みなさんはこれまで、処方箋に書かれた「飲み方」について疑問に思ったことはないでしょうか?
「定期薬」と「頓服(とんぷく)」の違い
「食前」「食後」「食間」など、飲むタイミングを表す言葉の意味と理由
については、意外に十分に知られていません。
「頓服」を痛み止めのことだと誤解している人もいるし、「食間」を「食事中」のことだと思っている人もいます。
今回は、薬の飲み方について役立つ知識を分かりやすく説明します。
これを読めば、薬の飲み方について一通りの知識がつきますので、ご安心ください。
定期薬と頓服の違い
「頓服(とんぷく)」や「頓用(とんよう)」という言葉を私たちはよく使いますが、これらは意外に難しい医学用語です。
(「屯服」「屯用」と書くこともあります。)
誰もが知っている言葉だと思って私たちが、
「頓服としてこの薬出しておきますね」
と言うと、患者さんに「頓服?」と不思議そうな顔をされることもあります。
「頓服」とは、決まったタイミングではなく「症状がある時だけ飲む薬」のことです。
たとえば、ロキソニン(ロキソプロフェン)やカロナール(アセトアミノフェン)などに代表される痛み止めは、痛みがある時に飲む、といった使い方が多いですね。
これが頓服です(「頓服」は内服薬(飲み薬)に使う言葉ですが、「頓用」は内服薬、注射薬、外用薬などどのタイプの薬にも使える)。
頓服の反対語は「定期薬」、つまり症状に関わらず定期的に使用する薬のことです。
「頓服=痛み止め」と誤解している方がいますが、頓服は「飲み方」の種類です。
痛み止めだけでなく、様々な種類の薬を頓服として使います。
たとえば、
緩下剤(便秘薬)を便秘時だけ飲む
不整脈の薬を、不整脈が出た時(動悸がある時)だけ飲む
睡眠薬を、眠れない時だけ飲む
38度を超える発熱時のみ解熱剤を飲む
喘息発作時のみ、吸入する
といった使い方は、全て頓服(頓用)です。
頓服には注意すべきポイントがあります。
たとえば私たちが、
「この鎮痛薬は頓服です。痛みがある時だけ飲んでくださいね。」
と言って痛み止めを20回分渡したとします。
患者さんによって症状が出る頻度は異なるため、飲む回数は全く異なります。
極端に言えば、
「1日に20回症状が出たので20回分全て1日で飲み切ってしまいました」
という方が現れると大変です。
「症状が出た時はどのタイミングで飲んでもいい」とはいえ、副作用の危険性を考えると使用回数に上限を決めておかなくてはなりません。
そこで頓服を処方する時は、
「◯時間おき」
「1日◯回まで」
といった回数制限を設けるのが原則です(睡眠剤の場合は夜間しか飲まないため例外ですが)。
たとえば痛み止めなら、「6時間おき(=1日4回まで)」といった形です。
もし指示された間隔を待てないくらい症状が強い、薬が効かない、という場合は、担当の医師に相談してください。
その場合は、
効果の持続時間が長い薬に変更する
定期的に飲む薬に変更する
などの対応を考えることになります。
頓服は、基本的には「症状を一時的に抑えること」が目的です。
病気の根本的な治療を目的とする場合は、症状のあるなしに関わらず定期的な薬の使用が必要になります。
何より、自覚症状はなくても知らぬ間に体を蝕む病気はいくらでもあります。
そこで、「定期薬」が必要になります。
定期薬の意味
その名の通り、症状に関係なく定期的に使う薬のことです。
「定期処方」とも言います。
世の中の薬の大半はこちらです。
頓服は、「症状が出た時だけ飲む薬」でした。
これが役に立つのはもちろん「症状がある病気」だけです。
ところが、病気の中には自覚症状が全くないものもたくさんあります。
例えば高血圧です。
血圧は、極めて重度の高血圧を除き、全く症状はありません。
同じく、糖尿病も脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)もそうです。
これらは、基準範囲を大きく逸脱するほど異常をきたした場合を除いては、検査をしない限り異常であることは誰にも分かりません。
そして、症状にかかわりなく毎日常に一定の範囲に値を維持しておく必要があります。
そこで、
「1日3回、毎食後」
「1日1回、朝食後」
というように、定期的に決められたタイミングで使用しなければなりません。
他にも、定期的に飲まなくてはならない薬はたくさんあります。
抗菌薬(抗生物質)は、決められたタイミングで定期的に飲まないと、血中濃度を適切な範囲にすることができません。
「1日3回」と言われているのに、「1日1回しか飲んでいません」という方が時々いますが、これでは「全く飲まないのと同じ」どころか、副作用だけを飲んでいるようなものです。
