病院で受ける検査の中で、みなさんが最もわかりにくいのが画像検査の違いではないでしょうか?
たとえば、私の外来に胃癌の患者さんがやってきます。
手術までに精密検査をすることになり、腹部エコーとCTを受けてもらうようお願いすると、こう言われます。
「精密検査ならMRIもお願いします」
実は、胃の状態を調べるのにMRIは意味がありません。
こういう例もあります。
「頭が痛いです、クモ膜下出血かもしれません。MRIを撮ってください」
脳出血やクモ膜下出血を知りたい場合に行う検査はCTです。
これらは、「MRIがCTより精密だ」という誤解からくるものです。
本当は、精密度は「CT≒MRI」で、それぞれに得意な臓器、病気が違うだけです。
では、レントゲン(単純X線)はどうでしょうか?
エコー(超音波)はどういう時に使っているのでしょうか?
造影検査はどうでしょう?
画像検査の使い分けは、詳しく説明すると分厚い本が1冊できてしまうほど難しいものです。
しかし自分が受ける検査について、最低限の知識は持っておきたいという方は多いでしょう。
そこで今回は、非常に簡単に、画像検査の違いをエッセンスだけ分かりやすくお話しします。
難しい話はありませんのでご安心ください。
エコーの長所と短所
まず、画像検査は大きく静止画と動画に分けることができます。
動画:エコー
静止画:レントゲン・CT・MRI
つまり、エコーの最大の特徴は動画であることです。
エコーの長所
動画であることは、エコーの最大の長所です。
みなさんはスマホで撮った映像を他人に見せたいと思った時、動画と静止画をどのように使い分けますか?
写真を選ぶのは、その一瞬の表情や景色で情報が十分に伝わる場合ですね。
一方動画は、動いているものの、その「動き」に情報が含まれる場合です。
たとえば、ダンスの上手さを静止画で比較することはできませんよね。
つまりエコーは、「臓器の動きやはたらき」を見たいときに使う検査です。
腸管が正常にぜん動運動をしているか?
心臓の拍動が正常か?心筋の動きに異常はないか?
妊婦のお腹の中の胎児が正常に動いているか?
などが良い例です。
これらは、いくら精密でも静止画であるCTやMRIでは分からない情報です。
また、胆石や肝臓の腫瘍など、病変の性質によってはCTやMRIでは得られにくい情報が得られるものもあります。
加えてエコーは放射線を使う検査ではないため、レントゲンやCTと違って被爆がありません(MRIも被曝はありません)。
胎児を観察できるのは、そういう理由もあります。
そのほか、器械をベッドサイドに持ち運べるため、患者さんの移動が不要です。
動けない患者さんでも、素早く体の中を観察することができます。
またエコーで見ながら血管に針を刺す、お腹に溜まった水(腹水)を抜く、などベッドサイドの処置が行えます。
もちろんこれは、針の動きをリアルタイムで見ることができるという「動画」のメリットでもあります。
ポータブルサイズのものは屋外に持ち出して、救急車内で使用することもできます。
エコーの短所
一方、エコーには大きな欠点が二つあります。
まず、骨を超音波が通過しないため、骨に囲まれた臓器、つまり頭の中を見ることができません。
骨自体を見ることもできないので、骨の病気や骨折などの外傷は診断できません(レントゲン、CT、MRIは全て可能)。
また、検査を行った医療者本人しか正確な情報を得ることができません。
録画をしたとしても、一瞬一瞬がどんな角度でどんな方向から見た映像なのか、撮影した人にしか正確にはわからないため、客観性がありません。
「客観性がない」とは、映像を他の人が別の時に見ても全く同じ解釈ができない、ということです。
つまりエコーを行った医師、あるいは超音波技師が書いたレポートを、他の医療者はそのまま信じるしかありません。
ダンスを動画で撮るなら正面から一方向で十分かもしれませんが、病気を診断するには、360度、あらゆる方向、角度から時間をかけて観察する必要があります。
この客観性に、動画の検査の限界があります。
レントゲン、CT、MRIの違い
レントゲンとCTは、X線を使った検査です。
CTはX線を様々な角度で当てて連続的に撮影し、コンピュータで立体的に構築したものです。
つまり、精密度は「レントゲン<CT」で間違いありません。
これはみなさんも想像の通りでしょう。
ここで、
「じゃあレントゲンなんていらないのでは?」
と思った方がいるのではないでしょうか?
実はそうではありません。
レントゲンとCTの違いを説明しましょう。
レントゲンとCTの長所と短所
レントゲンの特徴として、
・放射線の被爆がわずか
・一瞬(1〜2秒)で撮影できる
・立っていても座っていても寝ていても撮影できる
という、圧倒的な利便性があります。
しかも、ポータブルX線の機械もあるため(ポータブルといってもエレベータにぎりぎり乗るくらい大きいですが)動けない重症の方でも撮影できます。
ですから、病状によっては入院中に毎日撮影することも多くあります。
CTでの被爆も身体に大きな影響を与えるものではありませんが、その被爆量はレントゲンの約150倍とも言われます(部位によって被曝量は様々で単純な比較はできませんが)。
したがって、CTは本当に必要なときしか撮影しない、というのが原則です。
レントゲンのように毎日撮影というわけにはいきません。
しかもCTは、CT室に入ってベッドに寝て位置を調整→撮影と、レントゲンより時間がかかります。
造影剤を使ったCTの場合は、造影剤を注入する時間もあります。
それでも5〜10分程度ではありますが、病気の重症度によっては誰もが簡単に撮影できるものではありません。
さらに、CTは真上に寝た姿勢をとらなければ撮影できません。
寝た状態で一定時間じっとできる方でなければ、検査を受けることができないということです。
小さい子供や、背中の曲がった高齢者の方などは撮影が大変です。
一方、CTの最大の長所は圧倒的な精密性にあります。
CTはかつて「断層写真」と呼ばれていました。
つまり、頭からつま先まで体を輪切りにした断面図を見ることができるということです。
最近では1mmほどのスライスまで細かく断面を見ることができるため、非常に精密な情報を得ることが可能です。
CTの画像の精密さや診断力は、一方向からの写真であるレントゲンとは比べ物になりません。
ここまで読めば、静止画は「簡便なレントゲン」と「手間はかかるが精密なCT」だけで十分な気がしてきますね。
MRIの位置付けはどうなのでしょうか?
