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診断書が期限内にもらえない理由、患者さんが気をつけるべきこと

最近twitter上でこんなツイートが話題になっています。

診断書に、役所への提出が必要な画像のCDロムを付けてもらうよう医師に依頼したのに作成されていない。

そのためにわざわざ時間を作って病院に来たのに、もらえないなんてありえない。

相手の事務員も患者を見下したような態度で悪びれない。

まさしく「病院あるある」と言える事例で、申し訳なくて代わりに謝りたいくらいです。

この方は事務員の態度に言及していますが、問題の構造はもう少し複雑です。

 

診断書が依頼されてから最終的に患者さんに渡されるまでの過程を、ほとんどの患者さんは知りません

今回はこれについて解説し、どの部分を改善すべきかを書いてみます(上述の事例に対してではなく、一般論としての解説です)。

(病院によって規則は異なるため、ここに書いた流れに当てはまらない例外がある可能性はあります)

 

医師に直接依頼してはいけない

診断書は、医療保険の申請や役所への提出のために患者さんが必要な書類です。

一般的に病院には「文書窓口」と呼ばれる、書類作成を担当する部署があり、患者さんはそこへ依頼することになっています。

ただ、多くの患者さんはこのことを知らないので、私たち医師が患者さんから直接依頼されることがほとんどです。

しかしこの依頼に対して、

「わかりました、書いておきますね」

と言って一人一人承っていると抜けが発生するリスクがあるため、

「文書窓口に依頼してくださいね」

と必ず返します。

依頼の数があまりに多いため、この部分は事務方が一元管理しているということです

依頼を受けた事務は、ある程度依頼がたまった時点で医師にまとめて作成依頼を回し、随時進捗も確認する、という流れになります。

たいてい病院ではこのように、診断書の受付を事務レベルで一本化しています。

 

ところが、患者さんによっては外来中に直接私たちに追加の依頼をされる方がいます。

たとえば、上述のツイートのように、

「CDロムを付けてください」

という方もいるし、

「就労不能期間を明記してください」

というパターンもあります。

「◯月△日に受け取りたいので、それまでに作成をお願いします」

と期限を区切る方もいます。

 

ここで医師が「承知しました」と言ってしまうケースが最も危険です。

医師は1日に何十人もの患者さんを診察し、この種のたくさんの依頼を受けるため、「誰から何を依頼されたか」を一つ一つ覚えておくのは不可能です。

仮にメモしておいたとしても、事務方から依頼が上がって来るのは数日後なので、たくさんの依頼の中から、

「この人はCDが必要だったな。この人は○◯を書かないといけなかったな。」

と言ってメモと照らし合わせながら作成するのはミスの元です。

 

よって医師は患者さんからの個別の追加依頼に対しても全て

「文書窓口に行ってその旨を伝えてください」

と答えるのが正解です。

そして患者さんは「医師に直接依頼した」という意識は捨ててください

結局数日後に事務から医師に上がって来る依頼に、患者さんからの追加依頼が盛り込まれているかどうかが大事です。

病院によく慣れた患者さんはこの辺りの流れを十分理解しているので、

「CDロムを付けてもらわないといけないので、文書窓口に依頼しておきます。先生、依頼が来たらお手数ですけどお願いしますね」

と言われます。

まずこの部分で、医師と患者さんの認識の違いという一つのリスクがあるわけです。

(ちなみに上述のツイートの方は、ここまで十分に準備し、重要な部分に付箋まで付けたにも関わらず被害を受けているため、もっと許しがたい事態が起こっているということです)

 

医師が期日に間に合って仕事をしない

文書窓口に来た依頼は、数日おきにまとめて医師に上がってきます

電子カルテ上で通知が来るシステムがある病院もあれば、紙の状態で各医師の書類ボックスに投函される病院もあります。

外来日の夜やその翌日は、10通、20通と書類作成依頼が大量に入っているので、大体これを日々の診療が終わった後にやります。

(たいていこれが膨大な時間外労働になっています)

ちょうど膠原病内科の先生の分かりやすいツイートがあるので拝借します。

 

このように膨大なので、書類作成はどうしても面倒な仕事になり、特に疲れている時はつい「今日はいいか」と後回しにしがちです。

こうして後回しにするうちに期限内に仕上がらない診断書が現れます。

直前になると事務から催促の連絡が来ますが、ちょうど忙しいタイミングに重なって結局間に合せられない医師もいます。

期限を守るのは社会人として当然のルールで、これができない人は普通はクビですが、残念ながらこういうルーズな医師は一定数います。

 

