口内炎がよくできる、一度できたらなかなか治らない、とお悩みの方は多いのではないでしょうか。
ものを食べたり飲んだりだけで痛い、しみる、というのは本当に辛いものです。
私も口内炎ができやすい体質です。
医者の不養生と言われるかもしれませんが、疲れやストレスがたまっている時や、口の中の傷がきっかけですぐに口内炎ができてしまいます。
口内炎を早く治すにはどんな薬を選べば良いのでしょうか?
薬を試す以外に、口内炎ができた時に行うべきことはあるでしょうか?
今回は、口内炎の正しい治し方について、わかりやすく解説します。
口内炎の原因は?
口内炎は、「口腔内アフタ」や「アフタ性潰瘍」と呼ぶこともある、口の中の粘膜の潰瘍です。
潰瘍(かいよう)とは、簡単に言えば粘膜の表面がえぐれ、炎症を起こして白く変化した状態のことです。
舌や頰、唇を誤って噛んだ傷や、歯磨きなどで歯茎などにできた傷の感染、抗がん剤などの薬の副作用、偏った栄養、疲れや睡眠不足、ストレスなどが原因になります。
治療として最も有効なのは、当然ですが口内炎に直接薬をつけること(薬物療法)です。
まずはこれを行いましょう。
口内炎にはちみつや塩を塗り込む、といった民間療法に効果はありません。
塗るなら後述する専用の薬をしっかり塗りましょう。
それに加え、粘膜の健康維持に重要なビタミンの摂取と、口腔内の洗浄を同時に行うのも大切です。
順に詳しく説明します。
薬物療法
口内炎の治療薬は、軟膏(塗り薬)とパッチ製剤(貼り薬)の2種類があります。
ドラッグストアで売られているものもあれば、病院の処方箋がないと手に入らない処方薬もあります。
市販薬は「同じ成分で違う商品名」というものが多いので注意が必要です。
順に解説していきます。
軟膏
口内炎の軟膏には多くの商品があります。
実際の商品名を挙げて、3つに分類します。
大正A(大正製薬)
→ステロイドを含まない
ケナログ(ブリストルマイヤーズ)
アフタガード(佐藤製薬)
大正クイックケア(大正製薬)
トラフル軟膏PROクイック(第一三共)
成分はトリアムシノロンアセトニド(ステロイドの一種)。
市販されている。
デキサルチン(日本化薬)
アフタゾロン(昭和薬品)
成分はデキサメサゾン(ステロイドの一種)。
市販されていない(処方箋が必要)。
ステロイド薬の方が治療効果は高いため、まずステロイドが含まれている軟膏を選ぶことをおすすめします。
ここで重要なのは、市販されている軟膏の成分は全て同じトリアムシノロンアセトニドで、濃度も全く同じ(0.1%)だということです。
つまり、あまり効果がないからといって市販薬をいろいろ試す意味はあまりないということです。
一方、薬をかえたい時は、デキサルチンとアフタゾロンのようにデキサメサゾンを含む軟膏を医療機関で処方してもらうのは一つの選択肢だと言えます。
デキサルチンとアフタゾロンは、軟膏が柔らかく、粘稠性が高く(糸を引くように伸びる)、患部に塗った薬がずれにくいという特徴もあります。
患部に長くとどまる可能性が高いことはメリットと言えます。
パッチ製剤
アフタッチ(帝人)
トラフルダイレクト(第一三共)
口内炎パッチ大正クイックケア(大正製薬)
アフタッチA(佐藤製薬)
成分としてトリアムシノロンアセトニド(ステロイドの一種)を0.025mg含む点で全て同じ。
アフタッチ(帝人)以外はいずれも市販されている。
パッチ製剤は、小さな剤型の違いだけで、成分や濃度は全て同じ1種類で統一されています。
したがってパッチ製剤も、市販薬を色々試したり、市販薬が効かないので病院でパッチ製剤を処方してもらう、ということのメリットはありません。
成分が同じである以上「おすすめのパッチ製剤は?」という質問の答えはありません。
では、軟膏とパッチ製剤ならどちらが良いのでしょうか?
