誰しも一度は、外来や入院中、あるいは健康診断の際に採血(血液検査)を受けたことがあるでしょう。
しかし、
どのくらいの量の血液を抜かれるのか?
どの血管に針を刺されるのか?
採血中は手をどのような姿勢にすればいいのか?
採血前の食事や、採血後の生活で注意点はあるのか?
といった細かい点については、知らない方が多いのではないでしょうか?
採血について十分な知識があれば、検査に対する不安が減り、より落ち着いて医療機関を受診できるはずです。
今回は、血液検査(採血)の仕組みについて分かりやすく説明します。
※今回は成人に対する血液検査を想定して書いています。小児の場合は当てはまらない部分もあるためご注意ください。
どんな血管で採血する?
採血の際は、腕に駆血帯(くけつたい:腕を縛るゴムのような道具)をつけ、血管を張らせて針を刺し、血液を抜くのが一般的です。
一般的な採血で針を刺すのは、動脈ではなく静脈です。
静脈は体表面の浅いところを通り、動脈より太くて刺しやすく、かつ止血もしやすいからです。
最もよく用いられるのは、肘の部分を通る静脈です。
多くの人で最も血管が見えやすく、針が刺しやすいためです。
一方、採血ではなく点滴をする際は、肘の血管はあまり使われません。
点滴は採血と違って、数十分あるいは数時間、血管内に短い管を刺したままにする必要があります。
肘で点滴をすると、肘を曲げるだけで点滴の入るスピードが変わったり、止まったりする恐れがあります。
そこで点滴は、あえて見えやすい肘の血管を避けて、他の部分で行うのが一般的です。
採血される時の注意点
採血する前に注意していただきたいことは3点あります。
まず1点目として、アルコールでかぶれる方(アレルギーがある方)は、事前にその旨を伝えておくようにしましょう。
そうでなければ、針を刺す部位を採血前にアルコール綿で拭いて消毒するのが一般的です。
(普通は採血される時に聞かれるので心配はいりませんが)
2点目として、何らかの病気で腕やわきの手術をしたことがある、透析用のシャントがある、以前採血されて痛みやしびれなど異変があった、というケースでは、事前に伝えておきましょう。
それ以外の方は、採血はどちらの腕で行っても構いません(入院中の方は足から採血することもあります)。
3点目として、これまで採血や点滴の際に針を刺された後に、めまいやふらつき、失神などを起こした経験のある方は、その旨を伝えましょう。
強い精神的ストレスによって起こるこうした病態を迷走神経反射(神経調節性失神)と呼びます。
安静にしていれば治るため心配はいりませんが、倒れて怪我をしたりしないよう、ベッドで寝た状態で採血するなどの準備が必要です。
さて、採血時は駆血帯で腕を縛った後、軽く手を握り、血管が拡張(正確には「怒張」と呼ぶ)してくるのを待ちます。
駆血帯によってなぜ血管が拡張するか、ご存知ですか?
駆血帯によって腕は、
「浅いところを通る静脈は縛られているが、深いところを通る動脈は縛られていない状態」
になっています。
駆血帯を巻いていると、動脈内の血液は手のひら側へ流れますが、静脈血となって返って来た血液は、駆血帯を巻いた部分で行き止まりになっています。
これにより、駆血帯の手前で静脈内に血液がたまり、血管が膨らんで刺しやすくなるわけです。
手を握った状態にする(時に親指を中に入れるよう指示されることもある)のは、手のひらに流れる血流を少なくし、肘の部分の血管をより拡張(怒張)させるためです。
採血する時に針を刺すべき血管を見つけやすくするため、とお考えください。
なお、血管が見えにくい場合は、手を握ったり開いたりしていただくこともあります。
点滴の際は問題ありませんが、採血の際は少し注意が必要です。
筋収縮によってカリウムが漏出し、検査値でもカリウムが高くなる可能性があるとされているからです。
こうしたリスクを考慮した上でスムーズな採血を優先する場合は良いですが、基本的には手は軽く握るだけ、と思っておきましょう。
また、手を開くタイミングについては、採血者の指示に従いましょう(普通は血液が全て採取し終わってから)。
採血前に食事をしてもいいか?
検査項目の中には、食事摂取の影響を受けるものがあります。
代表的なのは、血糖値と中性脂肪(TG、トリグリセリド)、インスリンです。
これらは食後に数値が上昇するため、食後の検査では平常状態での数値を知ることができません。
食事をした後に採血をした、という場合は、医師にその旨を伝えるようにしましょう。
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採血で抜く血液の量
採血の際に抜かれる血液の量は、一般的に10~15ml程度で、「大さじ1杯」と言われます。
しかし、これは必要な検査項目数によります。
入院前の検査や、精密検査を行う際など、多くの項目を検査しなくてはならない時は、それだけたくさんの血液が必要です。
血管が細いことなどが原因で、1回では十分な血液量が得られないこともあります。
その際は、何度か針を刺して採血する必要があります。
また、感染症が疑われ、血液内に細菌が入った状態(菌血症)でないかを検査する「血液培養検査」では、体の2ヶ所から血液を抜くのが一般的です。
また十分な血液量が必要となるため、合計40ml程度と少し多くなります。
「両腕から採血され、しかもたくさんの血を抜かれた!」
と不安になるかもしれませんが、血液は毎日新しく作られていますのでご安心ください。
採血でたくさん血液を抜かれて腕や体がだるい、と言う方もいらっしゃいますが、心配はいりません。
献血で提供される200mlから600mlという血液量に比べれば、採血での血液量は遥かに少量です。
たった1回の採血で貧血になる、ということもありません。
採取した血液はどうなるか?
