医師賠償責任保険(医賠責)は、多くの保険会社(代理店)が取り扱っています。
どれを選べばいいのかわからない、という方は多いのではないでしょうか?
日常診療の忙しい中、各社の保険料やプランを比較する時間を十分に取るのも難しいでしょう。
私は現在民間医局の保険に入り、毎年保険料を払い続けていますが、加入前には各社から資料を取り寄せ、1週間以上かけて徹底的にリサーチしました。
おかげで医師賠償責任保険に関してはかなり詳しくなっています。
この記事では、理想的な保険を選びたい先生方の負担を減らすべく、私が得た情報をわかりやすく解説します。
読んで頂ければ、迷いなく安心してベストな保険プランを選べると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
【2021年4月最終更新】
目次
年齢別オススメの保険
まず最初に、上図が私が提案できるおすすめの選び方です。
オススメできる保険は、
・初期研修医
・30歳以下の初期研修医以外の医師
・31歳以上の初期研修医以外の医師
の3群で異なります。
結論から簡潔に言ってしまえば「初期研修医以外は民間医局の保険を選べばOK」です。
理由はシンプルで、一般的な勤務医(常勤・非常勤ともに)は2億円までの保障がおすすめですが、「2億円プランなら民間医局が圧倒的に業界最安だから」です。
各種保険について詳しく見ていきます。
医師賠償責任保険の種類と選び方
まず、個人で加入すると高くつくため、団体割引の効く保険に絞ります。
時々イベント等で個人契約できる医師賠償責任保険を勧められることがありますが、一般的に保険料は割高です。
よって特別な理由がない限り団体割引対象のものを選ぶのがよいと思います。
団体割引のある保険として代表的なのは以下の3種類です。
・民間医局の保険
・日本医師会の保険
・各種学会の保険(日本外科学会、循環器内科学会など限られた学会員のみ加入可)
いずれも20%の団体割引があるため、保険料を安く抑えられます。
まずは、各種の保険のメリット・デメリットを順に比較します。
次に、各年齢層別にどれをおすすめするかを、その理由とともに徹底解説します。
民間医局
私が加入しているのが、この民間医局の保険です。
周囲の医師を見ても、加入している人が多く評判も非常に良い保険です。
民間医局は、メディカルプリンシプル社が運営する、11万人以上の会員を擁する医師向け総合サービスです(入会費・年会費は無料)。
レジナビ、医学書が最大12%オフで買える民間医局書店、アルバイトの仲介などのサービスがあります。
医師賠償責任保険は、これらの福利厚生サービスの中の一つです。
民間医局書店については以下の記事も参照

民間医局の医師賠償責任保険の特徴を順に挙げていきます。
4種類のプランから選べる
プランは、1事故につき5000万円のABプランから3億円のEプランまで4種類もあります。
(※2018年12月から、プランが幅広く変化しました)
民間医局の保険は年齢による区別がありませんので、研修医から年配医師まで全て同じ保険料です。
4種類から選べる保険は他にあまりなく、民間医局の保険の最大のメリットと言えます。
私たち医師は、キャリアの中で訴訟のリスクが高い時期とそうでない時期があるため、多様なプランから選べる保険が望ましいと思います。
たとえば、
「リスクの低い仕事しかしない年は保険料の安いプランに変更する」
ということは、人生の中で必ずあるでしょう。
キャリアやライフスタイルに応じて段階的に変更できる方が利便性は高いといえます(変更は簡単です)。
なお、過去には1億円以上の賠償事例が複数あるため、一般的な勤務医の先生であれば2億円プランが最も望ましいと考えます。
民間医局でも、2億円プランの加入者割合が最も多いようです。
入会や更新に手間がかからない
5分以内に加入手続きが終わります。
すべてホームページから手続きが可能です。
その後、自宅に加入者証が封書で届くのを待つだけです。
他社の保険は、資料請求から、書類の記入、郵送など手間がかかるものもあります。
日常臨床の中で、こういうことに時間を使っている暇はありませんので、ウェブで完結する民間医局のメリットは大きいと感じます。
保険料が安い