それぞれに利点、欠点があります。
パッチ製剤の利点
パッチ製剤の利点は、裏側がシール状になっているため、一度患部に貼り付けると口を動かしても取れにくいことです。
患部にくっついたまま、そこで薬の成分が溶け出す仕組みです。
軟膏は、患部に長い時間とどまらせることが難しく、その点ではパッチ製剤の方が断然有利です。
また、口の奥の方に口内炎ができた時は、軟膏を塗ろうとすると途中でどこかについてしまうことがあり、塗るのが難しいことがあります。
パッチ製剤なら、場所によらずどこでも貼りやすい、というメリットがあります。
特に寝ている間は無意識になめてしまったり、口を動かしてしまって、軟膏だと取れたりずれたりする可能性があります。
パッチ製剤は粘着力が高いためにずれにくく、寝る前につけるならパッチ製剤がおすすめです。
軟膏の利点
話し相手に見えにくい
唇に近いところの口内炎にパッチを使うと、話したり笑ったりすると円形のパッチがはみ出して見えてしまうということがあります。
したがってパッチ製剤は、口の奥の方の口内炎でない限り、日中に使用するのは少し難しくなります。
(本人が気にならない、日中人と会うことがない、という場合は大丈夫ですが)
一方軟膏は、しっかり塗り込んでおけばそう簡単には見えません。
日中の使用は軟膏の方が望ましいでしょう。
大きな口内炎にも使える
パッチ製剤は直径がおよそ7mm程度です。
これを超えるような大きな口内炎だと、全てをおおうことはできません。
軟膏は量の調節がいくらでもできるため、この点では軟膏の方が有利です。
私の経験上も、パッチ製剤で完全にカバーできないような口内炎ができたことは何度かあります。
大きい口内炎には、軟膏をたっぷり使用するのが良いでしょう。
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栄養療法
口内炎を治すためには、栄養バランスの良い食事を心がける必要があります。
十分な栄養が摂取できていないと、いくら有効な薬を使っても口内炎が治るのに時間がかかってしまいます。
中でも、粘膜の健康維持に関わっているビタミンである、ビタミンB1、B2、B6、ナイアシン(ビタミンB群の一種)の摂取が大切です。
それぞれがどんな食品に含まれているか、については以下の表をご覧ください(農林水産省HPより)。
ビタミンの種類 | 含まれる食品の例 |
---|---|
ビタミンB1 | 肉、豆、玄米、チーズ、牛乳、緑黄色野菜 |
ビタミンB2 | 肉、卵黄、緑黄色野菜 |
ビタミンB6 | レバー、肉、卵、乳、魚、豆 |
ナイアシン | 魚介類、肉類、海藻類、種実類 |
なるべくこれらを含む食べ物、飲み物を摂るのが良いでしょう。
口内炎ができやすい方は、日頃からこういう栄養補給を心がけることが、予防にもなります。
ビタミンB1、B2、B6を含むチョコラBBのような市販のビタミン製剤を使うのも一つの手段です。
ただし、これらは栄養補給という補助的な方法にすぎません。
治療は上述した薬物療法が主体であることに注意しましょう。
口腔内の洗浄
口内炎を治すには、口の中を清潔な状態に保つ必要があります。
口の中は細菌が非常に多く、うがいをして細菌を減らしても、2〜3時間程度でもとの状態に戻ってしまいます。
口内炎ができた時は、できる限り頻繁にうがいをすることが大切です。
また、イソジンやアズノールといったうがい薬や、モンダミン、リステリンなどの洗口液は、殺菌効果はうがいをした瞬間は高くても、結局2、3時間で元の状態に戻るのは同じです。
刺激が強い市販の洗口薬にはメントールやアルコールが含まれているものが多く、口腔内を乾燥させて逆効果ということもあります。
口腔内の乾燥は粘膜にとっては大敵です。
その上、これらの強い刺激は口内炎の痛みを悪化させます。
私は、水うがいで良いので、回数を増やすことの方が効果が高いと考えています。
なお、上述した理由で、うがいの時は塩水などの特別な水を使う必要性はありません。
水道水で全く問題ないでしょう。
また、歯磨きも大切です。
毎食後と、寝る前の1日4回の歯磨きを行いましょう。
同じく、メントールやアルコールの含まれた刺激の強い歯磨き粉は避けるようにしましょう。
ここまで書いてきた方法で口内炎がなかなか治らない時や、口内炎が頻繁にできる時は、医療機関の受診が必要です。
なぜ受診が必要なのでしょうか?
何科にかかるべきでなのしょうか?
注意すべき口内炎について、最後に説明します。
注意すべき口内炎
口内炎が続く、なかなか治らない、あまりに頻繁にできる、という時は病院に行く必要があります。
受診すべきなのは、口の中の専門家である、歯科、口腔外科が望ましいでしょう。
なぜ病院に行くべきなのでしょうか?
以下の二つの可能性を考慮する必要があるためです。
全身の病気の一症状である可能性
一つは、口内炎がきっかけで、治療が必要な全身の病気が見つかることがあるからです。
食べ物の通り道は口から肛門まで一本道で、消化管と呼びます。
消化管の中で、自分で簡単にその表面を見ることができるのは口の中だけです。
口内炎は口の中の粘膜の炎症ですが、実は消化管の粘膜に広く炎症が及んでいて、口の中の病変だけが見えている、という場合があります。
消化管の粘膜に炎症を起こす病気の代表例は、クローン病、潰瘍性大腸炎、ベーチェット病です。
いずれも、それほどまれとは言えない病気です。
潰瘍性大腸炎は安倍晋三首相がかかっている病気ですし、ベーチェット病はEXILEのMATSUさんがかかっていることが知られていますね。
いずれも口内炎を起こす病気ですが、当然口内炎を治すだけでは意味がありません。
専門的な全身治療が必要です。
消化器を専門とする私が「口内炎の話」を今回書いているのはこれが理由です。
アフタ性潰瘍でない可能性
もう一つは、一般的に「口内炎」と呼んでいる「アフタ性潰瘍」ではない可能性があるからです。
たとえばヘルペスなどのウイルス性や、カンジダなどの真菌性の口腔粘膜炎であるケースです。
これらの疾患には、普通の口内炎用の薬は効きません。
逆にますます悪化させてしまうこともあります。
専門の医師の診察が必要です。
なお、化学療法中(抗がん剤治療中)の副作用としての口内炎は、簡単には治せません。
適切な治療を受けたり、ひどい場合は薬の量やスケジュールの変更も必要です。
また痛みが強い場合は、専用のうがい薬が用意されている施設もあります。
必ず主治医に相談しましょう。
(参考文献)
国立がん研究センターがん情報サービス「粘膜障害:口内炎」