血液を採取すると、その場で「採血管(スピッツ)」と呼ばれる小さな細い入れ物に注入されます。
フタがピンク色や緑色のカラフルなビンのような容器を見たことがあるはずです。
採血管の中は陰圧(気圧が低い)になっているので、自然に血液が吸い込まれていく仕組みになっています。
管の中には、検査に必要な薬が入っています。
管が色で分かれているのは、検査項目によって混ぜるべき薬が違うためです。
また、採血管に血液を入れた後、コロコロ転がしたり振ったりするのは、管内の薬と混ぜるためです。
検査項目が多岐に渡る患者さんは、その分だけ採血管の種類も増えます。
多い方は、1回の採血で採血管が4本〜5本を超えることもあります。
こうして集められた血液は、病院の検査室で検査されます。
通常、この結果が出るのに1時間前後かかります(病院によって異なります)。
ただ、検査項目によっては1時間以上かかる、あるいはその日中に結果が出ない、というものもあります。
例えば「腫瘍マーカー」は他の項目より結果が出るのに時間がかかるため、外来での待ち時間発生の要因になります。
他の項目は全て結果が出ているのに、腫瘍マーカーだけがまだ出ないため患者さんを呼び入れることができない、ということもよくあります。
他の科でも、結果が出るのに時間がかかる特殊な検査項目はあるでしょう。
「なかなか呼ばれないので結果が悪いのではないかと不安になった」
と患者さんからよく言われますが、検査結果が正常でも時間がかかる、ということは普通にあります。
外来ではこうした待ち時間を減らすため、外来日の前日や数日前に前もって採血しておいてもらう、という方法をとることもあります(当日採血が必要なケースを除く)。
そうすれば、来院してから比較的早いタイミングで受診することが可能です。
一方、院内で検査結果の解析ができない、というケースもあります。
例えば、開業医の先生が運営するクリニックで、院内に検査用の機械がない場合は、検査会社や近隣の病院に外注する必要があります。
この場合は、「数日後に結果を聞きに来てください」となるのが一般的です。
また大きな病院でも、検査会社に依頼が必要な特殊な検査項目は少なからずあります。
この場合は、「その日は検査結果のうち一部を患者さんに伝え、残りは数日後に」というパターンになります。
「すぐに結果を知りたい!」と言われる患者さんは多いですが、項目によってはそう簡単ではないということです。
慌てず落ち着いて結果報告を待ちましょう。
外来と入院中の違い
外来では、血液検査コーナーで順番待ちをして採血してもらう、という流れが一般的ですね。
この結果がカルテに配信され(電子カルテの場合)、医師が外来の診察室でそれを確認し、患者さんに伝える、という流れになります。
一般的に、この検査コーナーで採血するのは臨床検査技師です。
一方、入院中は看護師が病室を訪問して採血します。
採血の時間は7時前後の早朝であることが一般的です。
8時〜9時頃に出勤してきた主治医が、そのタイミングで自分の患者さんの検査結果を知り、その日の治療方針を立てる必要があるためです。
特に外科系の医師は、9時前後に手術室に向かい、それから手術が終わるまで検査結果を確認できなくなります。
9時までに結果が出ていなければ、治療方針の決定や方針変更が術後になってしまいます。
状態の安定した方であれば問題ありませんが、朝一番の時点で確実に動く必要があるというケースでは、私たち医師から看護師に、
「早朝なるべく早いタイミングで」
とお願いすることもあります。
朝のまだ暗いうちから起こされて採血された、と怒る方もいますが、患者さんの治療にとって重要な事情があるとお考えいただければと思います。
採血後の注意点
採血後は、針を刺した部分にカット綿やガーゼを貼られ、押さえておくよう言われますね。
5分程度押さえてから剥がすよう指示されるのが一般的です。
血をさらさらにする薬(ワーファリンなど)を飲んでいたり、血が固まりにくくなる何らかの持病がない限り、血はすぐに止まるのが普通です(1分もかからないことが多い)。
カット綿は、血が止まればすぐに外しても構いません。
また、採血後は、いつも通りお風呂に入ったり、プールに入ったりしても構いません(医師から特別な指示がない限り)。
ただし入浴時は、針を刺した部分をあまり強くこすらないよう注意しましょう。
採血後しばらくしてから、採血した部分の周囲が青くなることがあります。
血管の外へ血液が漏れ、内出血を起こした状態です。
「青あざ」とも呼ばれます。
人によっては広く内出血が広がることもありますが、1週間程度で黄色くなったのち消えることがほとんどで、心配はいりません。
(何度も繰り返し採血をすることで、こうした痕跡が長期的に残ってしまうことはあります)
ただし、急速に広がる場合や、痛みが強い場合は医療スタッフに相談するようにしましょう。
採血後の生活はいつも通りで構いません。
食べ物に気を遣う必要はありませんし、飲酒も適度であれば構いません。
今回は採血について詳しくまとめました。
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