「飲まない方がマシ」と言っても過言ではありません。
また、緩下剤(便秘薬)の中には、1日2回、3回と定期的に飲むことで、便をやわらかくできる薬もあります。
定期的に飲むことで初めて薬の有効性が現れる、という薬がたくさんあるということですね。
医師、あるいは薬剤師の指示に従って、正しい方法で飲むようにしなければなりません。
なお、薬によっては、定期処方でも自己調節が可能なものもあります。
たとえば緩下剤は、効きすぎると下痢をするため、
「便がやわらかくなりすぎたら、自分でストップしても構いません」
という指示を出すこともあります。
こういう例外的なケースのみ、医師の指示に従って自己調節します。
また、同じ薬で、頓服、定期いずれでも使えるものもあります。
たとえば、上述のロキソニンのような鎮痛薬はそうです。
1日3回、定期的に内服することで、1日を通して痛みを抑える、という処方もあります。
もちろん、頓服として処方された場合は頓服として使用し、定期的な内服への変更は必ず医師に相談の上で行ってください。
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食前、食間、食後の飲み方の違い
定期処方の薬には「食前」「食間」「食後」といった、使用するタイミングの指示が必ずあります。
これらはどういう違いがあるのでしょうか?
食前
食前とは、胃の中に食べ物が入っていない時のことです。
一般的には、食事の20〜30分前から1時間前くらいの範囲を指します。
以下のような薬が該当します。
食事によって起こる症状を事前に抑える薬
食事前に胃の動きを良くしておく薬
食事によって血糖値が高くなるのを事前に抑える薬(糖尿病の薬の一部)
食べ物の影響を受ける、食後には吸収が悪くなる薬
食後
食後とは、胃の中に食べ物が入っている時です。
一般に食事の後、20〜30分以内を指します。
これが最も多い飲み方です。
胃に負担をかけやすい薬や、食べ物と一緒に飲んだ方が吸収が良くなる薬などでこの方法を選びます。
もう一つは、飲み忘れを防ぐ目的です。
定期的な内服が必要な薬では、時刻を指定したり「○時間おき」とルールを決めても、それをきっちり暗記しておくのは大変です。
しかし、食事は1日3回定期的にするのが普通なので、便宜上、食後に飲むと決めておくことで飲み忘れを防ぐことができます。
食事の影響を受けない薬はたくさんあるため、こういう薬は飲み忘れ防止のため便宜上食後にする、というパターンが多いです。
定期的に飲んでもらうための一つの策ですね。
食間
食間は、一般的には食事のおよそ2時間後が目安です。
「食事中」ではありません。
あまり多くはありませんが、空腹の時に吸収が良い薬や、食事の影響で薬の吸収が変化してしまう薬でこの方法が選ばれることがあります。
なお、「就寝前」「眠前」という処方の方法もあります。
睡眠剤のように、眠る前以外には飲む必要のない薬もあれば、夜間に薬を効かせることが大切な薬が選ばれます。
食べない時や飲み忘れ時の対応
ここでは食事と関連した飲み方を説明しましたが、食欲がなくて食事が全く摂れなかった時や、絶食中のケースもあります。
何も食べなくてもいつも通り飲まなくてはならない薬もあれば、一部の糖尿病薬のように食事を摂らないと低血糖の恐れがある、といった薬もあります。
また、
食前の薬を飲み忘れたが、食後に飲んでもいいか?
朝食後の薬を飲み忘れたが、昼食後に変えてもいいか?
といった飲み忘れで悩むこともあるでしょう。
このような飲み忘れに関する対応は、薬によって様々です。
残念ながら、一概に解決策を提示できません。
自己判断で対応せず、必ず主治医や薬剤師に相談するようにしてください。
飲み方はきっちり守りましょう
薬の飲み方には全て、合理的な理由があります。
しかし、自己判断で1日やめてみたり、「副作用が心配」といって勝手に量を減らしたりする人が多くいます。
上述した通り、飲み方を守ってきっちり飲まないと、効果がないどころか逆に副作用が目立ったり、不調の原因になるなどして大変危険です。
また、中止する時は徐々に量を減らさなくてはならない薬もあります。
必ず指示された飲み方を守りましょう。
症状の変化があったり、副作用の心配がある、というケースでは、その旨をしっかり主治医に相談しましょう。
自己判断での調整は、決してしないようお気をつけください。
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