医師向け月刊誌「ドクターズマガジン」2019年8月号の巻頭コラムに寄稿しました。
原則医師のみが購読可能な雑誌ですが、SNSでご紹介したところ、ありがたいことに複数の方から「読みたい」とのお声をいただきました。
今回、編集者の方々のご厚意により特別にブログへの転載を許可していただきましたので、ここに転載いたします。
ドクターズマガジンは、今年で創刊20周年を迎える、おすすめの役立つ医師向け情報誌です。
巻頭コラム「Doctor’s Opinion」転載
「肺炎:90500回」
「大腸がん:74000回」
「頭痛:110000回」
何の数字かお分かりでしょうか?
これらは、それぞれのキーワードが1ヶ月あたりに検索エンジンで検索される回数です。
今、世の中の多くの人は、何らかの症状で困ったり、何かの病気について情報収集したいと思った時、まずGoogle検索します。
ここに挙げた単一キーワードに加え、多くの人は「大腸がん 症状」や「頭痛 原因」のように複数のキーワードを組み合わせて検索しています。
これらを含めると、それはもう、おびただしい数の医療系キーワードが毎日検索されているのです。
さらに、近年情報収集ツールとしてよく使われるのが、TwitterやInstagramなどのSNSです。
多くの人がSNSを上手に使い、効率良く情報を得て、日々の生活に取り入れています。
では、こうして検索して得られる情報は、果たして医学的に信頼に足るものなのでしょうか?
ネット上には、星の数ほど多くのコンテンツがあります。
ご存知のように、中には医師の立場から見ると首をかしげるような、怪しげな情報も数え切れないほどあります。
病気で困っている人をターゲットに、高額の商品を売りつけたり、医学的根拠に乏しい治療法を勧めたりする、悪質なコンテンツも多くあります。
毎日多くの人たちが、インターネットを介して、私たちの気づかないところで健康被害を受けている可能性があるのです。
また、最近は事前にインターネットを使って病気や症状に関する予備知識を得てから受診する人も増えていると感じます。
外来で患者さんから、
「ネットでこういう記事を見たのですが・・・」
「インスタでこんな体験談を見たので実践したいのですが・・・」
と言って、聞いたこともないような治療法を提案されることすらあります。
患者側が自分で情報収集し、医療リテラシーを高めることは、治療意欲の向上という点では非常に重要なことです。
しかし、肝心の参照元のクオリティに問題があるのです。
インターネットを使えば、誰もが専門家の校閲を受けることなく、パソコン一台で好き勝手に情報を発信することができるからです。
かつて、医療に関する情報は、街のかかりつけ医や病院の担当医から得るか、「家庭の医学」のような専門家の校閲を受けた書籍からしか得ることができませんでした。
しかし今では、インターネットという強力なツールがあります。
今や私たち医師は、星の数ほどある「参照元」の、たった一つにすぎません。
診察室の中だけで患者さんを救える時代ではなくなっているのです。
私はこうした事態を懸念し、2017年5月に医療情報ウェブサイトを開設し、これまで400本を超えるコンテンツを作成しました。
検索エンジンで上位に表示させる施策(SEO対策)を徹底的に研究し、開設2年で800万を超えるアクセスを集めました。
また、ネットでの情報収集がSNSにシフトしていることを知ってから、各種SNSでも情報発信を開始。
特にテキストコンテンツと親和性の高いTwitterでは、3万人を超える人たちにフォローしていただいています。
私は日々、こうした発信ツールを用いて情報発信し、「病院に来ない人」や「病院に来る前の人」を何とか助けたい、力になりたいと思い、活動しています。
こうした活動が軌道に乗り、自分のサイトだけでなく、他のウェブメディアで連載したり、書籍出版のお話をいただいたりと、幸い発信チャンネルは徐々に増えています。
今は、無名の個人であっても、直接多くの人に情報を届けられるツールが豊富に揃っています。
ブログ、ウェブサイト、Facebook、Twitter、Instagram、YouTube―。
多くの医療者たちが、それぞれの得意な方法で情報発信を始めています。
個人の声が患者さんに直接届くこの時代に、信頼性・信憑性の低い「ノイズ」ではなく、専門家から、真にお役に立てる情報を届けたい、届けられる環境を整えたい、と私は考えています。
特に私より若い先生方は、こうした多くのツールを「ユーザー」として使用することに慣れています。
SNSでの情報収集のちょっとしたコツも、後輩の先生方の方が遥かに詳しいものです。
医療におけるインターネットのあり方は、今まさに変わりつつあります。
多くの医師たちと、新たな発信の形を築いていきたい。
私はそう強く思いながら、日々活動を続けています。