加入者が多いため、保険料が安く抑えられています。
最も安いプラン(1事故につき5000万円まで補償)で、ひと月当たりの支払いが約2700円です。
これは業界最安価格です。
(※従来は同額の保険料で3000万円プランでしたが、2018年12月に5000万円にアップしました)
また、勤務医の先生に最もおすすめできる1事故2億円まで補償されるDプランでも、ひと月当たりの支払い額は約3900円と、こちらも業界最安です。
(分かりやすい比較は後述)
更新に手間がかからない
毎年更新のタイミングでメールが送られてきますので、そのメールのリンクからウェブサイトで更新します。
更新も簡単で、1分程度で手続きが終わり、あとは勝手に保険料が登録口座から引き落とされるだけです(メールには5分と書いていますが、そんなにかかりません)。
更新通知が封書で送られてくるより遥かに便利なのは言うまでもないでしょう。
なお、キャリアによっては「今年は更新しなくていい」という年が必ずあります(妊娠・出産、留学など)。
その場合も、送られてきたメールから更新を中止する連絡が簡単にできますので、非常に便利です。
ちなみに、民間医局自体への入会は無料で、年会費もかかりません。
まずは民間医局に入会し、医師賠償責任保険の詳細を見てからお考えいただくのがオススメです。
入会は民間医局のホームページから簡単にできます。
民間医局を実際に使用した感想は以下の記事をご参照ください。

日本医師会
医師会の医師賠償責任保険に加入するには、まず日本医師会への入会が必要です。
(現在、勤務医で医師会に加入している人は約49%)。
というより、医師会の会費に保険料が含まれる、というコンセプトです(もちろん保険に入らずに医師会だけに入ることも可能ですが)。
特徴を解説します。
プランは1種類のみ
プランは、1事故1億円の1種類のみです。
もっと少額で良いという人や、2億円プラン以上に備えたい、という人にはやや不便なのがデメリットです。
年齢・キャリアによって保険料が異なる
年齢別に保険料が大幅に異なるというのが、この保険の最大のポイントです。
「保険料込み」の年会費が、以下のようになっています。
研修医:15000円
研修医を除く30歳以下の勤務医:39000円
研修医を除く30歳超の勤務医:68000円
実に3倍以上の幅を持って価格が異なります。
詳しく後述しますが、研修医の保険料が圧倒的に安いため、研修医の先生は医師会がオススメです。
ただし、30歳を超えてくるとかなり高くなりますので、候補から外れます(あとで分かりやすくまとめます)。
免責金額は100万円
30歳以下に関しては一見保険料が安く見えますが、注意が必要です。
医師会の保険には免責金額100万円が設定されています。
つまり、
「賠償請求額が100万円を超える分を保険で補償する」=「100万円までは自腹」
ということです。
(民間医局の保険は免責金額がゼロです)
私自身は不安をゼロにすることが掛け捨て保険の最大の目的だと思っているため、「免責金額は必ずゼロにしたい」という感覚ですが、これは個人の考え方や貯蓄の量次第かと思います。
ただ、後述する各種学会の保険には、この「100万円部分」を補償する「医師会の会員向け」プランがあります。
このプランの保険料が年間約4000円程度ですので、上述の保険料にプラス4000円で免責ゼロにできます。
研修医の先生は、この4000円を含めても最安なので、やはり日本医師会がオススメとなります。
研修医以外の先生は全て、この4000円を追加して免責ゼロにすると民間医局の保険料を超えます。
よってこの「医師会の会員向け」プランは研修医の先生だけが使える手で、研修医以外の先生には民間医局をオススメします。
>>民間医局のホームページへ
(※民間医局自体への入会費・年会費は無料です)
各種学会
こちらはカイトーという代理店が取り扱っており、以下の学会員のみが加入できます。
日本脳神経外科学会
日本消化器内視鏡学会
日本整形外科学会
日本眼科医会
日本外科学会
日本胸部外科学会
日本循環器学会
日本消化器病学会
日本神経学会
日本産科婦人科学会
日本糖尿病学会
これらの学会員以外は加入できません(時期によって変わる可能性はあり)。
