健康診断で脂肪肝だと言われたことがある人は多いのではないでしょうか?
近年、脂肪肝は非常に増えており、我が国でも4人に1人は脂肪肝とも言われています。
脂肪肝とは、肝臓に過剰に脂肪がたまる病気です。
放置すると、肝硬変から肝臓癌に発展するケースもあるため、早い段階できっちり治療しなくてはなりません。
どのように治療すれば良いのでしょうか?
今回は、脂肪肝の原因や必要な検査、治療法について、消化器病専門医の視点からわかりやすくまとめます。
脂肪肝の原因は?
脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪が過剰にたまってしまう病気です。
原因によって、2つに大きく分けることができます。
飲酒が原因となるアルコール性の脂肪肝と、飲酒が原因でない非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)です。
アルコール性脂肪肝は、エタノール換算で、男性30g/日以上、女性20g/日以上の飲酒量で起こる病気です。
エタノールの量は、日本酒1合が約28g、350 mlの缶ビール1本で約18g、ウイスキーはシングル1杯で14g程度です。
エタノールが分解される時に中性脂肪が合成されやすいことが原因です。
一方、これ以下の飲酒量で起こった脂肪肝はアルコールが原因でないNAFLDです。
近年増えているのはこのNAFLDの方です。
男性では40代に多く、40%以上がNAFLDにかかっています。
女性は、40代は10%と少ないものの60代で30%以上に増加します。
閉経による女性ホルモンの減少が脂肪肝を悪化させると言われています。
では、アルコールが原因でないとすれば、何がNAFLDを引き起こすのでしょうか?
NAFLDの発症に関わる因子、それは、肥満や高血圧、脂質異常症、2型糖尿病です。
どこかで聞いたことがあるリストですね。
そうです、NAFLDはメタボリックシンドロームそのものが肝臓に現れたものです。
メタボの人が、知らぬ間に肝臓の病気も進行させているということです。
特に、NAFLDは食事習慣と密接に関わっていると考えられています。
NAFLD患者はコレステロールの摂取が多く、野菜や果物に含まれる食物繊維やビタミンB、Cの摂取が少ない、という偏った食事習慣の人が多い特徴があります。
むろん、お酒を多く飲む人は、同時に食べる量も多く肥満体であることが多いでしょう。
飲酒量が多い人でもメタボリックシンドロームがある人は、それが脂肪肝を進行させている可能性があります。
脂肪肝の症状とは?
脂肪肝自体に症状はありません。
肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、大きな病気があっても痛みなどはなく無症状というのが特徴です。
病気が進行し、肝硬変となっていよいよ肝臓の機能が著しく落ちてきた時に症状が出始めます。
肝硬変がひどくなると、お腹に水がたまり(腹水)、全身倦怠感(疲れやすい)や食欲不振、黄疸、皮膚のかゆみなどの症状が出てきます。
脂肪肝の段階であればこういった症状は一切ないため、症状で病気を見つけることはできません。
放置するとどうなるの?
放置すると肝硬変に進行し、最終的には肝臓がん(肝細胞がん)にまで至る可能性があります。
特に「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と呼ばれる状態の方は、そのリスクが高いとされています。
一方、軽症の「単純性脂肪肝(NAFL)」は改善しやすいとされていますが、放置すると結局NASHに進行することがあります。
とにかく初期の段階できっちり治療することが大切です。
生活習慣病ががんまで引き起こす、ということをしっかり知っておく必要があります。
何科に行くべきか?
脂肪肝を専門とするのは消化器内科です。
消化器内科を専門科とするクリニックや、消化器内科がある病院を受診しましょう。
消化器内科では、次のような検査を行うことになります。
必要な検査は?
血液検査
肝臓の機能がわかる、血液検査の代表的な項目が「ALT」と「AST」です。
(以前はALTをGPTと、ASTをGOTと呼んでいましたが、今はALT、ASTが正しい呼び名です)
いずれも基準値は30以下です。
NAFLDではALTの上昇が、アルコール性脂肪肝ではASTの上昇が特徴とされています。
他にも肝機能や胆道系の機能を表す数字としてACh(アセチルコリンエステラーゼ)、アルブミン、ALP、γ-GTPなどに異常が出ることもあります。
(γ-GTPは特にお酒飲みの人で上昇します)
しかしこれらの数字の異常だけで脂肪肝を診断することはできません。
他にもこれらの数値が異常となる病気はたくさんあるからです。
逆に血液検査が異常なし(正常範囲)でも脂肪肝が進行している人はいます。
では、正確に脂肪肝を診断するにはどうすれば良いのでしょうか?
それが次に挙げる画像検査です。
腹部エコー
お腹に超音波を当てて腹腔内を簡単に見ることができるのが腹部エコー検査です。
脂肪肝は、エコーで見れば一目でわかります。
脂肪肝の肝臓は、正常の肝臓より白く明るく映るのが特徴です。
腹部CT
CTでも脂肪肝を診断することができます。
CTでは逆に正常の肝臓より暗く映るのが特徴です。
脂肪肝は腹部エコーで簡単にわかるため、その診断だけを目的にCTを撮影することはありません。
たとえば重度の脂肪肝、あるいは肝硬変に至っている場合で、肝臓がん(肝細胞癌)の合併がないかを確認する目的でCTを撮影することはあります。
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どんな治療で脂肪肝は治る?
脂肪肝はきっちり治療すれば治る病気です。
重要なのは、メタボリックシンドロームの治療です。
特に生活習慣、食事習慣の改善が最も大切です。
一方、脂肪肝に対して特別な薬を投与する、ということはありません(特効薬と言える治療薬はありません)。
サプリメントや漢方薬、市販薬などで治る病気では決してありません。
ネット上の広告に騙されてはいけません。
具体的には以下のような治療を行います。
食事
まず、食習慣の改善による肥満の解消が大切です。
体重を下げることで脂肪肝は改善します。
脂肪や糖質が少ないレシピを心がけ、食べる量(摂取カロリー)を減らします。
体重を7%減らせば脂肪肝が改善するというデータもあるため、これを一つの目標にするのが良いでしょう。
重度の肥満の方は、病院で管理栄養士指導のもと食事メニューの指導を行うこともあります。
運動
適度な運動を行うことで脂肪肝は改善します。
しかし肥満の方が無理にジョギングなどをすると膝や足首の関節を痛めるリスクがあります。
ゆっくりウォーキングをしたり、プールで歩いたりするのが良いでしょう。
なかなか運動できない、ダイエット方法がわからない、という方は以下の記事を参照ください。
原因疾患の治療
原因となっている高血圧、高コレステロール、糖尿病を治療することも必要です。
これらの病気に対しては、食事療法、運動療法に加えて、薬剤を適宜投与することで治療します。
原因疾患が改善すれば、脂肪肝も改善します。
これらの病気は脂肪肝だけでなく、いずれも動脈硬化を引き起こし、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞など様々な疾患のリスクになります。
いずれも死の危険がある病気ですので、早期の治療が不可欠です。
どのくらいの確率でがんになる?
肝硬変に至れば、発がん率は年2%です。
1年で100人に2人と考えると、かなり高い発がん率と言えるでしょう。
また、肝硬変になってしまうと、どんな薬を使っても元の肝臓に戻すことはできません。
脂肪肝という早期の段階できっちり治療することが大切です。
アルコールが原因の方は減酒、禁酒を、メタボの方はその改善に努めることで、取り返しのつかない肝臓の病気に発展させないよう、厳重に注意しましょう。
(参考文献)
NAFLD/NASH診療ガイドライン2014/日本消化器病学会編
専門医のための消化器病学 第2版/医学書院