MRIとCTの使い分け
MRIとCTは、輪切りにした断面図を見ることができるという点では同じです。
ではどのように使い分けるのでしょうか?
MRIの長所
MRIの長所は、臓器にCTとは違ったコントラストをつけることができることです。
CTでの臓器のコントラストは、どのくらい放射線を吸収するかによるものです。
よく吸収する部分は暗く、吸収しない(反射する)部分は明るく写ります。
一方MRIでは、水分量や脂肪の量の違いによって、CTとは異なるコントラストをつけることができます。
このおかげで、MRIが得意な病気、臓器というものがいくつか出てきます。
急性期の脳梗塞や、肝臓、直腸、子宮、卵巣、筋肉や靭帯・腱、脊髄の病気などです。
一方、MRIは苦手、使ってもあまり意味がない、という臓器や病気も多くあります。
私の専門分野で言えば、食道癌や胃癌、大腸(結腸)癌、虫垂炎(盲腸)、胆嚢炎、膵炎・・・と、CTの方が得意な病気もたくさんあります。
ちなみに、冒頭の頭部の例だと、脳出血はCTが得意ですが、脳梗塞はMRIが得意です。
ただ、CTが得意な病気でもMRIを併用すれば、情報を補強することができます。
つまり、正確な診断のためにCTとMRIを両方行う病気もいくつかあるということです。
もう一つの長所として、前述した通りMRIは放射線を使用した検査ではありません。
したがって被爆がない点はCTより優れていると言えるでしょう。
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MRIの短所
一方MRIには大きな欠点があります。
撮影におよそ20〜50分以上という長時間を要することです(部位によります)。
狭い空間にこれだけ長時間入っていられるのは、全身状態が安定している人だけです。
また、閉所恐怖症の人はMRI検査を受けることができません。
磁場を使うため、ペースメーカーなど体に金属が入っている人も受けられません。
さらに重要なポイントとして、体の限られた部分しか撮影することができません。
MRIは通常、「肝臓MRI」「骨盤MRI」「頭部MRI」というように、非常に狭い範囲を撮影する検査です。
肝臓や骨盤、頭くらいの幅ですから、せいぜい20センチくらいでしょうか。
一方CTでは、「胸腹部CT」のように、胸から骨盤まで一度に撮れるうえ、さらにそのまま「頭頸部CT」や「下肢CT」を追加することもできます。
つまり、一度に全身のCTを撮影することも可能です。
逆に「肝臓CT」のような、狭い範囲の撮影は普通ありません。
以上からMRIの位置付けは、
MRIが得意とする限られた病気、臓器に対して、撮影範囲を絞ってピンポイントで精密検査をする
というのが正解です。
造影剤を使う検査は?
ここまでで、まだ説明していない検査がありますね。
造影検査です。
たとえば、バリウムを飲んで胃を見る消化管造影や、カテーテルを使って心臓の冠動脈を見る血管造影はどういう目的で行うのでしょうか?
これらに共通する特徴は、
「管や袋を造影剤(液体)で満たして病気を発見すること」
です。
食道や胃、大腸は、食べ物の通り道の管であり、ためておく袋です。
動脈は、血液の通り道である管です。
同じように、尿管や膀胱という、尿の通り道や袋もあります。
ここに造影剤を満たしてX線を当てることで、病気が影絵のように浮かび上がります。
CTやMRIではわかりにくい病気が、造影剤で管の内腔を満たすことで見えやすくなる場合もあるわけです。
造影検査は、レントゲンのようにパシャっと静止画で撮ることもできますが、X線を当て続ければ動画としても撮影できます。
そのため、消化管造影で造影剤の動きを見ることで、消化管の機能を知ることもできます。
この造影検査と全く別物として考えていただきたいのが、
造影CT
造影MRI
です。
名前は似ていますが、似て非なるものです。
これらは、専用の造影剤を点滴で注入してからCTやMRIを撮影するものです。
これはあくまでCT、MRIですので、造影検査ではありません。
造影剤を点滴したあとCTやMRIを撮ると、臓器や病変のコントラストがより強調されます。
特に腹部の臓器は、単純CT(造影剤を使用しないCT)より造影CTの方が、はるかに診断力が上がります。
造影剤には様々な種類があり、「何にコントラストをつけたいか」によって使う造影剤は異なります。
ただし造影剤は、アレルギーがある方や、腎臓の機能が弱い方など、副作用により使用できない方も一部にいます。
以上が画像検査の使い分けです。
だいたいイメージはつかめましたか?
他にも特殊な画像検査はいくつかありますが、専門家でない人がこれ以上知っておく必要はありません。
その都度、担当の医師に相談し、疑問点を解消しましょう。