大腸カメラを受けて、「憩室(けいしつ)がある」と言われたことがある方は多いでしょう。
あるいは、憩室が炎症を起こす「憩室炎」にかかったことがある、という方もいるでしょう。
憩室炎は、私たち消化器科の医師がよく遭遇する疾患です。
吉澤ひとみさんや玉置浩二さんなど、芸能人がかかって話題になることもあります。
しかし、盲腸(虫垂炎)など腹痛を伴う他の消化器疾患と違って、意外なほどその正体を一般に知られていません。
そこで今回は憩室炎について分かりやすく解説します。
大腸憩室とは何か?
「憩室(けいしつ)」とは、簡単に言えば、消化管の壁が外側にくぼんだ部分のことです。
この憩室が発生した状態を「憩室症」と呼びます。
消化管には、食道、胃、小腸、大腸がありますが、このいずれにも憩室はできます。
中でも最も多いのは大腸憩室です。
日本人の23.9%が大腸憩室を持っているとされています。
憩室ができる状態を「憩室症(けいしつしょう)」と呼びますが、これがあるだけでは病的とは言えません。
症状も全くありません。
現に、憩室が100個以上ある方もたくさんいますが、普通に生活しています。
憩室がたくさんあっても、それ自体は治療の対象ではありません(というより治療で憩室をなくすことはできません)
ところが、憩室が様々なトラブルを起こすことがあります。
この「トラブル」には、大きく分けて以下の3つがあります。
憩室が細菌感染を起こす「憩室炎」
憩室から出血する「憩室出血」
憩室の部分で穴が開く「憩室穿孔(せんこう)」
今回はこの中の「憩室炎」について解説します。
憩室炎の原因
憩室は、大腸の壁がくぼんだ状態になっているため、便が付着するなどして、細菌が繁殖しやすい構造になっています。
大腸に付着した細い管のような構造が炎症を起こす虫垂炎(「盲腸」と呼ばれる病気)と同じ理屈です。
憩室に大腸菌などの腸内細菌が繁殖して感染症を起こした状態が「憩室炎」です。
憩室炎の正体は細菌感染ですので、ストレスなど精神的な要因で憩室炎になることはありえません。
憩室炎の症状
強い腹痛が起こります
また吐き気、嘔吐が起こることもあります。
また38〜39℃前後の高い熱が出ます。
お腹の比較的狭い範囲が痛むことが多く、歩いたり寝返りを打ったりすると痛い部分に響くため、じっとしている方が楽、というのが特徴的です。
大腸はお腹全体に広がっている臓器なので、憩室炎では痛みが出る部位は決まっていません。
右下腹部のこともあれば、左上腹部のこともあります。
ただ、60歳未満には右側の発症が多く、それ以上の人は左側が多い、という特徴はあります。
憩室炎の検査と診断
憩室炎が疑われれば、腹部エコー(超音波)や腹部CT検査を行います。
多くはCTで比較的容易に診断できます(造影剤を用いたCTを施行するのが一般的)。
右下腹部の大腸に起こった憩室炎は、お腹の診察だけでは虫垂炎と全く見分けがつかないため、画像診断はほぼ必須です。
CTで診断は可能ですので、特別な理由がない限り時間のかかるMRIを行うことはありません。
当然ながら、憩室炎は憩室のない人には起こりません。
以前に受けた大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)や注腸造影検査(バリウム検査)で「憩室がある」と言われた方は、受診時に医師にその旨を伝えましょう。
憩室炎を疑う重要な情報となることがあります。
広告
憩室炎の治療と入院期間
憩室炎は、軽症のものは手術の必要はありません。
抗生剤(抗生物質、正しくは抗菌薬)の点滴で治ります。
ただし、治癒するまでには時間がかかりますし、多くの場合、治療には入院が必要です。
まず、食事をとると憩室炎は悪化するため、絶食していただきます。
病状によっては水分も禁止です。
絶食の期間は、血液検査の結果や熱の出方を見ながら決めますので、病状によって様々です。
短い人で3〜4日、長い人では1週間以上は絶食が続きます。
抗菌薬の点滴の期間も病状によります。
1週間以上行うことが一般的ですが、経過次第です。
問題なく改善すれば、飲み薬の抗菌薬に変更して退院です。
ごく軽症の憩室炎であれば、最初から飲み薬の抗菌薬で外来治療することもあります。
しかし治療が中途半端に終わると、再発(正しくは「再燃」)することがあります。
医師の指示を守って、適切な期間しっかり治療しましょう。
一方、膿(うみ)の塊(膿瘍:のうよう)がお腹の中にできてしまうような、重度の憩室炎を起こす人もいます。
この場合は、お腹の外から注射して膿を抜かなくては治りません。
膿を抜いたところに管(ドレーン)を入れて、治るまで管を入れたままにしておくドレナージ治療を行うこともあります。
また、憩室に穴があき「憩室穿孔」と呼ばれる状態に発展することもあります。
こうなると、大腸の内容物がお腹の中に漏れ、ひどい腹膜炎(穿孔性腹膜炎)を起こします。
抗菌薬の点滴だけでの治療は不可能で、手術が必要となります。
手術では、大腸を切ってつなぎ合わせたり、ひどい場合は一時的な人工肛門を作ることもあります。
穴が空いて隣の臓器と繋がってしまうこともあります。
これを「瘻(ろう)」と呼び、この穴を「瘻孔(ろうこう)」と呼びます。
たとえば膀胱と繋がったケースは、「膀胱瘻」といいます。
憩室は予防できる食事はある?
憩室症を予防するためには、バナナが良い、ヨーグルトや乳酸菌が良い、など様々な俗説があります。
しかし実際には、大腸憩室ができる原因ははっきりわかっていないため、憩室ができるのを予防する医学的根拠のある方法は存在しません。
ただ、憩室は大腸内の圧力の高まりにより生じる可能性があるため、食物繊維をしっかりとり、便秘を解消しておくことが大切と考えられています。
一方、憩室炎の危険因子としては、喫煙と肥満が挙げられます。
また、憩室炎を一度経験した人は、憩室がある以上は憩室炎の再発の可能性があります。
現時点では残念ながら、再発を予防する手段はありません。
食物繊維の摂取で再発率が下がる、とする報告もありますが、確実なものではありません。
一方、憩室炎は大腸癌の原因にはなりません。
ただし、憩室炎の精密検査をきっかけに大腸癌が発見されることはあるため、検診等で大腸カメラを受けたことがない人は、必ず受けることをすすめられます。
今回は憩室炎について解説しました。
腹痛+発熱は、憩室炎を疑う組み合わせです。
すぐに病院に行くようにしましょう。
腹痛については以下の記事もご参照ください。