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喉に魚の骨が刺さったときの医学的に正しい対処法、病院に行くべき症状

喉に魚の小骨が刺さったままとれない

水を飲んでも喉が痛い

唾を飲むとチクチクとした違和感がある

そんな経験は誰しもあるでしょう。

 

骨が刺さったまま取れなかったらどうしよう

ひどい病気に発展したらどうしよう

見えない部分だけに、誰しも不安になって当然です。

 

喉に魚の骨が刺さり、救急外来に来られる方は非常に大勢います。

最近ではインターネットでいろいろ解決策を調べ、間違った対処法で症状を悪化させて来る方も多くいます。

「喉に魚の骨が刺さる」というのは、非常に頻繁に起こる病態です。

これほどよく起こる現象というのは、必ず医学的に繰り返し研究され、正しい対処法が確立されていて当然です

たとえば、21年間、737人の「喉に物が詰まった(咽頭異物)患者」を徹底的に解析した研究もあります。

(そのうち690人(93.6%)が魚の骨でした)

 

そこで今回は、喉に魚の骨が刺さったときの医学的に正しい対処法を解説します。

インターネットに出回った対処法は間違いだらけで危険です

ここに書いた内容を信用してください。

 

やってはいけないこと

喉に骨が刺さった時、やってはいけないのは、

ご飯など食べ物をかたまりのまま飲み込む

大量に水などを飲んで流し込む

といったことです。

特に、ご飯やお餅の飲み込みは「民間療法」のようによく知られていますが、骨がさらに深く刺さって喉(咽頭)を貫通したり、食道側に移動して取れなくなります

喉に深く刺さり、細菌感染を起こして化膿し(膿瘍ができ)、手術を受けなくてはならなくなる人もいます。

また、食べた物が喉に詰まって窒息するリスクもあります。

決してやってはいけません。

 

また、「足のツボを押すと骨が取れる」という説があるそうですが、笑えない冗談です。

全く無意味ですので、やる必要はないでしょう。

お酢やお酒を飲む、大根おろしを食べるといった民間療法も効果は期待できません

 

正しい対処法とは?

ではどう対処すれば良いのか?

ということですが、その前にまず知っておいてほしいのは、

「魚の骨が刺さっている」と言って病院に来られた方の多くは、そもそも骨が刺さっていない

ということです。

つまり、骨が喉を通る時に粘膜の表面を傷つけ、それ以後飲み食いをすると傷に痛みが出るので、

「骨が刺さっているような感覚が残っている」

という状態です。

こういう状態であれば、1〜2日以内に自然に痛みが治ります。

 

また、実際に骨が喉に刺さっている人のうち、およそ95%は中咽頭に刺さっています

(特に口蓋扁桃、舌扁桃と呼ばれる部位です)

図を見ればわかるように、大きく口を開けると中咽頭の大部分は目で見えます

よって多くのケースでは、口の中を観察し、骨を確認してピンセットで抜いて治療終了です(麻酔も不要)。

 

ここまでをまとめると、「魚の骨が刺さっている」と思ったとき、その多くは、

実際には刺さっていない

または

簡単に抜ける位置に刺さっている

のどちらかだということです。

注意

専門的な診療を行う耳鼻科医に確認し、以下追記(2019.9.3)。

中咽頭でも「舌根扁桃(舌扁桃)」は口を大きく開けても見えず、ここに刺さっている場合は自力では取れません。

中咽頭のうち19%はこの部位に刺さるという報告もあります。

対処法は後述しています。

 

まず最初にすべき処置

したがって、まず行うべきなのは、

「食事を中断し、大きな口を開けて家族に喉の奥を見てもらい、骨が見えるかどうか確認してもらう」

ということです。

一人暮らしの方なら鏡で見てみましょう。

可能であれば、ライトで照らしながらピンセットで取りましょう

その際、ピンセットの消毒は不要です。

口の中は「トイレの水より汚い」と言われるくらい細菌だらけです。

消毒したところで、喉に到達する前に細菌だらけになります。

それよりピンセットをしっかり水洗いをすることの方が大切です。

(骨を抜いた後もうがいをしておきましょう)

 

また、ピンセットで骨を取るのが難しければ、うがいをするのも良いでしょう。

(うがいは水でOK。イソジンなどのうがい薬は不要です)

これでも取れないようなら、無理をしてはいけません。

無理に取ろうとすると骨を押し込んでしまう危険性があります

取り方がわからない、難しい、というときは遠慮なく病院に行きましょう(何科に行くべきかは後述します)。

 

では、口を大きく開けても骨が見えなかったらどうすれば良いでしょうか?