保険料は学会によって異なる可能性がありますが、参考として日本外科学会の例では以下の3種類です。
1億円プラン(保険料:40660円/年)
2億円プラン(保険料:51570円/年)
3億円プラン(保険料:62400円/年)
いずれも免責金額はゼロです。
年齢による保険料の区別もありません。
2億円プラン、3億円プランは民間医局よりかなり割高です。
各社比較まとめ
これまで書いた比較内容を、年齢別にまとめると以下のようになります。
ご自身の該当年齢及びキャリアの箇所をご覧ください。
初期研修医の方
年間保険料を比較すると、以下のようになります(単位:円)。
プラン | 5千万円 | 1億円 | 2億円 | 3億円 |
民間医局 | 35580 | 41660 | 47710 | 53360 |
日本医師会 | 15000 (免責ゼロで19000) |
|||
各種学会 (例:外科学会) |
40660 | 51570 | 62400 |
※最上段は、1事故あたりの補償額。年間あたりの補償額は、いずれの保険もこの3倍になります(年間3事故まで補償するという意味です)。
初期研修医の先生は、研修医の間は日本医師会を選び、その後は、希望プランに応じて民間医局か学会の保険を選ぶのが最安になります。
※ただし、民間医局の福利厚生サービスは、医学書が割引価格で買えるなどかなりお得なものが多いため、民間医局自体へは初期研修医の段階で入会しておくことをオススメします。

30歳以下の研修医以外の医師の方
年間保険料を比較すると、以下のようになります(単位:円)。
プラン | 5千万円 | 1億円 | 2億円 | 3億円 |
民間医局 | 35580 | 41660 | 47710 | 53360 |
日本医師会 | 39000 (免責ゼロで43000) |
|||
各種学会 (例:外科学会) |
40660 | 51570 | 62400 |
※最上段は、1事故あたりの補償額。年間あたりの補償額は、いずれの保険もこの3倍になります(年間3事故まで補償するという意味です)。
1億円プランでいい、という方のみ学会の保険が最も安くなる可能性があります。
しかし前述の通り、過去の事例を考慮すると望ましいのは2億円プランです。
1億円以外のプランでは民間医局が最安ですので、5000万円、2億円、3億円のプランを希望される方(あるいは今後これらのプラン間で変更を検討する可能性がある方)は民間医局を選んでください。
また、上記の学会員でない場合も、全てのプランで民間医局が最安です。
30歳を超える研修医以外の医師の方
年間保険料を比較すると、以下のようになります(単位:円)。
プラン | 5千万円 | 1億円 | 2億円 | 3億円 |
民間医局 | 35580 | 41660 | 47710 | 53360 |
日本医師会 | 68000 (免責ゼロで72000) |
|||
各種学会 (例:外科学会) |
40660 | 51570 | 62400 |
※最上段は、1事故あたりの補償額。年間あたりの補償額は、いずれの保険もこの3倍になります(年間3事故まで補償するという意味です)。
1億円プランでいい、という場合は、学会の保険が最も安くなる可能性があります。
しかし前述の通り、過去の事例を考慮すると望ましいのは2億円プランです。
1億円以外のプランでは民間医局が最安ですので、5000万円、2億円、3億円のプランを希望される方(あるいは今後これらのプラン間で変更を検討する可能性がある方)は民間医局を選んでください。
また、上記の学会員でない場合は、全てのプランで民間医局が最安です。
ちなみに、免責100万円の支払いを許容する、という人であっても医師会の保険は選択肢に入らないほど高いことに注意が必要です。
(もちろん保険以外の目的で医師会への加入を希望している場合は別です)
民間医局自体への入会は無料ですので、まずは民間医局に加入し、医師賠償責任保険の詳細を見ていただくのがオススメです。
入会は民間医局のホームページから簡単にできます。
さて、ここまで読んで、
「年齢別のオススメはわかったけど、どの保険金のプランにすればいいのか分からない!」
という方がいるかと思います。
3億円も必要なのか?
