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医療デマを信じてしまう人が陥りがちなこと、知っておくべき7つの言葉

医療デマにだまされ、適切な治療機会を奪われる人は後を絶ちません。

「がんが消える」などと効果を宣伝し、健康食品やサプリで数十億円を売り上げた会社が摘発される事例も相次いでいます (12)。

私たちはこうした方々を少しでも減らすため、日々情報発信をしています。

 

こうした活動に注目してくれたNHKが、最近「フェイクバスターズ 」という番組を二度に渡って作り、私も番組内で話す機会を得ました。

こちらのサイトをご参照ください。

 

さて、この記事では、医療デマから身を守るために知っておいた方がよい7つの言葉を紹介します。

言葉を覚えることが大切なのではなく、「よく陥りがちなポイントを知っておく方がいい」という意図です。

(心理学の用語については一部専門外の内容を含むため、もし専門的見地から見て間違いがあればご指摘ください)

 

チェリーピッキング

自分の意見を誰かに信じてもらうため、その意見を裏付けるような証拠だけを集め、

「これだけ証拠があるから真実だ」

という論調で相手を説得する人がいます。

これがチェリーピッキングです。

 

実際には、その意見に反する証拠も同じくらいあり、それらを比較検討しなければ真実にたどり着けない、ということはよくあります

 

例えば、デマを信じ込ませたい人が論文をたくさん紹介し、

「AにもBにもCにもこう書いてある」

と主張する姿を見ることがあります。

しかし、実は紹介されなかった多数の論文に、全く反対の意見が書かれてあるかもしれません。

 

バーナム効果

占いなどで、

「あなたは、同僚との人間関係に悩んだ経験があるのではないでしょうか?」

「あなたは、初めての人と話す時に妙に緊張してしまうことがあるのではないでしょうか?」

などと言われ、「確かに私のことだ」と思ってしまうことがあるでしょう。

 

誰にでも当てはまるような、あいまいな性格の表現を見て、自分だけに当てはまるように感じる現象を「バーナム効果」といいます。

特に病気で不安が大きい時は、

「この病気を乗り越えられないのではないか、と急に不安に思い、ふさぎこんでしまうことがあるのではないでしょうか?」

などと言われて「当たっている!」と一気に引きつけられる人がいます。

 

ウィンザー効果

売り手から直接「この商品はオススメですよ!」と告げられるより、第三者から間接的に勧められる方が信憑性があるように感じる現象のことです。

 

例えば、ある商品を店員から直接勧められても魅力を感じなかったのに、後日友人から、

「あの商品とてもいいよ!」

と言われたら、急に気持ちが変わることがあるでしょう。

あるいは、あまり関心のなかった商品でも、口コミやSNSなどで高評価のレビューを見たら途端に欲しくなることもあります

 

病気に効果がありそうな商品をインターネットなどで探し、医学的根拠のない商品に高額なお金を払ってしまう人がたくさんいます

こうした商品は、第三者のポジティブな感想を全面的に提示することでウィンザー効果を狙っているケースがあります。

 

シャルパンティエ効果

イメージしやすい身近なものを引き合いに出されると、価値が引き立って見える心理的効果のことです。

「レモン100個分のビタミンC」「東京ドーム10個分の広さ」などの表現はそれを狙った手法とされています。

 

レモン1個のビタミンCの量や、1日に必要なビタミンCの量を正確に知っている人はあまりいないはずです。

イメージしやすい表現を見て「何となくすごそう」という印象で評価しているのです。

本来、こうした印象だけでは薬やサプリ、食品等の価値は評価できません。

 

他にも、最初から「半額セール!」とするより、一旦「30%オフ」としておいて「レジにてさらに20%オフ」とする方が魅力的に見える、という手法もあります。

(後者は44%オフなので実際は前者の方が安い)

 

エコーチェンバー現象

SNSなど、閉じたグループ内で繰り返し同じ意見を交わし続けることで「自分たちこそ多数派だ」と思い込んでしまう現象のことです。

エコーチェンバー(残響室)の中で音が残響を生じることにたとえてこう呼ばれています。

 

FacebookやInstagramなど、似た意見のもの同士が集まる空間では、特定の信念が強化される恐れがあります

例えばグループ内で、

「抗がん剤は毒だ」

「がんを手術してはいけない」

「〇〇の薬は製薬会社と医者の陰謀だ」

など、特定の考えが繰り返し肯定されると、それがたとえ誤っていても「正しい」と思い込んでしまうのです。

 

仮に相反する意見が入ってきても、グループ内で暴力的に排除されるため、むしろ肯定感は高まります。

SNSでは特に注意すべき現象でしょう。

 

ちなみに、「真理の錯誤効果」という言葉もあります。

繰り返し同じ内容を聞かされるうちに、たとえ嘘でも「真実かもしれない」と信じてしまうことです。

私たちは本質的に、「何度も聞いたことがある話」には一種の親しみや信頼性を感じるのでしょう。

 

バックファイア効果

何かを強く信じ込んでいる人に誤りを指摘すると、かえって反発され、相手がより深く信じ込んでしまう、という現象です。

自分の信じていたものを否定されると、むしろそれを信じられる理由を探そうとしてしまうのです。

 

もちろん、この現象が誰にでも当てはまるとは思いません。

しかし、家族や友人がデマを信じ込んでしまった時、真っ向から否定することが必ずしもうまくいくとは限りません

このことは、必ず心に留めておいた方がいいと私は思っています。

 

コンコルド効果

サンクコストバイアスとも呼ばれます。

多くのお金をかけたり、多くの時間をかけたりした行為は、結果的に損失の方が大きいと途中で判断できてもなかなか中止できません

 

多大なエネルギーを費やした物事を途中でやめるのは、誰しも難しいものです。

たとえ損失が増えるだけだと分かっていても、です。

 

効果のない商品に傾倒してしまい、多大なお金を費やしてしまった人ほど、それを完全にやめるのは難しいものです

これまでに費やしたコスト(サンクコスト)が全て無になる行為だと感じるからです。

デマを信じてしまった人と接する時の一つの注意点と考えることもできるでしょう。

 

冒頭で書いたように、これらの言葉そのものが大切だとは思いません。

しかし、人が陥りがちなバイアスを平時から頭に入れておく上で、こうした情報の整理は大切なのです。

 

最後に、スキルス胃がんに侵された夫を救うため、ありとあらゆる代替療法に多額のお金を注ぎ込んだ轟さんの記事を紹介しておきます。

「選べるなら、今、死にたい」