ここで、わざわざ予定を空けてまで病院に書類をもらいに来た人がいた時、大きなトラブルに発展します。

書類は医師から直接もらうのではなく、文書窓口で事務員からもらいます。

当然約束通りその日にもらえるものと信じて出向いた患者さんは、まさかの「書類がまだできていない」という状況に思わず怒鳴り声を上げて激怒してしまう人もたくさんいます

当然の怒りですね。

時間に余裕がある人や、自宅が近い人なら、「まだできていないので1週間後に来てください」と言われてもそれほど怒らないかもしれません。

しかし、患者さんの中には体調が悪くて病院に行くのも一苦労、という方もいます。

タクシーでわざわざ往復する方もいるでしょう。

こうした方が、期日を守らない医師の怠慢のおかげで適切なサービスが受けられないなど、あってはならないことです。

 

患者さんから怒られた事務員は、その場で医師に連絡するのですが、たいていつかまりません。

外来中、手術中、処置中と、日中の突然の依頼には対応できない人がほとんどです。

患者さんはわざわざ来たのに、結局泣く泣く帰ることになります。

事務員も、こうして医師と患者さんの板挟みになって辛い思いをすることになります

 

私はこうした事態を避けるため、診断書の作成依頼があれば、依頼が来た日に全て仕上げると決めています

手術など日々の業務が立て込んで遅くなっても、どれだけ依頼が多くても、全て仕上げてから帰宅します。

期限の長さに関わらず、全て依頼日にやってしまうのが最もミスが少ない方法だからです。

医師によっては、「手術日でない○曜日にやる」「回診日にやる」のようにルールを決めている人もいます。

いずれにしても、なるべく期日を守るための方法を医師は自力で考えるのが望ましいと思います。

 

ただ、「医師に期日を守るよう注意を促す」だけでは限界があります。

そこで病院によっては、事務員が作業を代行してくれるところがあります。

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事務員が作成を代行する

同じ書類作成業務でも、病院によって医師の負担はかなり違います

ほぼゼロの状態から医師が記入しなくてはならない病院もあれば、事務員がある程度作成を代行し、医師はそれをチェックして修正し記名するだけ、という病院もあります。

当然、期日に間に合わずトラブルが起きやすいのは、医師が全てを記載しなくてはならないケースです。

 

ドクターXの大門未知子の「医師免許がなくてもできる仕事は致しません」ではありませんが、日々様々な業務で忙しい中で、こういう「医師でなくてもできそうな書類仕事」はどうしても後回しになりがちです。

事務員が作成を代行し、医師は最終チェックを行うだけなら、業務時間は10分の1くらいに短縮します

これによって書類が適切なタイミングで患者さんに届きやすくなるのは間違いないでしょう。

医師が怠慢さを改善すべきなのは当然ですが、ある程度分業することで医師の負担を減らすことも大切です。

 

このようにして患者さんへのサービスの質が向上すれば、患者さんと医師との間の板挟みで事務員が悩んで辞めてしまうことも減るでしょう。

そうすると、分業できる事務員が増えるという好循環も生まれます。

 

そもそも、医師は病院経営の観点から見れば「金食い虫」です。

同じ仕事をやるにも、人件費は他職種と比べると圧倒的に高くつきます

医師でなくてもできる仕事を他の職種に任せることは、コスト面からも有利で、これは結局患者さんの利益に跳ね返ります

書類作成に関わらず、医師以外でもできる仕事をいかに分業するかが、医療現場では非常に大切だと思います。

 

電子化で利便性を追求

最後は、医療現場でやりとりする情報をデジタル化する、という当然の解決策が挙げられます。

近年電子カルテが一般的になったとは言え、書類関係は未だにアナログです。

紹介状がいまだに紙に印刷され、検査結果をCDロムに焼いて封書に入れて送るなど、時代遅れも甚だしいところです。

 

診断書に関しても、書類や画像をメールやウェブ上で容易にやり取りできるこのご時世に、印刷された紙切れ一枚取りに行くためだけに患者さんがわざわざ病院に出向いています。

健康に失調を抱えた患者さんに、書類を取りに度々足を運んでもらうことの異常性を、システムを作る人たちがもう少し考える必要があります。

むろんセキュリティ面など、克服すべき壁は大きいとは思いますが、医療者と患者両方の負担を減らせるシステムの導入に期待したいところです。