 

骨が見えなかったら?

口を開けても骨が見えなければ、

もう骨は刺さっていない

または、

見えないような深いところに刺さっている

のどちらか、ということになります。

 

一般的には、普通に食事ができて水分が摂れるのであれば、精密検査や治療は不要です。

ただし、

2日経っても症状が良くならない

痛みが悪化する

熱が出る(発熱)

息苦しい

ものが飲み込みにくい

出血が多い

という症状が起これば放置してはいけません

精密検査が必要ですので、すぐに受診をしましょう。

骨が実際に刺さっているなら、「自然に溶ける」ということはありえませんので、以下のような検査と治療が必要です。

MEMO

専門的な診療を行う耳鼻科医に確認し、以下追記(2019.9.3)。

実際に骨が刺さっているかどうかに関して、

「痛い点をピンポイントに指し示すことができる場合は実際に刺さっていることが多く、逆にどこが痛いのか聞かれてもはっきり答えにくい例では刺さっていないことが多い」

というのが一つの目安になります。

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どんな検査と治療をすべきか?

魚の骨が下咽頭頸部食道に刺さっていたら、口を開けても見えません。

(あるいは上述した通り、中咽頭でも口を開けるだけでは見えない部位があります)

 

上記のような症状が出ている場合は、骨が刺さったことにより、

感染を起こしている

傷が大きい

咽頭から外へ突き刺さっている

気道(空気の通り道)を塞いでいる

といった可能性を考えます。

 

この場合はCT検査を行い、骨の位置を確認するのが一般的です。

CT検査では、魚の骨をほぼ100%検出することができます(普通の単純X線:レントゲンでは写らないこともあります)。

加えて、内視鏡を使って観察しながら骨を抜くことが可能です。

最初から耳鼻科医が診察する場合は、CTを行う前に内視鏡を使って観察することもあります。

感染が強く、炎症が起きて膿瘍(膿の溜まり)ができているケースでは手術が必要なこともあります

(2日程度でここまで発展することは非常にまれですが)

 

何科に行くべきか?

喉に骨が刺さった人は、ほとんどが時間外(一般外来が空いていない時間帯)の救急外来を受診します。

夕食に魚を食べることが多く、その後すぐの受診になり、一般外来が空いていないことが多いためです。

 

一方、日中であれば受診すべきは耳鼻咽喉科です。

喉の奥を正確に見ることができ、ファイバーを行うこともできます。

大きな病院であればCT検査も可能です。

 

日頃から注意すべきこと

喉に骨が刺さりやすい魚の種類として、最も多いのがアジで、ウナギ、サケ、サンマ、サバと続きます。

いずれも比較的大きな魚で、かつよく食されるものです。

また大きくて太いタイの骨にも注意が必要です。

これらの魚を食べる時は、骨に十分に注意しましょう。

 

また、喉に魚の骨が刺さって病院に行く人のうち、約3人に1人は9歳以下の子供です(4人に1人が4歳以下)。

小児は特に自分の症状をうまく言葉で伝えることができません

魚を食べさせるときは、ご家族が十分に注意し、骨が刺さるのを予防することも大切です。

 

もちろん、ここまで書いてきたように、喉に骨が刺さっても「おおごと」になる可能性はかなり低いものです。

過剰に心配する必要はないでしょう。

ここに書かれた内容をよく読んで、慌てず適切に対応しましょう。

(参考文献)
「21年間の咽頭異物症の臨床像の検討」口咽科20:3,369-375
マイナーエマージェンシー原著第3版/医歯薬出版
ER・救急 999の謎/メディカルサイエンスインターナショナル

うがいのことについては以下のページもお読みください。

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