5000万円じゃ少ないのか?
これについては、これまでの訴訟事例の情報と、私の考えを述べます。
保険金はいくらのプランを選ぶべきか?
医師賠償責任保険に加入する上で、どの程度の支払いリスクに備えれば良いのでしょうか?
その答えは少し複雑です。
以下のようなポイントに注意する必要があります。
医療機関も保険に入っている
各医療機関は、訴訟に備えて「病院賠償責任保険」に入っています。
「じゃあ常勤医なら医療訴訟を起こされても病院が守ってくれるじゃないか!」
と思う人がいるかもしれません。
実は、実際に訴訟を起こされるケースでは、病院と勤務医を共同被告として訴えられるケースが半数以上あるとされています。
また病院が訴訟の対象となったケースでも、それほど大きな保険に入っていない中小規模の病院では、高額な賠償が支払えない可能性があります。
その場合、医師が差額を払うことになります。
よって保険に入る以上は、賠償金全額の支払いリスクに備える必要がある、と考えるべきです。
もちろんアルバイトなど非常勤医師の場合なら、全ては自分の責任です。
和解による金銭支払いが多い
医療訴訟では、原告側(患者側)の勝訴率は、近年では20%程度とされています。
通常の民事訴訟での勝訴率が8割以上であることを考えると、小さい数字です。
しかし、判決に至ることなく、医療従事者側に金銭的支払いが求められる「和解」が50%程度を占めます。
結果的には、医療従事者側が勝訴する割合は30%にも満たない、というのが現状です。
さて、では実際にはどのくらいの金額に備えておけば良いでしょうか?
医療訴訟での賠償金はどのくらいか?
そもそも保険では、起こりうる最大リスクを全てカバーできなくては意味がありません。
アベレージをターゲットにするのではなく、起こりうるマックスをターゲットにする必要があります。
これが「保険」のコンセプトそのものであり、だからこそ「掛け捨て」でもお金を払う意義があるわけです。
医療訴訟では、後遺障害慰謝料や、将来の長期にわたる付添い看護費、入院慰謝料、休業損害など、様々な種類の賠償金が積算します。
その上、医療訴訟の平均審理期間は平均2年と非常に長く、弁護士費用も高騰します。
また、患者さんが亡くなったケースでは死亡慰謝料が発生します。
死亡慰謝料は、少なくとも2000万円(患者が一家の収入の中心なら約2800万円)が相場です。
過去の事例を挙げると、たとえば平成15年の大阪府でのクモ膜下出血見逃し事例では、損害賠償額は合計1億6000万円でした。
病院の支払い能力によっては、勤務医に1億を超える支払いが生じる可能性があります。
また、医療訴訟の件数は2004年に1110件を記録した後は減少していますが、それでも2016年には870件、2017年には857件と依然として大きな数字で推移しています(こちらより引用)。
近年ネットで医療情報を自身で検索する人が増え、メディアでも広く取り上げられるようになったことが原因でしょう。
実際医師がどれほど誠意をつくしても、どれだけ努力しても、患者さんとの間のコミュニケーションエラーを完全にゼロにすることは難しいと思います。
医師が気づかないうちに引き起こしてしまった少しの不信感が、訴訟につながることもあるでしょう。
2年間という長い間、訴訟に拘束されるという心理的ストレスも相当大きいと思います。
「敗訴したら家族もろとも路頭に迷うかもしれない」という思いを抱えながら仕事をするのは想像を絶します。
そういった点から、保険にお金を払うなら「金銭的な不安は全くないという絶対的な安心感を買いたい」と考えるのが普通でしょう。
以上のことから、やはりプランとしては2億円が目安になってくるかと思います。
最大リスクをヘッジできるラインとなる「1事故2億円プラン」でも、支払う保険料は一ヶ月あたりたった3900円ほどです。
リスクの大きさを考えると、どう考えても安いと感じます。
今回は、勤務医向けの医師賠償責任保険についてまとめました。
ぜひ参考にしていただき、加入を検討していただきたいと思います。
民間医局を実際に使用した感想は以下の記事をご参照ください。

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