高齢の患者さんから、こんなセリフを聞くことがあります。
「病気にはなりたくない。でももう老い先が短いのだから、必死に病気の予防をして生活の楽しみが奪われるのは嫌だ」
このセリフは、ご高齢の方と若い方の「健康への向き合い方」の差を端的に表していると思います。
例えば、若い方が病気の予防を考える時、「20年、30年先の健康を目指す」という視点は大切です。
人間の体の”耐用年数”は、その「扱い方」によって大きく変わるからです。
丁寧に使えば使うほど、将来的な不調が少なく、長く快適に乗りこなせます。
一方で、高齢になるほど残りの人生は短くなります。
遠い将来の健康を目指すために今の生活を厳しく制限することの重要性は、若い頃より低くなってきます。
ある程度生活を制限しない範囲で、病気の予防をしていくことが大切になるのです。
医療の現場でよく使われる言葉に「QOL」というものがあります。
QOLとは「Quality of Life(=生活の質)」の略です。
QOLを大きく損なってまで「長く生きること」を目指すなら本末転倒、というわけです。
特にご高齢の方の場合、
「QOL」と「長生き」のそれぞれにどのくらいの努力を配分するか
を医療者と一緒に考える必要があります。
もちろん、高齢だからといってQOLに”全振り”し、体を粗末に扱うのはお勧めできません。
それは単に、人生を楽しめる時間を自ら縮めてしまう行為だからです。
ご本人およびご家族が、このような視点を持って健康と関わり、医療を利用することが大切です。
ここから先の詳細は「患者の心得〜高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと」を読んでいただきたいのですが、高齢者特有の注意点について、冒頭の55ページほど(全体の約5分の1)を使って解説しています。
本書における最も大切な部分ですので、ぜひお読みくださればと思います。
なお、本書では「がん検診」について紹介している部分があります。
がんは、70代、80代のいずれも死亡者数第1位の病気です(*)。
ご高齢の方の多くが毎年がんで亡くなっています。
しかし、ご高齢の方が「がんの予防」を考えるのは難しく、「これをすればがんにならない」という簡単な予防法はありません。
したがって、検診(対策型検診)によって「早めに医療の介入を受ける」ことが大切になります。
こうした背景から本書の中で、
「予防」よりは「早めに医療の介入を受けられるか」が大切
という記載をしたのですが、これには語弊があるため(特に若い方が読んだ場合)、第2刷から訂正をしています(この表現を削っています)。
「がんにかかるリスクを下げること」も、もちろん大切だからです。
詳細は、「科学的根拠に基づくがん予防」をご参照ください。
なお私自身は、主にがん診療に関わる消化器外科医という立場上、患者さんの大半は高齢者です。
私の専門分野が「高齢者医療」というわけではありませんが、一般にコンセンサスの得られる内容をまとめたつもりです。
ぜひお役立てください。
他に第二刷から改訂している部分を記載します。
・P105 L8 「患者さんの立場で・・・ とカギカッコが入る誤植あり、訂正。
・P214 L11 注釈番号の(2)の位置に誤り。P212 L9に移動。