくて・・・」
というように話がどんどん別の方向に逸れていき、なかなか必要な情報が得られないことはよくあります。
こういう場合でも、
「10年前ですか?20年前ですか?」
というような形で選択肢を提示したり、答えに詰まったら、
「震災の前ですか?後ですか?」
のような、お互いが知っているイベントを含んだclosed questionに言い換えることで相手は答えやすくなり、会話につなぎとめておくことができます。
特に超緊急時は、すべてclosed questionを使う手法が有効なこともあると覚えておきましょう。
喫煙歴の尋ね方
患者さんに対して問診するとき、喫煙歴を聞くことは必須です。
喫煙はあらゆる疾患や合併症のリスクになり、非喫煙者とは異なるアプローチが必要になるからです。
ここで注意しなくてはならないのは、
「タバコを吸っていますか?」
ではダメだということです。
特に最近は喫煙者への目が厳しくなり、禁煙している人は多くいます。
禁煙している人は、「頑張って禁煙している!」という強い思いがあるので、この質問には必ず、
「吸っていません」
と答えます。
これはもうほぼ100%と言って良いと思います。
最初から、
「今は吸っていませんが、去年までは10年くらい毎日1箱吸っていました」
と正直に言ってくれる人には、私の記憶する限り一人も出会ったことがありません。
しかし、たとえ今禁煙していても、それまでに何年もの重喫煙歴があれば、それは大きなリスクになります。
喫煙のリスクは、
「本数×吸っていた年数」
で決まります。
30年タバコを吸っていて最近1年やめている人と、去年からタバコを吸い始めた人では、前者の方が遥かにハイリスクであるのは当たり前です。
よって、
「吸っていません」
と返ってきたらすぐに、
「これまで一度も吸ったことはありませんか?」
と尋ねなくてはなりません。
なお、タバコを吸ったことがない人については、カルテでも、
「喫煙なし」や「non-smoker」
ではなく、
「喫煙経験なし」や「never-smoker」
と記載する必要があります。
一方、以前は喫煙していたが今は禁煙している、という人なら、
「◯歳時まで△年、1日1箱喫煙、現在禁煙」
のような記載が必要です。
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生活習慣病の尋ね方
問診時は、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病について、その有無を尋ねなければなりません。
これも、あらゆる疾患のリスクになるためです。
もちろん、
「生活習慣病と言われたことはありませんか?」
だけではダメですが、
「高血圧はありますか?糖尿病はありますか?」
でも不十分です。
高血圧や糖尿病は病名なので、病気として治療されている人しかYesと答えられない質問だからです。
実際、治療されずに高血圧や糖尿病が放置されていて、別の疾患で入院したことがきっかけで、これらの生活習慣病の治療も必要だとわかることはよくありますね。
したがって、
「血圧が高めだと言われたことはありませんか?」
「血糖値が高めだと言われたことはありませんか?」
と尋ねる必要があります。
また脂質異常症は、以前まで「高脂血症」とも呼ばれていた疾患です。
しかし、脂質異常症も高脂血症も、あまりよく知られていない言葉です。
既往歴を訪ねるときに、
「高脂血症と言われたことはありませんか?」
と言っても、相手はピンとこないことがよくあります。
必ず、一般に知られた言葉で言い換えることが大切です。
つまり、
「コレステロールや中性脂肪が高いと言われたことはありませんか?」
という形です。
また、既往歴を聞く際に、
「何か大きな病気をしたことはありませんか?」
と言う医療者が多いですが、この質問だと生活習慣病を聞き漏らすことがあります。
生活習慣病は、患者さんにとっては無症状であるだけに、「大きな病気」とは認識していません。
実際「何もないよ」と言われた人が、高血圧や糖尿病の薬を飲んでいることはよくあります。
「大きな病気や『持病』はありませんか?」
と、「持病」という言葉を使うのも一つの手ですし、前述の通り具体的に「血圧」や「血糖値」という言葉を出すのも良いと思います。
これは生活習慣病に限らず、あらゆる既往歴を聞く時に共通する注意点です。
より具体的でわかりやすい言葉で必要な情報を問うようにしましょう。
今回は、患者さんに初めて問診する際のポイントについて解説しました。
医療者はぜひ、明日から取り入れてみてください。
きっとスムーズな情報聴取ができるはずです。
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